深刻化する自然環境の問題に対応するため、サステナビリティへの取り組みが活発化し、すでに積極的に進めている企業も数多く存在します。
本記事では、サステナビリティにおける社会課題のひとつである『環境問題』に焦点をあて、解決に向けた事例などを紹介します。

サステナビリティにおける重要課題のひとつ「環境問題」

サステナビリティとは、環境や社会が長期にわたり、機能やシステムを良好な状態へ持続させるという考え方です。今日、自然環境は気候変動や環境汚染により深刻な問題を抱えています。環境破壊の危機から脱し、持続可能な社会を実現するためにサステナビリティな取り組みが推奨されているのです。

現在の地球が抱える環境問題は山積み

現在の地球は多くの環境問題に直面しています。産業革命の頃から人々の経済活動により大気中の二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが増加し、それに伴い地球の平均気温も上昇して地球温暖化が引き起こされています。地球温暖化による気候変動は、世界各地に集中豪雨や熱波などの異常気象をもたらしています。このまま地球温暖化が続けば異常気象は加速し、私たちの生活、社会、経済に深刻な影響を及ぼすでしょう。

また、自動車の排気ガスや工場から排出される環境汚染物質による水や大気、土壌の汚染も深刻です。2018年の世界保健機構(WHO)の報告によると、地球人口のおよそ90%の人々が汚染された大気の下で暮らしており、健康被害のリスクがあると指摘されています。そして、自然環境の悪化に伴い生物多様性にも危機が迫っており、自然状態よりも約100~1,000倍のスピードで多くの野生生物たちが絶滅の危機に瀕しています。
さらに、人口の急増も環境破壊の要因として懸念されている問題です。2019年で77億人だった人口は、2030年には85億人、2100年には約110億人に達すると予想されています。人口の急増は食糧をはじめとする資源の不足を招き、資源を得るためさらなる環境破壊につながる恐れがあります。

地球資源を消費し、枯渇させる人類による環境への搾取行為は、私たち自らの手で未来を破壊しているといっても過言ではありません。

自然環境と社会発展の共存は不可能なのか

人々は経済発展により豊かな生活を手に入れましたが、その結果として生命の基盤となる自然環境の悪化をもたらしています。このような現状を見れば、自然環境の維持と社会の発展は共存できないと思うかもしれません。

しかし、社会の発展を目指しながら環境問題の解決に取り組むことは可能です。それを実現するために、サステナビリティへの取り組みが世界規模で広がり続けています。
サステナビリティとは、人間・社会・環境が長期にわたり持続し、発展することを意味するものです。社会発展の一翼を担う国や企業が主体となり、自然環境と社会発展が共存するサステナブルな社会の実現を目指しています。

環境問題に注目が集まる理由

今日、環境問題に注目が集まっているのには、いくつかの理由があります。まず、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択したことが理由のひとつです。環境問題をはじめとした社会課題を2030年までに達成すべき目標として掲げられたことを受け、世界中でサステナビリティへの取り組みが活発化しました。また、社会問題への関心が高い若年層を中心に、環境運動が広まったことも理由としてあげられます。

国連がSDGsを採択

環境問題への危機感は、目に見えて地球資源の減少が始まってきた1970年代から続いています。それがさらに注目を集めたきっかけは、2015年に国連で採択されたSDGsです。SDGsは「持続可能な開発目標」という意味で、貧困や環境問題、不平等などについて、17の目標を2030年までに達成することを目指しています。

このSDGsに賛同してサステナビリティへの取り組みを始める企業も少なくありません。17の目標を経営戦略に組み込むなど、サステナビリティ経営の推進が加速しています。

若者を中心に広がる環境運動

世界では、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ氏の活躍を始め、若者を中心に環境運動が広がっています。トゥンベリ氏は16歳のときにニューヨークにて開催された「国連気候行動サミット2019」で、気候変動への取り組みを一刻も早く行うよう訴えました。

トゥンベリ氏に限らず、ミレニアル世代、Z世代と呼ばれる若年層は環境問題や社会問題に高い関心があるという統計があります。
2020年に全国の中学生、高校生、大学生を対象に行われたアンケートでは、国内や海外の環境問題や社会課題への関心を持つ若者が全体の46.8%という高い数字を示しています。また、SDGs のことを知っていると回答した若者は全体の44.2%に及び、そのうち大学生は59.8%と、多くの若者が関心を寄せていることがわかりました。

【参考】株式会社日本総合研究所

企業の気候変動リスクへの対応が加速

地球温暖化による気候変動の影響は、日本でも多くの問題を引き起こしています。ゲリラ豪雨、台風の大型化といった、異常気象による洪水や浸水被害、土砂災害熱中症患者の増加など、どれも社会、経済に深刻な影響をもたらしています。

地球温暖化の大きな原因と考えられているのは二酸化炭素などの温室効果ガスで、その多くは企業の事業活動によって排出されています。商品の生産や加工、輸送という活動のなかで温室効果ガスが排出されており、特に日本では、温室効果ガスのうち二酸化炭素の排出量の約8割が企業由来であるとされています。
このような状況から、パリ協定やTCFD、RE100といった国際基準での企業の脱炭素経営への取り組みが加速しました。各企業が2050年までに二酸化炭素排出量ゼロを目指すなど、環境負荷の削減に取り組んでいます。

また企業の環境問題への取り組みを加速させている理由のもう一つに、「ESG投資」もあげられます。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)という3つの要素に配慮していることを重視して行う投資方法のことです。
環境問題に対し積極的に取り組む企業に投資価値があると考える投資家も多く、環境問題に取り組むことは企業価値の向上と資金調達方法の拡大にもつながっています。

環境問題解決に向け企業が取り組むべきこと

環境問題が深刻になるなかで、事業活動が環境に大きな影響を及ぼしている企業の役割は重要です。環境に配慮した製品の開発や事業活動における環境負荷の低減など、積極的な取り組みが期待されています。
廃棄物の排出量を減らす、水の保全を行うなど、企業が取り組むべきことは数多くあります。環境問題解決のために、企業がすべきことをいくつか紹介します。

環境に配慮した製品の開発

環境に配慮した製品、サービスの開発は、企業の事業活動に直結した取り組みとして有用です。「大量生産・大量消費」が主流だった時代は、品質と価格、納期が製品開発において重視されてきました。しかし、サステナブルな社会の実現には、環境への配慮が組み込まれなければなりません。例えば、リサイクル素材やFSC認証などの環境に配慮された原料を使用したり、3R(リユース・リデュース・リサイクル)のために、包装材の簡易化や薄膜化による資源の削減なども環境配慮への取り組みとして挙げられます。

製品における環境配慮は、サステナビリティ経営を目指すうえでも重要な要素のひとつとなります。

ライフサイクルアセスメント(LCA)の実施

環境負荷の低減には、自社が販売する製品についてライフサイクルアセスメント(LCA)を実施することも大切です。ライフサイクルアセスメントとは、原料の調達から製造、流通、使用、廃棄、リサイクルに至るまでの製品のライフサイクルにおける環境への影響を算定するための手法です。

ライフサイクルアセスメントを実施することで、自社製品の各段階における資源やエネルギーの使用量及び二酸化炭素や廃棄物などの排出量を定量的に把握でき、より環境に配慮した製品の開発につなげることができます。
例えば、使用段階では二酸化炭素の排出量が少ない製品でも生産の段階では多いなど、ライフサイクル全体での環境負荷を明らかにできます。これにより、より環境に配慮した製品開発に役立てられるのです。

ライフスタイルアセスメントは国際規格ISOで規格化されており、すでに多くの企業で取り組まれています。

事業活動における環境負荷の低減

事業活動における、環境に与える負荷を低減する取り組みも欠かせません。電気の使用量や、二酸化炭素の排出量を減らすといった細かな取り組みが必要です。
電気使用量や二酸化炭素の排出量を減らす取り組みとしては、次のような活動が効果的です。

  • オフィスでもこまめに照明や空調を停止
  • 太陽光発電システムなど、再生可能エネルギーの導入
  • 二酸化炭素排出量を計測し、計画的に抑制
  • 業務の効率化を図り、事業活動における二酸化炭素排出量を削減
  • 事業活動に使用する社用車を環境配慮型車両へ移行

Reduction of waste 

地球資源の消費を抑制し、環境への負荷をできる限り低減させるためにも、廃棄物排出量の削減も求められています。そのためには、(1)廃棄物の発生を抑制(2)発生した廃棄物は再資源化できるよう工夫(3)最終的に処分される際には適正な処分を確保し、環境への影響を最小限化するよう努める必要があります。
具体的な取り組みとして、次のような活動が挙げられます。

  • ごみの分別の徹底
  • 段ボールや古紙の再資源化
  • マイボトルの持参を推奨し、ペットボトルごみを削減
  • ペーパーレス化を推進し、コピー用紙の使用量を削減
  • 納入時に使用する梱包材の再利用
  • 食品素材の廃棄物を飼料や肥料に活用
  • 製造工程で発生した端材や廃棄物を利用した製品を開発

Water conservation

日本で暮らしていると実感がないかもしれませんが、世界的にみると水資源も危機にさらされています。
世界では多くの地域が水不足に悩まされ、不衛生な水しかない環境により、たくさんの子どもの命が奪われています。さらに、水不足の地域では、干ばつによる食料不足も深刻です。地球上の水分量の98%は海水で、飲み水として利用できる水はわずか0.01%にも満たないといわれています。限りある水資源が汚染されたり枯渇したりすると、人類をはじめとする地球上の生物は生存できません。
水環境は全世界とつながっているため、国外の水環境が悪化することで国内にも影響が及ぶ可能性があり、事業活動で多くの水を使用する企業は水の保全に対する取り組みも考えていかなければなりません。

企業には水の使用量削減や循環利用の促進、排水する際の適切な処理方法の遵守など、水の保全へのアクションが求められています。

バイオ燃料や再生エネルギーの活用

地球温暖化対策として、バイオ燃料や再生エネルギーの活用も注目されています。

バイオ燃料とはサトウキビやトウモロコシなどの植物(バイオマス)を原料としたもので、燃焼すると石油などの化石燃料と同様に二酸化炭素を排出しますが、原料となる植物の成長過程において光合成を行うことで二酸化炭素を吸収しているため、燃焼時の二酸化炭素の排出量はプラスマイナスゼロとなる(
カーボンニュートラル )と考えられています。バイオ燃料の開発を進める企業も増えており、環境問題を解決に導く燃料として今後が期待されています。
また、再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、地熱などを利用したエネルギーのことです。繰り返し利用しても枯渇しませんし、化石燃料と異なりエネルギー使用時に温室効果ガスを排出しないため、地球温暖化対策に大きく貢献します。また、エネルギー源の特徴から資源が乏しい地域でも自給できることも注目されている理由です。

今現在のバイオ燃料や再生エネルギーはコストの高さなどの課題もありますが、課題をクリアしながら今後も開発が進んでいくと予想されます。

プラスチック使用量の削減

レジ袋の有料化をはじめとする、プラスチック使用量の削減に対する取り組みが活発化しています。

プラスチックがなぜこれほどまでに問題になっているかというと、プラスチックの多くは使い捨てされており、使用後にポイ捨てされるなどできちんと処理されずに、環境中に流出してしまうことが少なくないからです。そしていずれ海へ流出したプラスチックが、海洋生物の誤飲や負傷の原因となっているのです。
世界の海にはすでに1億5000万tものプラスチックが存在しているといわれており、さらに年間800万tが新たに流出しているとされ、このままでは2050年には魚よりも海中のプラスチックの総量が上回ると予測されています。

さまざまな企業がこの問題に対応するため、紙や植物由来などの代替素材の使用に変更したり、プラスチックリサイクルのスキームを構築したりと対策が講じられています。サステナビリティにおける環境問題への取り組みにおいて、プラスチック使用量の削減と適切な処理への対応が急務となっています。

Conservation of biodiversity

生物多様性とは、地球上の生物がバラエティに富み、複雑で多様な生態系を維持していることです。
気候変動や汚染といった環境問題により、生態系にも影響を及ぼしています。今日、100万種の生物が絶滅の危機にあり、生態系の種類は人類史上のどの時期よりも急速に減少しているという報告があります。地球温暖化の防止や資源の有効活用などの取り組みでも生物多様性の保全に貢献しますが、植林活動や生態系調査の実施や事業所内の緑化の推進といったより直接的な活動を行う企業も数多く存在します。

自然をまったく破壊することなく企業活動を行うことはできませんが、だからこそ、自然や生物多様性のことをよく知り、保全にすることが大切なのです。

環境問題に取り組む企業の事例

気候変動をはじめとする環境問題に対する課題は一般消費者にも浸透してきています。消費者にとって、今後は地球環境と向き合っている企業かどうかが製品やサービスを選ぶ基準にもなっていくでしょう。サステナビリティの一環として環境問題に取り組んでいる企業は数多くありますが、なかでも独自の取り組みをしている企業を紹介します。

パタゴニア

アメリカのアウトドアブランド「パタゴニア」は、環境問題の解決を第一に考えた経営を行う企業です。

パタゴニアは世界の温室効果ガスの約10%を放出しているアパレル産業としての責任を自覚し、環境問題に取り組んでいます。 2001年には、売上高の1%以上を環境保護団体に寄付する組織を設立。さらに、環境保護活動を行うグループに助成金を贈るプログラムを用意するなど、環境保護へのさまざまな貢献活動を行っているのが特徴です。
製品づくりでは、長年にわたりコットン製品のすべてにオーガニックコットンを採用。リサイクル原料の使用を増やし、ビジネス全体で環境への負荷を削減するための試みを行っています。

さらに、パタゴニアでは2025年〜2030年に向け、次のような4つの環境目標を設定しました。

  • 2025年までにサプライチェーンを含む事業全体でカーボン・ニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること)を目指す
  • 2025年までにすべての製品には再生可能素材、リサイクル素材、リクレイムド素材のみを使用する
  • 2025年までにパッケージを再利用可能なもの、家庭内コンポストで分解できるもの、再生可能なもの、容易にリサイクルできるものにする
  • 2030年までに製品に使用するコットンおよびヘンプ繊維について、100%オーガニック認証の素材を使用する

パタゴニアは事業活動を手段とし、地球環境を守ることを目的にしている企業といえるでしょう。

オールバーズ

「オールバーズ」はアメリカのシューズメーカーで、環境に配慮したものづくりで注目を集めています。

手がけるシューズは「世界で一番履き心地がいい」と評され、ウールやユーカリ由来のパルプ、サトウキビなど自然素材で作られているのが特徴です。
靴ひもは再生ペットボトルで作られ、梱包の90%以上に再生段ボールを使用。購入したシューズの紐を持ち手にして、梱包材を削減するという工夫もしています。2019年には製造や販売のすべての工程でカーボンニュートラルを達成するなど、環境への配慮を徹底している企業です。

オールバーズでは、単に自然素材でスニーカーを作るだけでなく、実用性や耐久性、履き心地も考えています。さらにデザインも洗練されているのが、多くの支持を集めている理由です。

セブンアンドアイホールディングス

コンビニエンスストアやスーパーなどを幅広く展開する「セブンアンドアイホールディングス」も、環境問題に本格的に取り組んでいます。

グループ各社の店頭でペットボトルの回収を行い、その数は1年間で3億本以上。使用済みペットボトルを100%原料にした世界初の「完全循環型ペットボトル」の商品も販売しています。この活動によって、ペットボトル1本あたりの二酸化炭素の排出量を約25%削減しました。
また、全国各地の店舗に太陽光発電パネルを設置しており、年間約3万tの二酸化炭素排出量削減を実現。コンビニエンスストア併設の水素ステーションも展開しており、水素で走る燃料電池小型トラックの導入も行っています。さらに、空調効率を改善して節電効果を高める空調技術を取り入れるなど、総電力使用量と二酸化炭素排出量の削減に貢献しています。

環境への影響が大きい事業を行う企業として、最大限の責任を果たしているといえるでしょう。

まとめ

今日、自然環境は深刻化しており、国連が採択したSDGsをはじめ、サステナビリティへの取り組みが求められています。とりわけ、事業活動が環境に大きな影響を与える企業には取り組みへの期待が寄せられています。環境問題に目を向けることで、企業価値の向上にもつながります。サステナブルな社会を実現するためにも、企業が果たす役割は大きいといえるでしょう。