ミャンマーでの激しい武力弾圧を発端にバングラデシュへ流入した約100万人のロヒンギャ難民。現地では難民キャンプと現地コミュニティとの共存が大きな課題となっています。一方バングラデシュでは、現在5歳未満の子どもの3分の1にあたる約516万人が発育不全状態にあり※1、実効的かつ継続的な栄養改善が急務です。
こうした中、ユーグレナ社は2019年に日本企業として初めて国連世界食糧計画(World Food Programme、以下「WFP」)と事業連携。2022年5月には2回目の事業連携に関する契約を締結しました※2。グラミンユーグレナ社がバングラデシュにて展開する緑豆(りょくとう)栽培事業「緑豆プロジェクト」を通じて、バングラデシュの小規模農家の所得向上支援、および難民キャンプに避難しているロヒンギャ難民への食料支援を行うと同時に、新たに難民キャンプ周辺で生活する住民の雇用創出も目指しています。
さらに今年6月には、2014年からバングラデシュの子どもたちに栄養豊富なユーグレナクッキーを配布する「ユーグレナGENKIプログラム」※3からの発展形として、「ユーグレナ入りふりかけ」の販売を開始し、事業成長が社会問題の解決に直結する持続可能なビジネスモデルの構築に挑んでいます。
本記事では、ソーシャルビジネスによってサステナブルな支援体制の実現を目指すユーグレナ社の最新活動状況をお伝えします。

※1 https://www.unicef.or.jp/kodomo/poster2020/bangladesh.html
※2 https://www.euglena.jp/news/20220511-2/
※3 https://www.euglena.jp/genki/ 2022年12月にクッキー配布数が累計1,500万食を突破

世界中の難民問題解決につながる「緑豆プロジェクト」

2017年8月、ミャンマーからバングラデシュに大量のロヒンギャ難民が流入し、その数は現在100万人規模に到達すると見られています。バングラデシュ政府や国際機関を中心に継続的な支援が行われていますが、彼らの生活を支えていくことは現在も喫緊の課題となっています。課題は難民支援だけではありません。もともと国として経済的に豊かではないバングラデシュに100万人もの人が着の身着のままなだれ込んできたことで、地元コミュニティにも大きな影響を受けています。難民によって勝手に家を建てられてしまったり、難民キャンプの周辺で生活をしている小規模農家の畑が荒れたりなどという問題も起きており、地元コミュニティとロヒンギャ難民との間には対立感情が生まれていました。
地元コミュニティとロヒンギャ難民の共存を実現するためには何が必要なのか。その解決策として私たちは「緑豆(りょくとう)プロジェクト」に取り組んでいます。緑豆とは、現地でよく食べられているダルスープにかかせない食材で、非常になじみ深い食材です。ダルスープは日本のお味噌汁に近いと言えばイメージしやすいでしょうか。また、緑豆は日本では「もやし」の原料にもなっています。
私たちはロヒンギャ難民が流入した地域の小規模農家さんに緑豆の栽培方法を指導し、収穫された緑豆を市場価格より高値で買い取り、国連WFPを通じてロヒンギャ難民キャンプ内のショップで販売する仕組みを作りました。
これによって、これまで敵対関係にあった人々が、「緑豆を作る人」と「緑豆を買う人」の良好な関係になっていったのです。現在では約6,000人の農家さんの仕事を創出し、500万人分の食料を提供できる体制にまでなりました。

国連WFPとの事業連携で実施している緑豆プロジェクトのビジネスモデル図

各国政府が拠出する資金で食料援助をし続けるのには限界がありますが、現地で地産地消すれば、世界中から食料を集める必要がなくなります。これは難民支援におけるサステナブルな課題解決方法だと言えます。世界的に見ても過去に同種の事例はありません。この取り組みが広がれば、世界中の難民問題解決につながる日本発のイノベーティブな取り組みとなるはずです。
2019年に実施した国連WFPとの事業連携で生まれたこの一連の成果が評価され、2022年5月には2回目となる事業連携が決まりました。また、これまでの活動について2021年12月には第5回ジャパンSDGsアワードにて「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞※4、2022年7月には「第8回安藤忠雄文化財団賞」を表彰いただきました※5

※4  https://www.euglena.jp/news/20211224/
※5  https://www.euglena.jp/news/20220708-2/

総理大臣官邸において行われた表彰式の様子
「第8回安藤忠雄文化財団賞」表彰式の様子

win-winな関係構築による、持続可能なソーシャルビジネス

難民支援は世界的に見ても最重要課題の一つであり、緑豆プロジェクトは今後も拡大していかなければなりません。しかし私たちは、単なる慈善事業としてこの取り組みを継続していこうとは考えていません。社会課題を解決しながら収益を上げ事業を成長させていく「ソーシャルビジネス」に強くこだわっています。
では、私たちはどうやって利益を生み出していくのか。一つは現地で緑豆を国連WFPに売却することで得られる利益。そしてもう一つは、バングラデシュで作られた緑豆を日本へ輸出することで得られる利益です。
緑豆は南アジアのポピュラーな食材であると同時に、私たち日本人にとってもなじみ深い存在です。なぜなら、私たちの食卓に上がる「もやし」の原材料が緑豆だからです。

現在、日本では緑豆の調達はすべて輸入に頼っており、そのシェアは中国が約8割、ミャンマーが約2割となっています。しかし国際情勢の変化やミャンマーの軍事政権台頭などによって緑豆の価格は高騰。ウクライナにおける戦争も影響し、2022年現在は1トンあたり30万円を突破しています。

もやしの市場規模と価格

そこで私たちは、バングラデシュで栽培された緑豆の半分を日本へ輸出することにしました。事業拡大に向けては設備投資も必要です。日本の設ける高い品質を保証するため、バングラデシュに専用工場を作って選別機械を導入しました。収穫直後の緑豆は虫が付いていたり、さやが付いていたり、サイズもバラバラ。これをきれいにして選別するところまで外注せずに私たち自身でやっています。また、日本のもやしメーカーさんへの営業活動も私たち自身で行います。川上から川下まで事業を仕組み化したのです。

緑豆プロジェクトの概要図

バングラデシュ産の緑豆は1トンあたり6〜7万円。高騰する緑豆相場の価格差をうまく活用して収益を上げることに成功しました。今後はさらに規模を拡大し、ボリュームディスカウントによって日本の食料供給に貢献していきたいと考えています。これによって、現地の農家さんの収入増にもつながります。

1袋14円の「ユーグレナ入りふりかけ」で栄養状態を改善し、利益を生む

もう一つ、私たちがバングラデシュで力を入れていることがあります。現地の子どもたちの栄養問題改善に向けた活動です。 バングラデシュでは5歳未満の子どもの3分の1にあたる約516万人が発育不全状態にあり、実効的かつ継続的な栄養改善が急務です。そこで私たちは、バランス良く栄養が含まれたユーグレナクッキーを製造し、スラム街で暮らす子どもたちへ配布してきました。この取り組みは「ユーグレナGENKIプログラム 」として継続しており、2022年12月現在、累計1,400万食以上を配布しています。

ユーグレナクッキーを食べる子どもたち

GENKIプログラムは、ユーグレナグループやパートナー企業の商品売上の一部を使って運営しているため、規模や拡大スピードには限界があり、また、永続的に無償で配布し続けることはできないでしょう。
ここでも私たちは、ソーシャルビジネスの観点で課題解決策を考えました。スラムに住む人たちでも買える値段で、栄養豊富な食品を提供するにはどうすればいいのか。たどり着いた答えが「安価で栄養豊富な“ユーグレナ入りふりかけ”を作る」というものでした。
バングラデシュでは日本と同じくお米が主食です。そこで、約3年にわたり南アジアの長粒米に合う味付けを研究し、何度も試作を重ねて「Rice Bondhu(ライス・ボンドゥ)」と名付けたふりかけを完成させました。
「Rice Bondhu (ライス ボンドゥ)」の意味は、現地の言葉で「ごはんの友」という意味で、現地の人が好むビリヤニ味※6のふりかけが、毎日の新しいごはんの友となり、美味しく食べながら栄養問題が解決するよう願いをこめて名前を付けました。日本で販売している健康食品と同程度の石垣島ユーグレナが含まれています。

※6 ビリヤニとは、スパイスとお肉の炊き込みご飯のような料理で、バングラデシュやインドなどその周辺国で広く親しまれている

ユーグレナ入りふりかけ「Rice Bondhu(ライス ボンドゥ)」

販売価格は1袋10タカ※7(約14円)。2022年7月に販売を開始し、バングラデシュ最大のチップスメーカーであり、バングラデシュ国内を網羅する圧倒的な販売ルートをもつボンベイ社と連携してバングラデシュ国内の数万に上る小規模商店に流通しています。プロモーションにも力を入れており、今後どんどん売上が伸びていくはずだと期待しているところです。
※7 タカはバングラデシュの通貨単位

Rice Bondhuを販売している様子

1袋10タカ(約14円)という価格を聞くと、「ユーグレナ社やボンベイ社、小売店それぞれが利益を確保できるのか?」と疑問に思う方もいるでしょう。もちろん事業として成立させることに手抜かりはありません。製造コストや輸送コストを徹底的に分析し、関係者全員に納得してもらえるだけの利益幅を生み出しています。小規模商店も含め、誰もが損することのない仕組みを実現し、将来的には1日100万人に販売することを目標としています。
私たちは、「社会課題を解決できるなら損をしてもいい」とはまったく思っていません。どんなに主張が正しくても、利益を生まないきれいごとだけでは誰からも相手にされなくなるでしょう。利益を追求する企業としてソーシャルビジネスを成り立たせるからこそ、真にサステナブルな社会課題解決を実現できるのだと考えています。

バングラデシュの問題は「対岸の火事」ではない

未だ出口の見えないコロナ禍や、ウクライナをはじめとした世界各地の紛争。激変する、先の見えない世界情勢の中でソーシャルビジネスを進めるうちに、いつしか「難民問題は日本人にとって対岸の火事ではない」という思いを強く抱くようになりました。ミャンマーでは、かつてノーベル平和賞を受賞したアウンサン・スー・チー氏が依然として軟禁状態に置かれ、彼女を支えていた4名の側近が処刑されてしまうというショッキングな報道もありました。軍事独裁政権の方向性を変えることが難しい今だからこそ、民間の活動がより重要になっていると感じます。
難民となってしまった人たちは他に行くあてもなく、一つの場所に留まらざるを得ません。そうしたところへ訪れるのは支援者だけではありません。国際的なテロ組織の関係者が現れ、社会の矛盾や資本主義の問題を説いて「給料を出すから私たちの活動に参加しないか?」と勧誘する。そんな話を耳にすることも珍しくないのです。そうして、仕事としてテロ活動に参加する人が増えていってしまう。

ロヒンギャ難民キャンプ(2020年3月撮影)