ユーグレナ社は2025年に創業20周年を迎えます。また、2024年はGENKIプログラム10周年の年です。分岐点を迎えるバングラデシュの取組について、現在地とこれからを、グラミンユーグレナ 共同最高経営責任者兼ユーグレナ社海外事業開発部部長の大西志麻里が語りました。

ユーグレナ社の創業は、社長出雲が学生時代に訪れたバングラデシュで、栄養失調に苦しむ子どもたちを目の当たりにし、栄養問題を解決したいという決意から始まりました。 その決意とユーグレナ・フィロソフィー「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を基盤に、バングラデシュでソーシャルビジネス領域に取り組んでいます。
ソーシャルビジネスは、社会課題の縮小が事業のスケールアップにつながる仕組みになっており、事業がうまくいくほどに、より多くの人を救えるようになるビジネスモデルです。まさに我々の目指すサステナビリティを体現した仕組みだと考えています。
※<参考>「バングラデシュとはどんな国?文化や生活スタイルを解説」https://www.euglena.jp/times/archives/17274

ユーグレナ社が取り組む2つのプロジェクト

具体的には、グラミングループとの合弁会社であるGrameen euglena(グラミンユーグレナ)と共に、大きく2つの取り組みがあります。

1つ目はユーグレナGENKIプログラムです。ユーグレナ社の全商品(食品・化粧品など)とパートナー企業の指定商品を購入いただいた売上の一部が、栄養豊富なユーグレナ入りクッキーをバングラデシュの子どもたちに無償で届けるための運営資金になるという取り組みです。提携している学校95校を通じてスラムの子どもたちに1日平均約10,000人に、平均週5日クッキーの配布を行っています(2023年12月時点)。

ユーグレナGENKIプログラムは2014年4月にスタートしており、2023年12月時点で累計1,730万食を配布しました。もともとは首都ダッカのスラム街への支援から始まった活動ですが、今はバングラデシュ全土へと支援範囲が広がっています。

これまでの10年で培った現地でのネットワークや、学校や農家にアクセスできる供給力は我々の強みだと考えています。その強みを活かして、社会課題の縮小と売上拡大を同時に叶えていきます。

将来的には、クッキーを食べた子どもたちが大人になり、我々の想いに共感し、お客様やパートナーなどの仲間となって、一緒に社会課題解決に貢献できることが理想です。

プログラムで配布する1食分のユーグレナクッキーは6枚。この1食で、バングラデシュの子どもたちに特に不足している栄養素1日分を提供できます。
GENKIプログラム提携校でユーグレナ入りクッキーを食べる子どもたち。

2つ目は「緑豆(りょくとう)プロジェクト」です。緑豆プロジェクトは、もやしの原料である緑豆を貧困問題に苦しむバングラデシュの農家に栽培してもらい、バングラデシュ国内や日本へ供給するというプロジェクトです。現在は、約8000名の農家に米の裏作として緑豆を育ててもらっています。

バングラデシュの農家は、日本の高度な栽培技術を取り入れることで収入が増え、日本は、気候問題で自国では栽培できず中国やミャンマーからの輸入に依存気味である緑豆の、新たな調達先を確保でき、もやしの安定供給に貢献します。

我々が目指すのは、ビジネスの世界で言われる「三方よし」を越えて「六方よし」をつくることです。緑豆プロジェクトで言えば、パートナーである「農家」「両国の政府」「国際機関」「パートナー企業」そして「お客さま」「ユーグレナ社」の6つのステークホルダーそれぞれの理想を実現することを目指しています。

寄付からビジネスへ:将来的にビジネスモデルを整え、ユーグレナ商品をより多くの人へ届けられるように

ユーグレナGENKIプログラムでは、クッキーに限らず、ユーグレナ社が手掛ける商品をより多くの人へ届けることを目標としています。
また今は寄付的な側面が強いので、より財務の持続性を担保できるビジネスモデルに整えることも目標の一つです。

バングラデシュは現在、中所得者層が増えており、そう遠くない未来に健康志向の時代が訪れると考えています。そうなればユーグレナ社のさまざまな商品が求められるようになり、需要の拡大に伴って、今後収益をあげるビジネスモデルがつくれるはずです。

そのためには、まず、長期的な計画を立てるためにしっかりと既存プログラムのインパクト(効果)を計測していきます。これまでも、学校の先生や保護者の方から「子どもが病気をしづらくなった」「クッキーがあるから学校に行くようになった」という声をいただいています。それらの声も含めて、これまで10年かけて生み出してきた成果をまとめられればと思っています。

加えて、今のターゲットとは違う貧困層に対してもアプローチできる仕組みを整えたいです。バングラデシュでは最貧国から中所得国へと移行する過程で、膨大なインフラ開発が進められています。都市生活者を中心に国民が潤い始めている一方で、ストリートチルドレンや僻地に住む人々など、置き去りにされている貧困層の課題も深刻です。そのような人たちを支援対象に加えたプログラムへと進化させたいと思っています。

言うのは簡単ですが、実現するためのハードルは多いです。そもそも、支援対象となる人たちは、例えばアクセスが悪い場所に住んでいる先住民族のような方々です。これまで構築したネットワークでは届けられない可能性も高く、新しい輸送システムやパートナーについて考える必要があります。こうした背景もあり、2024年4月から新たにGENKIプログラム用の寄付スキームを拡大し、応援団を増やしたいと考えています。これまではお客さまからの売上や取引先の協賛金が資金源でしたが、法人に対しても寄付の窓口を広げていきます。バングラデシュのより多くの子どもたちに栄養豊富なクッキーを届けられるよう努めてまいります。
GENKIプログラムの募金制度「GENKI-Yell(エール)」はこちら

緑豆以外の作物栽培へ挑戦し、農家の収入機会を増やす

一方、緑豆プロジェクトでは、約8,000名の農家と協業している仕組みを活かして、他の農作物づくりに挑戦したいと考えています。

背景には、バングラデシュが輸出に力を入れ始めていることがあります。農家からすると、輸出作物の生産に携わることは、収入を高めるための大きなチャンスです。冷蔵設備や輸送システムなど、検討が必要なポイントはありますが、緑豆の生産で培ったノウハウがあれば十分可能だと思っています。

バングラデシュは、労働人口の半分ほどが農家で、そのうち9割が小規模零細農家と呼ばれる人たちです。そのような農家たちにさらなる収入機会を提供し、貧困解決への貢献を高めていければと考えています。
そのためにも、まずは緑豆事業の安定化が必要です。直近の課題は緑豆の質の改善です。現状では、中国産に比べて発芽率にばらつきがあったり、色が濃すぎて違和感を持たせてしまったりしています。その解決のため、バングラデシュ国立農業研究所と協力して高品質な栽培方法の確立に取り組んだり、より純度の高い種の調達を行ったりしています

緑豆プロジェクトを通じて、緑豆栽培により農民の雇用機会を創出して
います。
緑豆(りょくとう)は、現地でよく食べられるダルスープの材料に欠かせない食材であり、同時に、日本でよく食べられているもやしの原料です。

また、安定した財務基盤づくりも課題です。ソーシャルビジネスは、社会課題解決だけでなく財務面の持続可能性も同じくらい重要だと捉えています。収益を安定的に生み出し、生み出した収益をさらに投資してサービス拡大につなげていくというよい循環を生み出すために、安定的な収益確保に向けて積極的に取り組む予定です。

世界でも前例のないビジネスモデルを成功させ、世界中から真似されるように

ソーシャルビジネスは、世界でも認知度が低く、一般的にも「事業化の難易度が高い」「資金不足」「人材不足」などの課題が指摘されていますが、個人的にソーシャルビジネスは、社会課題を解決しつつ、自分も相手も幸せにする素晴らしいビジネスモデルだと思っており、もっとビジネスの本流になっていってほしいと考えています。

そのためにも、我々の取り組みは、なんとしても成功させたいと思っています。とくに農業領域でソーシャルビジネスとして確立した成功例は世界中でまだないと認識しています。そういった意味で、我々の活動の成功は、世界でも前例のない農業領域におけるソーシャルビジネスとなり得るため、うまくいけば世界中で展開されるビジネスモデルになるはずです。また、GENKIプログラムがソーシャルビジネス化できれば、創業者出雲の夢である100万人の栄養改善という話も夢でなくなるかもしれません。

ソーシャルビジネスに挑戦する企業は多く、難易度の高いビジネスであることは間違いないですが、成功の道筋はあると信じています。これからも、今まで以上に多くの人たちの力を借りながら、地道に理想の実現に向けて頑張りたいと思いますので、是非パートナーとなって応援していただけたらと思います。

大西(写真中央)とグラミンユーグレナの仲間たち

[登場人物]
グラミンユーグレナ 共同最高経営責任者
海外事業開発部 部長
大西 志麻里(おおにし しおり)
2022年3月、ユーグレナ社に入社。4月に海外事業開発部へ配属され、9月からバングラデシュの駐在を開始。2022年より海外事業開発部部長を務め、2023年にグラミンユーグレナ共同最高経営責任者へ就任、現在に至る。