“食べずに生きられる人はいない”。わたしたちは一生のうちに約10万食を口にし、1食500円とするならば生涯で5,000万円分の食を通じて自分の体をつくっています。
その食を支える農業は今、深刻な課題を抱えています。農家数はこの10年で36%減少。農家の平均年齢は67.9歳に上がり※、化学肥料の高騰・土壌劣化・温室効果ガスの排出など、環境面でも厳しい現実が続いています。
わたしたちの食卓は、農業と切り離して考えることはできません。そして農業は、土や水、気候といった環境に支えられ、その環境はまた、わたしたちの社会のあり方とも深く結びついている。日々の食卓はとても身近なものでありながら、実は大きな循環の中にあるのです。
こうした農業の現場に、ユーグレナ社は挑戦を始めました。2025年6月に立ち上げたアグリ領域初のブランド「いきものたちにユーグレナ」が1周年を迎えた今、この取り組みはどこから始まり、何を目指しているのか。執行役員アグリカンパニー長の井上が語りました。
※ 出典:農林水産省(2021)
農業の課題に、ユーグレナ社はどう向き合うのか
─ ユーグレナ社が農業の世界に踏み込んだ経緯を教えてください。
井上:ユーグレナ社は「人と地球を健康にする」というパーパスのもと、ヘルスケア事業で微細藻類ユーグレナの機能性を研究してきました。その中で、人だけでなく動物や植物にも同じように健康をもたらす力があることがわかり、その気づきがアグリ事業の出発点でした。
同時に、農業が抱える社会課題の深刻さも見えてきました。よく言われるのは農家の高齢化ですが、それだけではなく農業由来での環境問題も深刻です。例えば、世界的には温室効果ガスの約1/4が食と農に由来するとされており、また森林伐採や土壌劣化の多くが農業に起因しているとも言われています。こうした社会課題に対して、ユーグレナという素材なら役に立てる。そう確信したことが、この領域に踏み込む大きな理由になりました。
ヘルスケア、エネルギー、そしてアグリ。一見すると別々の事業に見えるかもしれませんが、根っこにあるのはどれも、ユーグレナという素材が持つ可能性です。人だけでなく、ともに生きる動物も植物も、それを支える土も、健康であってほしい。その思いを軸に、ユーグレナが関われる場所に、少しずつ取り組みを広げています。

命を育てる素材として、ユーグレナの可能性
─ ユーグレナという素材は、農業分野においてどんな可能性を持っているのでしょうか。
井上:ユーグレナは人の健康に役立つだけでなく、動物や植物(土壌)に与えてもさまざまな良い影響をもたらすことが示唆されています。特に飼料分野では、2010年代前半から研究を開始し、10年以上にわたって知見を積み重ねてきました。その成果は、実際の生産現場でも着実に表れ始めています。
微細藻類を飼料や肥料として活用する取り組みは、世界的にもまだ珍しいものです。だからこそわたしたちは、この分野に先行して取り組んでいる企業として、ユーグレナの可能性をさらに広げていきたいと考えています。

ミャンマーの農村で芽生えた思い
─ 井上さんが農業の世界に関わるようになったきっかけを教えてください。
井上:前職の商社で肥料の原料担当に配属されたのが、農業との出会いでした。わたしたち人間はご飯を食べないと生きていけないし、おいしいものを食べるとうれしい。そんな「生活に欠かせないもの」を扱うワクワク感が農業に興味を持つきっかけになりました。
特に大きな転機となったのが、東南アジアのミャンマーで肥料の営業を担当させてもらったことです。ミャンマー全土を回って、現地の農家さんに「こういう肥料を使うともっと収穫量が増えますよ」と説明に行き、実際に試してもらうといった仕事をしていました。決して裕福とはいえない農村地域で、少しでも良い品質の作物をたくさん育てようと懸命に取り組んでいる農家の方々の姿を見て、とても胸が熱くなったのを覚えています。「農業の最前線にいる生産者のみなさまの役に立ちたい」という想いが、そのとき芽生えました。

─ 農業に携わりたいと思った井上さんが、あえてユーグレナ社に入社したのはなぜですか?
井上:自分のやりたいことと、ユーグレナ社が目指す方向がマッチしていたからです。化学肥料・化学農薬はとても便利で現代の農業において欠かせないものですが、今から何十年後・何百年後の未来を考えると、より持続可能な解決策がないかを模索することは大切だと考えています。「人と地球を健康にすること」を本気で目指すユーグレナ社ならば、これまでの通例にとらわれない新たな打開策が生み出せるはずだと思いました。
1周年を迎えた「いきものたちにユーグレナ」とは?

─ アグリ領域初のブランド「いきものたちにユーグレナ」について教えてください。
井上:「いきものたちにユーグレナ」は、ヘルスケアブランド「からだにユーグレナ」の姉妹ブランドとして生まれました。ユーグレナを飼料や肥料に活用することで、生産物そのものの力を高め、生産者の課題解決の一助となることを目指しています。
ブランドのコンセプトは「めぐれ!健康。育て!いのち。」。家畜がユーグレナ入りの飼料を食べて健康になり、ユーグレナ入りの肥料が土を豊かにし、豊かな土で育った野菜を人が食べる。この「資源と健康の循環」が、わたしたちの目指す世界の中心にあります。
また、ユーグレナ配合の飼料・肥料を使用して育てられた農畜水産物に「ユーグレナ育ち」という認証マークを付与する仕組みも始めました。いまは生産者の方を一件ずつお伺いして、品質や育て方、ご自身の想いを確認したうえで認定するという、時間と対話を重ねながら進める方法を取っています。そうした丁寧なプロセスを大切にしながら、生産現場から日々の食卓まで、サステナブルな選択肢をつないでいきたいと考えています。


<プロフィール>
井上 陽介(いのうえ・ようすけ)
株式会社ユーグレナ 執行役員 アグリカンパニー長
総合商社でアグリビジネスに長年携わり、ミャンマー駐在も経験。2022年ユーグレナ入社後、アグリ事業を立ち上げ、アグリ領域全般を管掌。グループ会社である大協肥糧株式会社の代表取締役も務める。2024年より現職。

ユーグレナの公式ファンコミュニティ「ユーグレナ・エアポート」では、アグリ事業にかけるメンバーの想いや挑戦のストーリーを、アグリ事業部のメンバーが、全4回にわたって詳しく語っています。
第2話以降も、ぜひユーグレナ・エアポートからご覧ください。
※第2回 肥料編に続く(6月26日17時配信予定)
「ユーグレナ・エアポート」会報誌 ユーグレナ・ジャーニー
