上場企業となってからも、ベンチャーマインドを保ち続けるユーグレナ社。
創業期を振り返って、代表取締役社長の出雲充は「未来のことは分からないけど、とにかく動き出そうと思ってアクションした」と話します。「失敗してもいいから、まずはやってみよう」。そのメッセージの背景にある思いを聞きました。

ユーグレナ社が大切にする「失敗」とは?


2006年2月17日。
数字がほとんど消えた振込明細からつながる現在

―著書『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』(ダイヤモンド社)では、創業期の苦労についても記されています。

私が365日、いつもカバンに入れて持ち歩いているクリアファイルがあります。本にも書きましたが、いちばん上に入っているのは三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)六本木支店での振込明細。
ライブドアに出資してもらっていた株式を自分の貯金から買い戻した、2006年2月17日の日付が入っています。感熱紙なので、当時記載されていた数字はほとんど消えてしまいましたが。

そして、これも本で紹介させていただいたものですが、創業当初に大阪府にお住まいのお客さまからいただいたFAXもクリアファイルに入れています。2006年に初めていただいたもの。先のことがまったく見えない時期に、「ミドリムシで体調がよくなった」「がんばってほしい」というメッセージをいただいたんです。どれだけ励まされたことかわかりません。

いつも持ち歩いている写真など


―それから6年後、2012年にユーグレナ社は東京証券取引所に上場しています。こんなに早く会社が成長していくことは想定していたのでしょうか。

まったく想定していませんでした。
銀行であの日、振込をしたときには、今のような状態になるのはもっと時間がかかると思っていました。ライブドアショックの後、本当に事業継続できるのか悩んでいた頃でした。「10年かかっても、20年かかってもいい。コツコツと仲間とお客さまを増やし、バングラデシュまで、自分の一生をかけてたどりつきたい」。銀行の2階にあるソファに座ってそう考えていました。

しばらくは会社の経営状況も厳しく、バングラデシュへ行く余裕はとてもありませんでした。でも6年後に上場し、翌年の2013年には「これでようやくバングラデシュへ行ける」と思うようになったんです。

何もかもが早くて、私自身が驚いていますよ。こんな未来があると想像していたら、銀行で15時ギリギリまで振込を迷っていなかったと思います。

考えるより、お客さまに聞く。手を動かして実験し、ミドリムシに聞く

―創業メンバーである鈴木健吾さん、福本拓元さん(ともに現・執行役員)との出会いや、その後に乗り越えてきた苦労についても印象的でした。

創業メンバーとは、今も何も変わらない関係性でいます。本当にご縁というのはありがたいものだと思います。しかし、世の中の常識だと思われていることと、私が考えている「物事の入り口と出口」の順番は、いつも逆なんですよ。

例えば「鈴木、福本という素敵な仲間と3人でなぜ創業できたのか?」「私もそんな素敵な仲間を見つけて創業したい」といったことをよく聞かれます。でも私は違うと思うんです。世の中にたくさんの人がいる中で、「素敵な人」と「素敵じゃない人」を分けて鈴木や福本に出会ったわけではありません。逆説的に聞こえるかもしれないけれど、この3人でユーグレナを立ち上げることがベストなのかどうか、それは私も鈴木も福本も分からなかったんです。
よく分からないままだけど動き出した。それが事実です。

研究風景(手前右出雲、手前左鈴木)


―3人の出会いがあったからユーグレナ社という会社が生まれたわけではなく、とにかく第一歩目を踏み出したからこそ今につながっているということですか?

そうですね。未来のことは分からないけど、とにかく動き出そうと思ってアクションしたからこういう結果になったのだと思います。
多くの人は「よく考えてから行動しよう」と言いますよね。考えることで失敗の可能性を減らそうとか、成功確率を上げようとか。私は、それは何の意味もないと考えています。「分からないから動き出さない」という人は成功できない。

これは僕のバックグラウンドが生命科学だから思うのかもしれないけれど、ヒトの設計図って、みんなほとんど一緒なんですよ。ゲノムというのは「ATCG」の4種類しかありません。それが23セット、46本の設計図として並んでいる。そして「9の6乗パーセント」まで同じです。
設計図が同じなのに「この人は頭がいい」とか「この人は上手」とか、そんな差が出ることは絶対にありません。大切なのは行動を起こすかどうか。それこそ人間国宝にまでなるような人は、考えてじっくりやるべきなのかもしれません。でも多くの人は人間国宝ではない。うまくいくかどうかなんて、やってみなければ分からないと思いませんか?

ミドリムシの大量培養は実験に実験を重ねてようやく実現したものです。伊藤忠商事という素晴らしいパートナーとも、500回企業にアプローチし、失敗を繰り返した先にようやく出会えました。
考えるより、お客さまに聞く。手を動かして実験し、ミドリムシに聞く。それしかないと思っています。

会議より、まずやってみよう

―失敗を恐れずに行動し続けるという姿勢は、ユーグレナ社がベンチャーマインドを保ち続けるためにも欠かせないものではないでしょうか。

そう思います。未知の物事に挑戦して、初めてで50点も取れれば、本当に素晴らしい成果ですよ。例えば子どもって、初めて歩けるようになるまで何度も転んだりつまずいたりして成長していきますよね。最初から「なんで歩けないんだ」と子どもに言う人はいない。それと同じ感覚で、私は挑戦する人を見ています。

ユーグレナ社には、共感してくれる仲間がいます。
「社会課題を解決するためにユーグレナ社しか受けませんでした」という新卒メンバーや、「給料が多少減ってもいいからユーグレナ社で働きたい」と言ってくれるいろんな企業出身の中途メンバー……。本当に最高の仲間たちなんですが、真面目で頭のいい人が多いことがちょっと気になっています。

―「真面目で頭のいい人」の多さが気になる?

これはエビデンスなどなくて、私の直感に過ぎないのですが、頭のいい人ほど失敗を怖がる気がするんです。違う言い方をするなら、頭のいい人ほど考えてしまう。もちろん、頭がいいから考えて、もっといい方法を見つけようとするのはわかります。でも、会社の中で起きる物事というのは「やってみたほうが早い」ことがほとんどです。

ある目標の達成に対して、ABCの3案が浮かんだらみんな会議を始めます。「Aは64パーセント、Bは75パーセント、Cは一発逆転だけど5パーセントの可能性があります。どうしますか?」と。それで多くの場合はBを選ぶ。

でも私は、「会議なんてしなくていいからまずAをやってみようよ」と思うんです。AがダメならB、それでもダメならCに挑んで、失敗してもそこから学びを得ればいい。比較検討会議はいりません。「やってみてダメだった」と報告する会議のほうがいいですね。


もっと実験して、研究して、失敗しないといけない

―出雲社長自身は、今でも失敗から学びを得ているのでしょうか?

私くらい失敗を恐れずに繰り返すと、もはや何事も「失敗」とは思わなってくるんです(笑)。物事のいいところしか見えなくなるんですね。

高級なレストランを予約して、お洒落をして外出するときに雨が降っていたら、「嫌だな」と思うかもしれません。でも私は農学部出身だからか、「雨をずっと待っていた農家さんもいるだろうな。恵みの雨だ」と思うんです。雨だって、レストランへ行く人に嫌がらせをしたいわけではありません。勝手にネガティブにとらえているだけ。

何かの取材で「雨の話は分かるけど、私が今日乗った満員電車には何の幸せもありませんでしたよ」と聞かれたことがあります。そのときに私は本気で「数百円の切符代でマッサージつきのサウナに入れたようなものでしょ」と答えました。とても驚かれましたが(笑)。デートのときの雨も、満員電車も、切り口を変えれば見方が変わります。

―目の前の出来事を単純に「失敗」だととらえない姿勢も、大切なのかもしれませんね。

失敗という言葉をネガティブにとらえる人が多いのですが、英語でいうところの「failure」と「Risk」を混同して考えているところもあると思います。「failure」は「success」の反対語、つまり失敗ですね。「Risk」は「どうなるか分かりませんよ」という意味です。「リスクが大きい」ということもネガティブにとらえがちですが、実際は「成功の可能性もあるけど、どうなるか分かりませんよ」という意味なんです。

私自身は、何かに挑戦して想定していたものと違う結果が出ても「ええ〜、こんなことが起きるんだ、面白い!」と感じますよ。他の人は失敗だと言うかもしれないけれど、私にとっては想定外の結果と出会えたことが「success」なんです。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥先生も、ノーベル物理学賞を取った天野浩先生も、口をそろえて「とにかく実験して、研究しないと」と語っていました。それなら私たちは、もっと実験して、研究して、失敗しないといけない。ユーグレナ社はそれを見守り続けられる会社でありたいと思っています。


文:多田 慎介

株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
出雲 充(いずも みつる)


駒場東邦中・高等学校、東京大学農学部卒業後、2002年東京三菱銀行入行。2005年株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に成功。
世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」(2015年)受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書社)。