ユーグレナ研究開発部門の主催で、「ユーグレナ フューチャーマテリアルカンファレンス 2020」が2020年8月31日にライブ配信で開催されました。本イベントでは、未来に求められる食品素材の展望として、宇宙における食に関する開発の方向性や、微細藻類等の可能性についてのプレゼンテーション・ディスカッションが行われました。今回、その一部を書き起こしでご紹介。今回は後編として、宇宙キャスターとして活躍中の榎本麗美さんと、ユーグレナ 執行役員 研究開発担当の鈴木健吾との対談の様子です。(前編はこちら

SFをノンフィクションにする

(左から)鈴木健吾、榎本麗美さん

鈴木建吾(以下、鈴木):こんにちは。ユーグレナ社の創業メンバーで、執行役員 研究開発担当の鈴木と申します。ここからは、より研究開発の側面から未来食・フードテックというものを考察するのに宇宙食とユーグレナの可能性についてお話できたらと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。

榎本麗美さん(以下、榎本):よろしくお願いいたします。

鈴木:本題に入る前に自己紹介をさせていただきます。私は東京大学大学院在学中の2005年に、創業メンバーとしてユーグレナ社の立ち上げに関わりました。そして、その後現在にいたるまで約15年にわたり微細藻類ユーグレナなどの研究開発を行ってきました。現在は、ユーグレナ社の業務に加え、マレーシア工科大学の客員教授、東北大学大学院特任教授などにも就任し、研究開発の推進とともに後世の育成などにも力を入れています。

本日は、「SFをノンフィクションにする」ということをテーマにお話しさせていただきます。つまり、SF(サイエンスフィクション)の代表的なテーマである「人類が宇宙空間で長期滞在する」ということなどを現実(ノンフィクション)にするために、ユーグレナ社、および微細藻類ユーグレナはどのように貢献することができるかということについてご紹介したいと思います。

ユーグレナの特徴と可能性

鈴木:宇宙空間でのユーグレナの可能性に触れる前に、まずユーグレナの特徴や可能性についてご紹介します。最も大きな特徴としては、植物のように光合成をする一方で、鞭毛(べんもう)を持っていて動物のように動き回るということがあげられます。この植物と動物の両方の性質を持っているというのは非常に特徴的です。こういった性質を持っていますから、栄養素としても植物性、動物性由来など実に59種の豊富な栄養素を含んでいます。

榎本:すごく不思議ですよね。植物なのに動物のように動くというのはおもしろいですよね。

鈴木:そうですね。ほかにも細胞壁がないので、食べたときに消化吸収がしやすいことや、ユーグレナしか持っていないパラミロンという成分が含まれていることなども特徴的です。また、低酸素環境にするとパラミロンを油に変えるという面白い性質も持っています。その特徴を活かして、ユーグレナ社ではバイオ燃料の事業に取り組んでいます。

榎本:なるほど、でも低酸素環境にするのはちょっとかわいそうですね。

鈴木:そうですよね。でも低酸素環境にすることで効率的に油をためてくれるので、貴重なバイオ燃料の原料になってくれています。すこしかわいそうですが、地球のためにすごく頑張ってくれています。

ユーグレナ社はこれまで、ユーグレナを食品や化粧品、またバイオ燃料として活用してきました。これらに加えて他にも色々な利用用途があり、最近では、肥料やバイオマスプラスチックとしての開発にも取り組んでいます。

ユーグレナの成分を肥料に入れることで、土壌の細菌が活性化して、農作物が育つんじゃないかと考えています。

榎本:肥料ですか。人間の体にも良いので、植物にも良いということですね。

鈴木:そうですね。土の中にユーグレナを混ぜることで、土壌細菌が活性化するなどの効果があり、植物の成長を助ける可能性を見つけています。

また、ユーグレナからバイオ燃料を精製する過程でできる残りものを利用して、バイオマスプラスチックも開発しています。現在は従来のプラスチックにユーグレナ由来のプラスチックを50%(つまり1:1の割合で)混ぜ、フォークやスプーンなどを作っていますが、今後バイオマスプラスチックの混合比率を上げていき、ゆくゆくは100%ユーグレナ由来の製品も開発していきたいと考えています。
実現してたくさん利用されれば、化石由来の成分利用が減って、地球にやさしい持続可能な環境づくりに貢献できると思っています。

バイオマス含有度50%のユーグレナ・プラスチックで作成したフォークとスプーン

榎本:色は緑ではないんですね(笑)
でも、いいですね!紙ストローだとすぐふやけてしまうので、ユーグレナ由来のプラスチックストローを早く販売してほしいです。

鈴木:ここまで、現在までにわかっているユーグレナの特徴、そして今後の可能性についてご紹介してきましたが、実は並行して新しい種類のユーグレナを見つける活動も行っています。2019年から「みんなのミドリムシプロジェクト」と名付けた活動です。

ユーグレナは、すでに100を超える種類が確認されているのですが、まだまだ見つかっていない種類がいる可能性が高いといわれています。我々は、ユーグレナグラシリスという名称のものを取り扱っています。色々なバリエーションのユーグレナを求めて、現在、有志のみなさんにもご協力いただき、全国の池などから水を採取し、新種のユーグレナを見つけるプロジェクトを進めています。クラウドファンディングを活用して、全国から水藻を送っていただくことも行っています。そうすることで、地方の水藻からおいしいユーグレナが出てくるかもしれないと思っています。そういう意味でこのプロジェクトは面白いと思っています。今後は、より美味しいユーグレナなど、新しい特徴を持つユーグレナを発見して新たな製品の開発にも取り組みたいと考えています。

変化する「食」に関する価値観

鈴木:さて、ここからは宇宙の話に。ユーグレナ社も参画している「SPACE FOODSPHERE(スペースフードスフィア)」は、2040年には月面基地に1000人が居住し生活しているというシナリオを立てています。宇宙空間での長期滞在を実現するために、まずは「食」の分野で貢献していきたい。その前提にもなるのですが、単純に宇宙食を開発すればいいということではなくて、現在変化しつつある「食」に対する価値観を踏まえたうえで開発に取り組むことが重要だと考えています。

榎本:なるほど。

鈴木:現在の「食」に関する価値観は、主に「値段、味、健康」の3つの軸で形成されていると思います。しかし、2040年には「環境、五感、健康」という軸にアップデートされているのではないかと考えています。どういうことかというと、現在は「安いか高いか」という値段の軸が重要となっていますが、2040年には値段の軸はそんなに重要ではなくなり「環境に良いか悪いか」という環境の軸が重要になってくるのではないかということです。また、現在は「味」という味覚が重要な軸となっていますが、「五感で楽しむ」という軸にアップデートされるのではないかと考えています。健康の軸に関しては、現在も重要な軸ですが、2040年にはより重要になっていると思います。

宇宙食に関しても、このような価値観の変化を前提にする必要があると考えていて、環境負荷が少なく、五感で楽しめ、健康にいい宇宙食が求められると考えています。

榎本:確かに現在でもSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が当たり前になってきていますから、20年後はもっと環境負荷への関心は高まっているかもしれませんね。

ユーグレナによる健康促進

鈴木:次に、このような「食」に関する3つの価値観の軸から、ユーグレナ社が進めている未来の「食」や宇宙食の研究開発についてご紹介いたします。まずは健康に関する取り組みについてです。

健康についていうと、宇宙空間でも地球でも共通する課題であると認識しています。特に、平均寿命と健康寿命のギャップをどのように埋めていくのかということが大きな課題です。現在、日本ではこのギャップが10歳以上ありますが、医療技術の発展などにより今後さらに拡大する可能性があります。健康に生活できるかどうかへの不安、介護問題、社会保障の負担などの問題も同時に出てくることでしょう。ユーグレナ社は「食」で人の健康寿命を延ばして、このギャップを縮めることに取り組んでいきたい。その観点からも社会貢献していきたいと考えています。

栄養補給や健康目的のために、様々な食材を食事に取り入れますよね?そこに、ユーグレナを取り入れてほしいなと。

ユーグレナを日常的に摂取することで、栄養補給に加え、免疫力の向上、ストレス症状の緩和などが期待できる研究結果が出ています。健康的な体をつくるためのベースアップにつながる、と考えています。これは地球での生活だけでなく、今後の宇宙空間での長期滞在を見据えても非常に良いものだと思います。

榎本:ユーグレナには免疫力向上やストレス症状の緩和なども期待できるのですね。

鈴木:ほかにも睡眠の質の改善などさまざまな研究結果がでています。一時的な健康ではなく、体を根本から健康にすることが重要だと考えていますので、その目的に適した商品開発を進めています。

榎本:そうなんですね。楽しみにしております。

ユーグレナを活用した環境負荷の低い宇宙食の開発

鈴木:次に、環境負荷の低い宇宙食のあり方についてお話いたします。宇宙においての食生産ですが、すべてを宇宙や月にもっていくことはできない。宇宙空間において循環させる必要があるので、この分野の研究がなされている。環境負荷の軸から宇宙食を考えると、地球からたくさんのものを運び込むのではなくて、宇宙空間で資源を循環させて食料を生産することが重要だということに考えが至ります。ユーグレナに関していいますと、すでに火力発電所から排出される二酸化炭素や水処理場の生活排水を利用してユーグレナを培養することに成功しています。下水や排水など人の生活に伴って排出される資源をきれいにして、酸素をつくり出し、水を浄化しながら、もう一度使える状態にして食料生産をしてしまおうと試みています。結果として、食料であるユーグレナを増やすことができるのです。

榎本:ユーグレナによって、環境も整えられ、そのうえ食べられるということでしょうか。

鈴木:試算では、ドラム缶2つ分(約400L)くらいのユーグレナの培養装置があれば、人の生命は維持できると思います。

榎本:ドラム缶2つ分ぐらいですか。想像していたよりも小さな設備ですね。

月面藻類プラント(イメージ)

榎本:そういえば、ユーグレナって緑色がとてもきれいですね。

鈴木:はい。そうなんです。研究していて、ユーグレナの緑色に癒されています。

2040年を目途に研究しているのが、タンパク質を効率よく生産して、届ける部分も含め環境負荷を低くすることです。その頃には、人口90億人になることを想定しているので、食料難を避ける意味でも考えています。たんぱく質の供給源という観点からも、牛などの家畜と比べて植物やユーグレナの生産に使用する二酸化炭素は少ない試算になっていて、環境負荷をかなり低くして生産できるポテンシャルがあることが分かっています。またユーグレナは動物的な性質もあるので、大豆などと比べても動物性のたんぱく質に組成が近く、吸収効率がよいといわれています。

榎本:ユーグレナは鞭毛を使って動き回るから、たんぱく質の組成も動物性に近いのですね。

ユーグレナを活用し、美味しく楽しい宇宙食を

鈴木:最後に五感を楽しませる宇宙食についてお話させていただきます。食は娯楽、と私は考えています。

榎本:以前、スペースフードスフィアに関連するイベントで、ユーグレナ入りのスープをいただきました。すごく美味しかったです。

鈴木:調理次第で美味しくなると思います。スペースフードスフィアには、食材のメーカーや調理師学校などさまざまなメンバーが参画しているので、ユーグレナの宇宙食もどんどん改良されていくと思います。

榎本:ユーグレナ100%ハンバーグも、美味しくなったらぜひ食べさせてください。

鈴木:もちろんです。

最後になりましたが、ユーグレナ社として宇宙食の研究開発に取り組むことは、低環境負荷、低コスト、高栄養の3つの要素を提供することで、地球の環境問題や「食」の問題解決につながると考えています。今後も宇宙食を含む「食」の分野に対し、サステナブルな価値観に基づいて研究開発を進めていきたいと思います。

鈴木 健吾 Kengo Suzuki (株式会社ユーグレナ 執行役員研究開発担当)
 東京大学農学部生物システム工学専修卒、2005年8月株式会社ユーグレナ創業、取締役研究開発部長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。2016年東京大学大学院で農学博士学位取得。2019年北里大学大学院で医学博士学位取得。微細藻類ユーグレナの利活用およびその他藻類に関する研究に携わるかたわら、ユーグレナ由来のバイオ燃料製造開発に向けた研究に挑む。
榎本 麗美 Remi Enomoto(宇宙キャスター)
1983年生まれ。千葉県出身で帝京大学理工学部バイオサイエンス科を卒業。2005年西日本放送アナウンス部入社、その後フリーアナウンサーとなり「日テレNEWS24」などに出演。防災士や星空準案内人などの資格を保有。ノースプロダクション所属。
榎本麗美YouTubeチャンネル:榎本麗美のそらこい!

※本記事は、「ユーグレナ フューチャーマテリアルカンファレンス2020」のイベント取材をもとに加筆修正して掲載しています