「脱炭素」と聞くと、電気自動車や水素といった最先端技術を思い浮かべる人も多いかもしれない。そんな中、東京を走るいつもの路線バスが、バイオ燃料「サステオ51」を使って走り始めた。
ユーグレナ社が開発したバイオ燃料「サステオ51」を使用したこの取り組みは、既存のディーゼル車両をそのまま活用しながら、CO₂排出量を実質で約50%削減できる点が特徴だ。
なぜ今、公共交通という身近な存在からこの挑戦が始まったのか。技術と社会の接点に立つ担当者・田澤さんに、その背景を聞いた。
サステオ51を世界一売る田澤さんに聞く「バイオ燃料が現実になった理由」
─まず、田澤さんが現在取り組まれているお仕事について教えてください。
田澤:今は、ユーグレナが開発したバイオ燃料「サステオ51」の担当として、導入を検討されているお客さまへの説明やサポートを行っています。実は私自身、この燃料の開発にも関わってきました。なので、開発者であり、普及を担う立場でもある、という少し珍しい役割かもしれません(笑)。
今回、東京都内でサステオ51を使った路線バスが走り始めたのですが、これは日本で初めて、公共交通機関がこの燃料で実際に運行される事例になります。
─サステオ51の特徴を、初めて知る方にも分かりやすく教えてください。
田澤:一番の特徴は、「今あるバスやトラックで、そのまま使える燃料」だという点です。
新しい車や、設備を整えなくても、既存のディーゼル車で、軽油と同じ感覚で使えます。サステオ51の51%は、CO2を吸収して育った植物由来燃料のため、CO2排出量を約半分削減できます。
「脱炭素」と聞くと、どうしてもEVや水素といった新しい技術に目が向きがちですが、液体燃料ならではの使い勝手の良さと、環境負荷の低減を両立できる選択肢がある、ということを知ってもらえたらうれしいですね。
─田澤さんご自身は、もともとエネルギー分野に関わってきたのですか?
田澤:はい。もともとは石油会社で働いていました。それに、学生時代は化学や地質学を学んでいて、エネルギー自体には昔から興味がありました。
特に印象に残っているのは、東日本大震災を石油会社の立場で経験したことです。あのとき、「非常時に本当に必要とされるエネルギーとは何か」を、現場で突きつけられました。
理想論ではなく、「確実に使えて、社会を支えられるエネルギーが必要なんだ」と。

─その経験が、バイオ燃料への考え方にもつながっている?
田澤:そうですね。実は、昔は「脱炭素」という言葉に対して、少し距離を感じていました。地質学を学んでいたので、環境変化を長い時間軸で見てきたという背景もあります。
ただ、子どもが生まれたことで考え方が変わりました。
「次の世代に、少しでも良い環境を残したい」と思うようになり、そのとき初めて、今できる現実的な脱炭素の方法を探そうと思ったんです。
─東急バスとの取り組みは、田澤さんにとってどんな意味がありますか?
田澤:東急バスさんとは、車の両輪のような関係だと感じています。
いくら私たちが「環境に良い燃料です」と言っても、実際に使っていただく事業者さんがいなければ、社会は変わりませんし、市民の皆様に使っていただく機会も提供できません。まさに、社会全体を一緒に動かしていくパートナーだと感じています。

また、バイオ燃料の普及に当たっては、いすゞ自動車さんの協力も非常に大きかったですね。
現場で働く方々から出てくる疑問や不安に、技術的な視点で応えていただいたことで、実証運行が現実のものになりました。

─最近、手応えを感じた瞬間はありましたか?
田澤:昨年に比べて、バイオ燃料に関する問い合わせがかなり増えてきたことですね。
「まずは検討してみよう」「話を聞いてみたい」という動きが広がってきていて、社会がユーグレナが掲げる理想に追いついてきた感覚があります。
東京都の実証事業の中でも、取り組み自体を評価していただく機会があり、正直、少し胸が熱くなりました。
─最後に、これからの社会について、どんな未来を思い描いていますか?
田澤:特別なこととしてではなく、「バイオ燃料が普通に使えるなら、使う」。そんな感覚が当たり前になる社会になってほしいです。
脱炭素は、遠い未来の話ではなく、「今日からできること」だと思っています。
まずは身近なところから、一歩ずつ。それが今回の取り組みの一番伝えたいメッセージですね。
※プレスリリース:国内初、路線バスにHVO51%混合燃料「サステオ51」を導入 東急バスとユーグレナ社が実施

田澤 則人
株式会社ユーグレナ エネルギーカンパニー 事業創出部 事業企画課
ユーグレナマイスター
石油業界での実務経験を経てユーグレナに参画。
バイオ燃料「サステオ51」の開発・普及に携わり、技術と社会をつなぐ役割を担う。
解説:この記事の背景
今回の記事で紹介したサステオ51の取り組みは、バイオ燃料という技術そのものだけでなく、「脱炭素をどのように社会に広げていくか」という考え方とも深く関わっている。
脱炭素は、法人や自治体が目標を掲げるだけでは進まない。実際にそれを使う人が存在を知り、必要性や実用性を実感することで、初めて社会の選択肢として広がっていく。その意味で、公共交通は象徴的な場所だと言える。
東急バスのような公共交通は、日々の生活を支えるインフラであり、安全性や利便性が何よりも重視される分野でもある。
バイオ燃料を使いながらも、これまでと変わらない運行が行われることを実際の運行を通じて示すことは、「環境に配慮した取り組みは、特別なことではない」というメッセージにつながる。
また、ラッピングバスなどの取り組みを通じて、環境への配慮が日常の風景の中にあることを可視化し、関心や理解を広げていくことも意識されている。
近年、EVやFCV(水素)といった新エネルギーが注目されている一方で、エネルギー密度が高く、長距離・重量物輸送に適し、すでに全国規模の供給インフラが整っている液体燃料は、今後も社会を支える重要なエネルギーであり続ける。バスや物流といった分野では、とくにその特性が求められる。
ユーグレナはこれまでも、荷主・配送会社・消費者が協力して配送時のCO₂排出量削減を目指す「サステナブル配送プロジェクト」や、利便性と環境配慮を両立する配送サービスなどを通じて、「脱炭素は社会全体で取り組む課題」という考え方を実践してきた。
今回の公共交通での取り組みも、そうした延長線上にある事例のひとつとして位置づけられる。
