【コロナ特集:前編】にて、ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行創設者ムハマド・ユヌス氏の、アフターコロナ社会についてどう生きればいいのか、どう行動していけばいいのかの提言を紹介しました。
今回は、当社社長・出雲に、ユヌス氏の提言文を読んでみて思うことや、今後どのように生きていこうと考えているかをインタビュー。
「ウィズコロナ(withコロナ)」時代、「アフターコロナ」の世界で、ユーグレナ・フィロソフィーを「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」にした当社が、あるべき姿とは?
今後、人として、企業としてどのように行動していくべきか、出雲の考えを公開します。

今こそ3つのゼロを達成するチャンス

ユヌス氏の提言文を読んでいかがでしたか?

ユヌス先生の真っ当なお言葉に感銘を受け、熱いお言葉に改めて学びがありました。アフターコロナの我々の行動で、ユヌス先生の提言する3つのゼロ(貧困ゼロ、失業ゼロ、CO2排出ゼロ)が達成できるのかが決まると思います。アフターコロナは、「元に戻す」のではなく、新しいものを打ち立てなければいけないのです。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)のキーワードは、「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」ですが、ユヌス先生の仰っている通り、新型コロナウイルス感染症からは、世界中どこにいても逃げ隠れすることはできないのです。みんなで、この新型コロナウイルス感染症という世界課題に立ち向かわなければならないことを、ユヌス先生は一番伝えたいのだと思います。
今までは、3つのゼロを実現しようとしても、言葉通り逃げたり隠れたりしてしまう人がいました。例えば “CO2 排出ゼロ”に関しては、地球温暖化問題に対して世界全体で取り組むための議論の場であるCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)からアメリカが脱退したことは、例の1つとして挙げられます。

また、経済的に豊かな国の人は、「自分の職業を失いたくないから」という理由で、移民の受け入れに反対したり、自由でオープンな社会をつくることに対して背を向けて逃げ、協力せずに隠れてしまう人が大勢いました。それによって、”失業ゼロ”の達成もはばかれていました。
しかし、既にご存知のように、新型コロナウイルス感染症の問題からは誰も逃げたり隠れたりすることはできません。
世界中にいる全員が、この問題の前に引きずり出されているのです。
私は、今こそユヌス先生の提言する3つのゼロを解決するチャンスだと考えています。 まず、” CO2排出ゼロ”。これは、グリーンリカバリー*がキーワードとなり、ヨーロッパ(以下、EU)圏内ではそれで一致団結しています。EUを起点としてグリーンリカバリーを世界に広めていけば、”CO2排出ゼロ”の達成も夢ではありません。
*グリーンリカバリー[Green Recovery(緑の回復)]・・・代替エネルギー開発などへの投資増で環境を軸にコロナ後の経済成長回復を目指す

グリーンリカバリー×ソーシャルアントレプレナー

次に、”失業ゼロ”。これは、ソーシャルビジネスを牽引する「ソーシャルアントレプレナー(social entrepreneur:社会起業家)」がキーワードだと考えています。ソーシャルアントレプレナーになれば、失業問題は解決できます。どういうことかというと、求職者でなく起業家になるので、”失業”ということはなくなりますよね。
また、ソーシャルアントレプレナーは社会課題解決のために活動するため、ソーシャルビジネスを牽引し、どんどん広げていきます。ユヌス先生は、いつも「各政府はソーシャルビジネスを応援するファンドを起ち上げるべき」だとおっしゃっています。
新型コロナウイルス感染症を克服するのと同時に、みんながソーシャルアントレプレナーになることで、”失業ゼロ”が達成でき、ソーシャルビジネスによって” CO2 排出ゼロ”実現にも近づけることができるのです。

ユヌス先生は、”失業ゼロ”と” CO2 排出ゼロ”、この2つのゼロを達成することによって”貧困ゼロ”も達成できるという、ポジティブで前向きな未来を想定しています。
“ CO2 排出ゼロ”、”失業ゼロ”、”貧困ゼロ”は問題のスケールが異なります。貧困問題は、他の問題とは次元が違く、全ての問題の出発点であり、終着点なのです。
貧困が原因で失業が生まれ、貧困から抜け出すために移民問題が発生し、そして経済大国でなくても、貧困によって CO2 排出問題も発生します。例えば、貧困で苦しむ人が「 CO2 排出削減のために熱帯雨林を切るな」と言われても、生活のために森林伐採をしていたら、伐採しない訳にはいきませんよね。
このように、貧困があらゆる問題を生み出し、全ての問題の出発点となっているです。諸悪の根源ともいえますね。
これからは求職するのではなく、それぞれがソーシャルアントレプレナーとして活動することで、”失業ゼロ”を達成しながら”CO2排出ゼロ”、”貧困ゼロ”につなげられます。グリーンリカバリー×ソーシャルアントレプレナーで、諸悪の根源といて言われている貧困撲滅にも立ち向かえば、3つのゼロを達成できるのです。
「新型コロナウイルス感染症やアフターコロナ世界にみんなで立ち向かうことで、2030年までのSDGsゴール達成に向けて加速しよう。」とユヌス先生は仰っているのです。その言葉に、私たちも勇気が湧いてきますし、ユヌス先生は本当に人のことが好きなんだなと思います。

左から、出雲とユヌス氏(2015年)

資本主義社会からサステナブルな社会へ

ウィズコロナ(withコロナ)時代、アフターコロナ世界の企業のあり方はどうなると思いますか?

今こそ、従来の資本主義から脱却し、新しいサステナブルな社会を構築する時だと確信しています。
現在、ユヌス先生は新型コロナウイルス感染症ワクチンを”a Global  Common Good(世界公共財)”として、世界中の人々に無料配布するよう、各国の大統領、首相、そして多くのノーベル賞受賞者やグローバル企業CEOたちと共に呼びかけをしています。
今回、新型コロナウイルス感染症によって、世界がいかに小さいかを誰もが実感できたと思います。そして、今、失業問題、環境問題を始めとする、世界にはびこる多くの問題に一丸となって取り組む機運が高まっています。これでもし、先進国がワクチンを作り、しかしみんなに平等にワクチンが届かなかった場合、何が起こるでしょうか。間違いなく世界は分断されるでしょう。
「私のところには先進国なので、ワクチンが届きました。」、「私のところには先進国でないので、ワクチンが届きませんでした」となったら、「なぜ貧困を撲滅する? CO2排出量をゼロにする?なぜソーシャルアントレプレナーとして頑張らなきゃいけないんだ。」という気持ちが大きくなり、「みんなで世界課題を解決しよう」という気持ちにはなりません。

繰り返しになりますが、新型コロナウイルス感染症が明らかにしたものは、「世界は小さく、1つである」ということ。その中で、国によってワクチンへのアクセスに差があってはならないのです。誰もが「自由」で「平等」にアクセスできる社会をみんなが目指さない限り、新型コロナウイルス感染症を始めとする世界のあらゆる課題は解決できません。ワクチンを始めとした”a Global  Common Good(世界公共財)”に対して、全ての人が平等にアクセスできることを実現できるかどうかは、人々が思っている以上にこれからの世界に必要不可欠で重要な要素なのです。

製薬企業は、仮に新型コロナウイルス感染症のワクチンを独占すれば何兆円という単位で儲けを得ることができることでしょう。いうなれば、100年に1度の大儲けするチャンスであることは事実です。しかし、そのような企業は次の世界、遅くとも10年後には居場所が無くなってしまいます。世界公共財は利益取得のために使うべきではなく、世界中の人々、ひいては世界がより良い未来を進んでいくために使われるべきなのです。これは製薬企業に限った話ではなく、消費者の生活スタイル、現在ビジネスをしている企業も全て、今後はサステナビリティ(持続可能性)を軸にした行動が必要であり、そうでなければこの先、誰にも選ばれなくなくなるでしょう。だからこそ、今変われるかどうかがターニングポイントなのです。
私たちユーグレナは、”サステナビリティ”を、「”自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法”を常に考え、行動している状態」と定義しています。いくら自分が幸せを感じていたとしても、どこかで誰かが幸せでない状態は、それはサステナビリティではないのです。

出雲、バングラデシュ初訪問時(1998年)

ユーグレナは、私がユヌス先生の近くで教えてもらっていたこともあり、バングラデシュの栄養問題を受けてソーシャルアントレプレナーとしてスタートした会社なので、サステナビリティを前面に出すことを、勇気を持って声をあげ、そして実行し、ユヌス先生のメッセージを分かりやすく体現する、そのような会社でありたいですし、そういう会社でなければならないと考えています。
今後の行動、つまり世界の共通利益(a Global Common Good)の使い方で、世界規模でみんながどういう社会を2030年まで作れるかが決まるのです。

世界が分断されるか、それとも1つになってみんなで一緒に課題解決に取り組むかは、私たちの行動にかかっているのです。
これからも私たちは、Sustainability Firstをユーグレナ・フィロソフィーとして、”自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法”を常に考え、行動していきます。