途上国で生産される製品を公平に取引することを目指すフェアトレードは、徐々に日本でも普及しはじめ、最近ではスーパーやコンビニでもフェアトレードのチョコレートなどを見かけるようになりました。この記事では、フェアトレードの意味や生まれた背景、そして一見良い取り組みのように思えるフェアトレードにどのような問題点があるのかを解説していきます。

そもそもフェアトレードとは何か?

フェアトレードとは、直訳すると「公平・公正な貿易」のこと。グローバル化にともない、あらゆる国や地域の産物を手軽に購入できるようになった一方で、途上国では劣悪な労働環境や適正な対価を得られないなど、さまざまな深刻な問題が発生していました。そのような状況を改善するために生まれたのが、フェアトレードというしくみです。

フェアトレードのしくみと原則

フェアトレードとは、原料を栽培する農家や製品を生産する労働者が、適正な対価を得ることを保証する貿易のしくみのことです。これにより、途上国の立場の弱い生産者や労働者の生活改善と自立を目指しています。

フェアトレードは生産者と輸入側の両者が定められた基準をクリアし、さらに第三者機関によって認証されることで、フェアトレードのラベルが付いた製品を取り扱うことができるようになります。第三者機関として世界的に最も認知されているのが「国際フェアトレードラベル機構」という組織であり、この機構は経済、社会、環境という3つの基準を設定しています。

● 経済的基準
国際フェアトレードラベル機構では、産品と生産地域ごとに、「フェアトレード最低価格」と「プレミアム(奨励金)」を設定しています。フェアトレード最低価格とは、輸入業者が生産者組合に保証する買取価格のことで、保証しなければフェアトレード認証を受けることはできません。
これに加え、輸入業者は地域の社会開発のために使われる資金としてプレミアム(奨励金)も支払う必要があります。プレミアムの用途は生産者組合が話し合い決定し、労働環境改善などに使用されます。また、長期的な取引の促進や、必要に応じた前払いの保証なども、経済的基準として設定されています。

● 社会的基準
生産者や労働者を守るために、安全な労働環境や民主的な運営、差別の禁止、児童労働や強制労働の禁止などが社会的基準として設定されています。

● 環境的基準
生産国や地域の環境を保全するために、農薬・薬品の使用削減と適正使用、有機栽培が奨励されています。また、土壌、水源、生物多様性の保全や、遺伝子組み換え品の禁止なども環境的基準として設定されています。

このような基準が細かく審査され、クリアした生産者や輸入業者などが、認証ラベルの付いた製品を取引できるようになります。また、フェアトレードはどの国でも認められるわけではなく、対象となる国や地域が定められています。主に途上国と呼ばれる国々や地域が対象です。

フェアトレードが生まれた背景

フェアトレードというしくみが生まれた背景には、ヨーロッパ諸国による植民地化の歴史があります。16世紀以降にヨーロッパ諸国が南米やアジア、アフリカを征服し、そこに大規模な農園をつくりました。現地の人々は安い労働力として買い叩かれ、大量生産のしくみができあがります。その後、植民地だった国々は独立しますが、産品を安く輸出する状態から抜け出すのは難しく、格差は開くばかりでした。

そんな途上国の現状がグローバル化とともに明るみになり、劣悪な環境や貧困が世界的に注目されるようになりました。特に2013年にバングラデシュで起きた「ラナ・プラザの悲劇」は世界中を震撼させました。先進国のさまざまなアパレルブランドの裁縫工場が入ったラナ・プラザというビルが崩壊し、多くの負傷者や死者が出ました。これをきっかけに、途上国の生産現場の衛生環境や強制労働、児童労働が世界的に問題になり、その流れでフェアトレードの重要性が着目されるようになりました。

フェアトレードの普及

フェアトレードは、現在では世界的に広く認知されるようになりました。フェアトレード・ラベル・ジャパンによると、2017年の世界のフェアトレード認証製品は、推定で約85億ユーロ(約1兆742億円)の市場規模にまで成長しています。
また、フェアトレード・インターナショナルには、75か国160万人以上の生産者や労働者と、30か国の消費国が参加しており、世界中でフェアトレードに関する活動が行われています。

一方日本においても、フェアトレードの普及が少しずつ広がりを見せています。2022年のフェアトレード認証製品の推計市場規模は195.6億円となり、前年の24%増という結果となりました。また、フェアトレードを取り扱う店舗も増えており、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでもフェアトレード認証マークのついた商品を良く目にするようになったり、大手コーヒーチェーンでは、フェアトレードのコーヒー豆も扱われるようになっています。日本はコーヒー消費大国の1つなので、コーヒー豆のフェアトレードが普及すると影響力も大きいでしょう。

しかし、日本市場が広がっているとはいえ、欧米諸国と比べて市場規模は17分の1程度と、依然としてその規模は小さいままです。今後のさらなる飛躍が期待されています。

フェアトレードの商品にはどんなものがある?

日本でも少しずつ認知度が高まってきたフェアトレード製品ですが、実際に商品を買うには、どうしたらよいのでしょうか。買い物の目安となる認証マークや、対象商品をご紹介します。

代表的なフェアトレード認証マーク

フェアトレードによる商品かどうかを見極めるには、認証マーク、ラベルが参考になります。ここでは代表的な認証ラベルを二つご紹介します。

1. WFTO認証ラベル
WFTO(世界フェアトレード連盟 :World Fair Trade Organization)とは、フェアトレード組織が1989年に結成した国際的なネットワークです。世界79か国が加盟しています。商品ごとに認証するのではなく、組織全体でフェアトレード基準を満たしているかを審査するのが特徴です。

2. 国際フェアトレード認証ラベル
国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)は1997年に設立した組織です。日本ではフェアトレード・ラベル・ジャパンというNPO法人として活動しています。WFTOが組織に対して認証するのに対し、こちらはバナナやコーヒーなどの商品ごとに認証するため、一般的な企業も導入しやすいという特徴があります。

なお、これらの他にもフェアトレードの取り組みをする組織や商品は多くあるため、信頼できる団体の取り扱う商品を選ぶことが重要になります。

代表的なフェアトレード商品

国際フェアトレードラベル機構では、主に以下のような商品をフェアトレードの対象商品としています。

① コーヒー豆
コーヒー豆はフェアトレードの代表的な商品の一つです。コーヒー豆の生産国はブラジル、ベトナム、コロンビア、インドネシア、エチオピアが上位を占め、その多くが途上国です。コーヒー豆は価格変動が激しいうえ、市場の情報や販売手段を持たない生産国では、輸入業者などに頼らざるを得ない状況です。

② チョコレート
チョコレートの原料であるカカオ豆は、コートジボワール、ガーナ、インドネシアの3国だけで世界の生産量の約67%を生産しています。カカオ生産によって生計を立てている人の中には児童も多く、その数は約1億5,200万人にものぼるため、途上国の深刻な問題になっています。児童労働の背景にある貧困の問題を解消するために、フェアトレードで適正な対価が支払われることを目指しています。

③ 茶葉
世界中で飲まれているお茶は、インド、スリランカ、東アフリカ諸国などで生産されたものも多く、それらはかつてイギリスの植民地でした。その名残で、現在も茶畑で働く労働者は低賃金、劣悪な環境で働かされているケースが多いのです。さらに近年の市場価格の下落により、その環境は悪化している地域もあると言われています。

以上のような代表的な製品以外にも、ワインやビール、ジュース、ビスケット、化粧品、コットン製品など、フェアトレード対象商品は多岐に渡ります。日頃から身近にある食べ物や日用品も、実は深刻な環境から生産されたものかもしれません。

フェアトレードの問題点・課題は?

フェアトレードは多くの場合、その目的を達成するために有効な手段となっています。しかし、フェアトレードにはまだ多くの問題点が指摘されています。ここではしくみ自体の問題点と、普及のための課題をご紹介します。

フェアトレード認証というしくみの問題点

まず、フェアトレード製品として取引するためには、第三者機構の認証が必要です。これによって信用度が高まるため、必要な制度である一方、認証を取得するためには各工程における基準に適合する必要があります。しかしこの基準は法律ではないため、なかには基準があいまいなものもあります。そのため、実際はフェアトレードとはいえない取引による商品でもフェアトレードを名乗れる可能性があるというわけです。

特に日本は国際認証商品ではないフェアトレード商品が多いという特徴があります。一般的に欧米では国際認証商品が主流ですが、日本はこれまでNGO型のフェアトレード団体によりフェアトレード商品が展開してきたという背景もあり、個別に活動している団体も多いです。さらに近年では環境配慮商品のラベルも増え、消費者によほどのリテラシーがないと選ぶのが難しい状況です。

フェアトレード商品の競争力の課題

フェアトレード認証には、最低保証価格やプレミアムというコストが加わるため、販売価格がほかの商品より高くなる傾向があります。また、大量生産が難しい場合や、種類やレパートリーが少ない場合は、フェアトレード以外の一般製品に競争力で負けてしまいます。価格に見合うだけのブランド力や付加価値が期待されるため、普及の課題になっています。

フェアトレードの認知度の課題

フェアトレード・ラベル・ジャパンによると、2020年の国際フェアトレード認証ラベルの国内認知度は18.8%でした。認証ラベルの中では比較的高かったものの、まだまだ十分認知されているとは言えません。認知度を高め、その意義を理解し、賛同されることで、初めてフェアトレード商品が選ばれることになります。今後は認知度とともに、消費者に選ばれるように、わかりやすいプロモーションや啓発活動、商品ラインナップの充実が求められます。

フェアトレードに関する取り組みや活動は?

フェアトレードを推進するための取り組みとして、国内外ではどのような例があるのでしょうか。ここではフェアトレードタウンと、サステナブル調達ガイドラインについてご紹介します。

フェアトレードタウン

フェアトレードを街全体で取り組む「フェアトレードタウン」という活動があります。フェアトレード商品の普及と、フェアトレードに対する意識を高めることを目的とした取り組みで、2000年にイギリスの小さな町であるガースタングで誕生、その後世界各国に広がりました。 フェアトレードタウンに認定されるには、啓発活動や商業施設でのフェアトレード商品の販売など、いくつかの基準をクリアする必要があります。

イギリスも当時は日本同様、フェアトレードへの認知度は高くなかったものの、フェアトレードタウンが効果的に機能し、普及を推し進めました。現在では30か国以上、2000以上の自治体がフェアトレードタウンとして認定されています。日本でも2011年6月、熊本市が日本で初めて認定され、その後も名古屋市や札幌市など6都市が認定され、広がりが期待されています。

サステナブル調達ガイドライン

日本企業のフェアトレードに関する取り組みとしては、企業が商品やサービスを調達する際に、社会的・環境的な影響を最小限に抑えるための方針や手順をまとめた「サステナブル調達ガイドライン」があります。企業が調達する商品やサービスには、原材料の調達、製造プロセス、輸送、廃棄処理など、多くの過程が含まれます。これらの過程において基準を設けることで、サプリチェーン全体でサステナブル調達を目指す取り組みです。

具体的には、人権や労働環境、自然環境に配慮した取引先の選定、モニタリングなどの方針を組み込むことが求められます。

まとめ

フェアトレードは、途上国の生産地と公平に貿易を行うことで、貧困からくる児童労働や強制労働などの深刻な問題を解消することを目指した取り組みです。これまで多くの実績があり、改善につながる例もある一方で、認証制度などのしくみの問題や、認知度や啓発における課題も多いのが現状です。

フェアトレードの普及のためには、消費者が積極的にフェアトレードマークのついている商品を探し、購入することから始まります。ぜひコンビニやスーパーで探してみましょう。

文/福光春菜