南アジアに位置するバングラデシュ。そこには、2017年のミャンマーでの激しい武力弾圧を発端に86万人ものロヒンギャ族が避難民として流入し、難民キャンプと現地コミュニティとの共存が大きな課題となっています。
また、バングラデシュでは、5歳以下の子どもの3分の1にあたる約550万人が発育不全状態であり、新型コロナウイルス感染症の影響で休校が続く中、以前にも増して実効的な栄養改善が求められている状況でもあります。
ユーグレナ社は日本企業として初めて、国連世界食糧計画(World Food Programme、以下「WFP」)と事業連携し、ソーシャルビジネスによる「サステナブルな支援体制の実現」を目指して活動してきました。
本記事ではバングラデシュにおける活動の現状をレポートするとともに、ビジネスを通じたサステナブルな支援のあり方についてお伝えします。

ロヒンギャ難民と地元農家が平和に共存していくために

2017年8月、ミャンマーでの激しい武力弾圧を発端に、86万人ものロヒンギャ難民が、国境を隣接するバングラデシュに避難してきました。

かつては「アジア最貧国」と呼ばれていたバングラデシュ。
年々経済成長率は上がっているものの、世界銀行による収入レベルでは、現在でも「低中所得国」とされており、貧困率も20%以上です。

着の身着のままで避難してきた、さまざまな困難に見舞われている難民の生命と暮らしを守る必要があることは言うまでもありません。一方で、100万人近くの難民の流入によって大きな被害を受けている現地コミュニティへの配慮も強く求められています。
難民キャンプに住むロヒンギャ族と、元々その土地に暮らしていた現地の人々が共存していくためには、どうすればいいのか。バングラデシュ政府や各国際機関には重い課題が突きつけられているのです。

こうした状況の中、ユーグレナ社およびグラミンユーグレナ(*1)は国連世界食糧計画(World Food Programme、以下「WFP」)とパートナーシップを結びました。

WFPとの事業連携調印式の様子
WFPとの事業連携調印式の様子

グラミンユーグレナは、現地農家と緑豆(りょくとう)を契約栽培することで、技術指導や高価格買取といった農家への利益を創出します。
緑豆は、現地でよく食べられているダルスープの材料にかかせない食材で、馴染みも深いです。
そして、グラミンユーグレナが購入した緑豆をWFPが難民キャンプ内にあるWFP運営の店舗でロヒンギャ難民へ販売しています。
これにより、難民流入によって被害を受けていた現地農家の生活を支えるとともに、ロヒンギャ難民への食料供給や栄養改善につながっています。

(*1)グラミン銀行創設者でありノーベル平和賞受賞者でもあるムハマド・ユヌス氏が率いるグラミン農業財団と、ユーグレナ社が設立した合弁会社

WFPショップでの緑豆販売の様子
WFPショップでの緑豆販売の様子

地産地消の食料供給による、持続可能なソーシャルビジネス

このプロジェクトは、世界的に見ても稀有な取り組みであるとして、日本の外務省や国連機関から高く評価されています。
なぜならば、従来の難民支援においては、「他国で食料を調達して難民に配布する」ことが当たり前でした。しかしこの方法では難民流入によって大きな影響を受けた現地コミュニティを支援することはできず、持続的な課題解決には結びつきません。

このプロジェクトのビジネスモデルでは、ともすれば敵対関係になりがちな難民と現地コミュニティが互いに助け合い、海外から調達しなくても地産地消で食料を得ることができます。こうして未来永劫続くソーシャルビジネスを実現することは、ユーグレナ社の考える「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト」そのものです。

実際に2020年は、この事業を通じて約2,000人の小規模農家の雇用を生み出すとともに、のべ約110万人のロヒンギャ難民に食料を届けることができました。
2022年以降は農家の雇用を7,000人超の規模への拡大を予定しています。
ユーグレナ社では、このプロジェクトをボランティアではなく、あくまでも利益を生み、その利益を更なる問題解決に投資する為のソーシャルビジネスとして取り組んでいます。
実は、緑豆は「もやし」の原料となる作物。日本では、もやしはスーパーマーケットへ行けば1袋30円程度で買うことができます。
つまり、緑豆はバングラデシュでも日本でも日常生活で人々と関係が深い食材なのです。

現状、日本は緑豆の全てを輸入に頼っており、輸入先は中国とミャンマーで98%を超えています。また、緑豆の価格はここ数年で大きく跳ね上がっているのです。2004年に1トン約7万円だった緑豆の価格は、2015年には1トン約27万円にまで高騰。日本国内の関連企業の経営にも大きな影響が出ています。

こうした状況を踏まえて、ユーグレナ社ではバングラデシュで栽培された緑豆を日本へも輸入し、原材料費の高騰を抑えることにも貢献したいと考えています。これにより、バングラデシュと日本の双方にとってもWin-winなビジネスモデルとなるのです。

発育不全状態にある子ども達を救うため、毎日1万人に「ユーグレナクッキー」を配布

もうひとつ、バングラデシュにおけるユーグレナ社の取り組みをご紹介します。
ユーグレナ社では、バングラデシュの子ども達の栄養改善のためにユーグレナクッキーを配布する「ユーグレナGENKIプログラム」を2014年から続けています。

バングラデシュでは、5歳以下の子どもの半分が貧血状態(*2)にあり、また5歳以下の子どもの36%にあたる約550万人が発育不全状態(*3)に陥っています。日本の感覚では7〜8歳に見える背丈の子どもが、実は10歳を超えているということも珍しくありません。

(*2)BANGLADESH National Anemia Profile (2015), Khan et al. (2016)
(*3)WFP Bangladesh Country Brief December 2017

ユーグレナ社の創業者である出雲充は、18歳のときにグラミン銀行のインターン生としてバングラデシュを訪れました。子ども達を取り巻く環境を目の当たりにし、「貧しい子ども達を救いたい」という思いからユーグレナ社を立ち上げています。GENKIプログラムは、ユーグレナ社の原点とも言える活動なのです。

子ども達に配布するユーグレナクッキーは、1袋6枚入り(50g)。この1食で、バングラデシュの子ども達に特に不足している栄養素1日分を提供できます。
おいしさにもこだわり、現在では毎日1万人の子ども達へクッキーを配布しており、累計配布食は1,200万食を超えています。

ユーグレナクッキーを食べる子ども達

新型コロナウイルス感染症の影響が甚大なバングラデシュでできること

GENKIプログラムでは開始当初よりユーグレナクッキーの空袋を学校で回収しています。
ユーグレナクッキーが子ども達の口に入らず転売されたり他の人が食べてしまったりするリスクを回避すること、またごみを放置しないことを目的としており、スタッフの目の前で子ども達に食べてもらうことをルールとしていたのです。

しかし、2020年以降の新型コロナウイルス感染症によって状況が大きく変わってしまいました。
バングラデシュでは新型コロナウイルス感染症によるロックダウン(都市封鎖)のため、2020年3月から学校が休校となり、学校でのユーグレナクッキーの配布が困難になったのです。

加えて、長引く都市封鎖(ロックダウン)の影響で、食料の不足や価格が高騰し、バングラデシュの人々はこれまで以上に食料へのアクセスが困難となりました。 そこで私達は先生達と相談し、ロックダウン中でも2週間に1回の頻度で学校に来ている子ども達に対して、2週間分のクッキーを用意して配布することを開始しました。

新型コロナウイルス感染症による経済への影響は甚大で、バングラデシュでは失業者が増加しています。日本のような一律現金給付は行われていません。子どもだけでなく、大人でも満足に食べられない状況の人が増えているのです。

私達は栄養問題を解決するという原点に立ち返り、首都ダッカにてプログラム対象となっている学校に通う生徒達の家庭が多く含まれるスラム街の住民に、ユーグレナクッキー40万食を無償配布しました。

そして、とうとう2021年9月にロックダウンが解除され、実に1年半ぶりに学校が条件付きで開校しました。
学校再開後は、以前のように子ども達が学校に登校した際にユーグレナクッキーを渡すことができるようになりました。

1年半もの間、クラス全員での授業を受けられていなかった子ども達、そして先生の喜びは計り知れません。いくつかの学校では、学校再開を祝い風船や仮面が用意され、お祭りのような1日となりました。

ユーグレナクッキーを受け取る子ども達
ユーグレナクッキーを受け取る子ども達
学校再開を祝う子ども達
学校再開を祝う子ども達

もちろん、まだまだロックダウン前の状態に戻ったわけではありませんし、1年半もの休校が与えた影響は計り知れませんが、GENKIプログラムはこれからも変化に柔軟に対応しながら、子ども達に栄養を届けていきます。

ソーシャルビジネスが生む利益によって、サステナブルな支援を

ユーグレナ社では現在、ロヒンギャ難民キャンプへの支援と同様に、GENKIプログラムにおいてもユーグレナ・フィロソフィーである「Sustainability First」に基づいたソーシャルビジネスのあり方を追求しています。

ユーグレナクッキーはこれまで、ユーグレナ社の対象商品を買っていただいたお客さまからの利益の一部を活用させていただくことで無償配布を続けてきました。しかし、ずっと無償で配布し続けることはサステナブルな未来にはつながらず、支援の規模を拡大していくにも限界があります。

ソーシャルビジネスとして適切な利益を生み出し、利益によってサステナブルに支援を継続していく。その可能性はまだまだ眠っているはず。ロヒンギャ難民と地元コミュニティがWin-Winの関係になりつつあるように、バングラデシュの子ども達を取り巻く環境にもまた、ユーグレナ社が向き合うべき新たなマーケットがあると考えています。

佐竹 右行(さたけ ゆうこう)
合弁会社グラミンユーグレナ共同代表経営者
兼 株式会社ユーグレナ執行役員

早稲田大学法学部卒。野村証券に 19 年勤務後、株式会社パラカの経営に参加しマザーズに上場させる。
2010 年にノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏と合弁会社を設立し、バングラデシュにおける貧困撲滅と栄養問題解決の取り組みを開始。
2019年より国連WFPと連携し、ロヒンギャ難民とその流入に苦しむバングラデシュの小規模農家支援への取り組みを開始。本事業の予算5億円は外務省の国際支援の一環として供与された。