お祝いやごちそうの定番として親しまれてきた、うなぎ。
けれど、その一尾がどのように育てられているのか、生産者がどんな想いで向き合っているのかを知る機会は、意外と多くありません。
静岡県浜松市の養鰻場・高正養魚社では、うなぎを「早く育てる」だけではなく、より良く、より美味しく届けることを大切にしながら、新しい挑戦を重ねています。現在は、練り餌に微細藻類ユーグレナを混ぜて与える取り組みも始まっています。
今回は、高正養魚社の代表・高橋さんに、うなぎの育て方や品質へのこだわり、ブランドうなぎへの挑戦、そして環境への想いまで伺いました。
うなぎは、どのように育つのか?
―まずは基本的なところから教えてください。うなぎの養殖は、どのように始まるのでしょうか。
高橋さん:はじめはシラスウナギと呼ばれる稚魚を池に入れるところから始まります。池に入れてからは、まず魚の香りが強い餌で餌場を徐々に覚えてもらい、その後、水で練った練り餌に切り替えていきます。現在は、この練り餌にユーグレナを混ぜ、朝と夕方の1日2回与えています。
―同じように育てていても、成長に違いは出るものなのでしょうか。
高橋さん:出ますね。たくさん食べる子もいれば、あまり餌に興味がなさそうな子もいて、本当にそれぞれです。よく食べる子は、同じようによく食べる子同士でいた方が食いつきが良くなるので、「分養」といって池を分ける作業を何回も行います。成長度合いやサイズが近い子たちを同じ場所にすることで、それぞれが育ちやすい環境を整えています。うなぎにも個体差があって、見ていると性格のようなものも感じますね。
“早く育てる”だけではなく、“より美味しく育てる”へ
―高橋さんが、うなぎを育てるうえで大切にしていることは何ですか。
高橋さん:これまでの養鰻場は、うなぎを病気にさせずに、できるだけ早く育てることを重視することが多かったと思います。もちろんそれも大事なのですが、私は少し視点を変えて、より良い、より美味しいうなぎを届けることにこだわりたいと思っています。そのために、品質をきちんと確認し、点数をつけて評価するような取り組みも行っています。
―その考え方には、何かきっかけがあったのでしょうか。
高橋さん:もともと築地で卸売りの仕事をしていたので、やはり現場で「美味しいものが求められる」ということを強く感じてきました。品質の良し悪しのものさしや、求められているものの基準をその仕事で培えたからこそ、「こうしたらもっと良くなるのではないか」と考えるようになったんです。今の養殖にも、その経験が活きていると思います。


メスうなぎブランド「でしこ」に込めた挑戦
―最近の挑戦として、新ブランド「でしこ」を立ち上げられたそうですね。
高橋さん:はい。うなぎは成長過程で性別が分かれる魚で、養殖ではこれまでほとんどが雄に育っていました。一方で、大豆イソフラボンを餌に入れることでメス化することが分かってきています。メスのうなぎは、食べ応えがありながらも柔らかいのが特徴です。そこで、厳格な基準をクリアしたメスうなぎを「でしこ」として販売し、より美味しいうなぎを届ける取り組みを進めています。
浜名湖うなぎ・「でしこ」についてはこちら
大豆イソフラボンに関する研究についてはこちら
―研究成果を現場で形にするのは、簡単なことではなかったのではないですか。
高橋さん:最初は、大豆イソフラボンの活用に対して周囲の反応があまりなく、難しさも感じました。でも、誰かが試験場での結果を実際のフィールドで試さないと前に進まない、という思いがあったんです。自分がやらずに別のところで最初の一手が始まるのは悔しい、という気持ちもありました。試してみて、もし革命的なことが起きたら人生は楽しいですし、そのときのワクワク感を、今はユーグレナにも感じています。


「変えていく勇気」を持ち続ける
―うなぎを育てる仕事の中で、楽しさと難しさはそれぞれどこにありますか。
高橋さん:自分の想定どおりに餌の量を調整できたり、出荷がうまくいったときは、やはり嬉しいですね。あとは、うなぎたちがたくさんご飯を食べてくれているときは本当に嬉しくて、「お腹いっぱい食べろよ」と、つい少し多めに餌をあげたくなることもあります。それくらい愛おしい存在です。
一方で、難しいのは餌を食べないときや、元気があまりなさそうに見えるときです。この方法で合っているのか、もっと良くできたのではないかと、常に勉強ですね。うなぎたちの命にも関わりますし、シラスウナギは年々高価になっているので、何かを変えること自体が難しくなりがちな業界でもあります。だからこそ、変えていく勇気を持って、毎年少なくともひとつは新しいことに挑戦するようにしています。

―新しいことを続けられる理由は何でしょうか。
高橋さん:関わってくださる方が、チャレンジに肯定的なのはありがたいですね。挑戦することが高正養魚の特徴のひとつになって、「今年はこんな感じなんだね」と一緒に楽しんでくださっていると感じます。あと大切にしているのは、相手の話をきちんと聞くことです。相手の想いや、何をやりたいのかを理解したうえで、自分にも嘘をつかず、自分のやりたいことも重ねながら仕事をしています。

「海をきれいにしたい」――養殖の仕事につながる原点
―今回、ユーグレナにも関心を持っていただいた背景には、どんな想いがあるのでしょうか。
高橋さん:まず、ユーグレナによってうなぎたちがより元気に育ってくれたら嬉しいですね。たくさん餌を食べて元気に育った子たちは、やはり美味しいんです。あとは、一緒に新しいことに挑戦していることが伝わるような、ブランドづくりや発信もできたらいいなと思っています。うなぎを育てる土壌である地球環境にも配慮しながら取り組んでいけたら嬉しいですね。
―環境への想いは、以前からお持ちだったのですか。
高橋さん:はい。実は、湾岸戦争で海が汚れているニュースを見たことがきっかけで、「海をきれいにしたい」と思うようになり、大学に進学し、今の仕事につながっています。うなぎの養殖は、水産業の中でも特に餌に魚粉を使うので、限りある海の資源に支えられている面があります。そのため、低魚粉化は大切だと思っています。ただ、うなぎの好みもありますし、食べてもらえなければ意味がないので、バランスを取りながら餌の開拓を進めています。環境への配慮も踏まえた取り組みをしている企業と情報共有しながら、今後も美味しくうなぎを食べてもらえるように頑張りたいですね。

全国でも数少ない昔ながらの養鰻池で育てる
うなぎを、家族の“定番”に
―高橋さんは、うなぎをどんなときに食べてほしいと思っていますか。
高橋さん:ぜひ、家族で食べてほしいですね。たとえば、お子さんが実家に帰ってきたときの定番になったり、家族の大切なイベントにうなぎを囲んだり。そんなふうに、うなぎによって家族や親しい人と過ごす時間や対話が生まれたらいいなと思います。そのためにも、これからも安心安全で、美味しいうなぎを育てていきたいです。

出荷タイミングが合えば高正養魚社のうなぎが食べられる
高正養魚社への取材を通じて見えてきたのは、うなぎの美味しさは、単に品種や調理法だけで決まるものではなく、日々の観察、育て方への工夫、挑戦を続ける姿勢、生きものへのまなざしによって支えられている、ということでした。
その違いは、実際に食べることでより明確に感じられます。高正養魚社のうなぎをユーグレナの社内メンバーで、別地域のうなぎと食べ比べを行ったところ、「とても柔らかく、でも身の厚さがあって美味しい」「臭みがなく、脂がさっぱりしていて食べやすいのに満足感がある」といった声が上がり、その美味しさに盛り上がりました。
こうした味わいの背景には、「より良く、より美味しく届けたい」という高橋さんの想いがあります。その言葉の裏には、卸売の経験で培った目利き、現場で新しい技術を試す勇気、そして環境への長年の想いがありました。そうした背景を知ることで、一尾のうなぎは“ごちそう”であるだけでなく、生産者の思想や技術が詰まった価値ある食材として、より深く届いてきます。
浜名湖で育まれる高正養魚社のうなぎ。その美味しさの背景には、変化を恐れず、うなぎにも、人にも、環境にも誠実であろうとする生産者の姿がありました。
<プロフィール>
有限会社高正養魚
代表取締役 高橋伸幸
浜名湖の伝統的な養鰻池を受け継ぎ、現代技術と掛け合わせた養殖に取り組む。元東京都中央卸売市場勤務で培った目利きを活かし、「本当に美味しい鰻」を追求するため帰郷。業界の中でも挑戦を重ね、毎年ひとつの課題解決を掲げながら、新たな飼育方法や飼料の開発に取り組み、鰻のさらなる付加価値向上に取り組む。

