不老については実現しつつあり、不死も少しずつできるようになっている…。では、不死が実現するとどうなるのか?そもそも死ぬってどういうこと?

株式会社ジーンクエスト社長/株式会社ユーグレナ執行役員として遺伝子解析サービスをけん引する生命科学者の高橋祥子が 「不老不死の実現」に関して解説します。
(前回はこちら)

「死の仕組み」と生命の存続の関係

―コワイ、イヤだという感じが強い「死」ですが、メリットもあると。
どんなメリットがあるのですか?

高橋:メリットを具体的に挙げる前に、死が発生することはどういうことかを生物的に考えてみましょう。
生物の中の一つの個体が「死ぬ」ということは、生物の生態系として『死の仕組み』を持っているということです。

―「死ぬ」ということが存在する、ということです、かね??

高橋:そうです。生物の生態系が「死の仕組み」を持つということは、その個体がずっと生き続けるという「連続性」を断つ行為で、すなわち「非連続性」を意図的に創出するためにあると考えることができるんです。

―「非連続性」を意図的に創出する????ちょっと何言っているかわからないです。

高橋:私たち人類をはじめとする生物は、実は自分の周りの環境は常に変化していくという大前提に立ち、その変化に対応しながら生きています。そして、周りの環境が変化すると、個体としてもその変化に対応をしています。ただ、個体レベルで大きな変化を突然するのは無理で、対応できる範囲は限られます。

人類や社会、生物の生態系という単位、かつ長いスパンで考えたとき、個体レベルでの変化では対応しきれない状況に直面する可能性が高いんです。

―対応しれない状況って、生き残っていけないってことですよね?

高橋:その通りです。
なので個体は大きな変化に対応するために、解決の一つとして、遺伝子を一部変える形で、別の個体を作り出します。それが遺伝子の役割で、子どもという別の個体を親が生むときに変化をします。
非連続性をある意味意図的に創造することになるんです。

変化する環境のための死

―非連続性を生むことが変化への対応を可能にする、と。。
ちなみに新しい個体を作る必要性はわかるのですが、死ぬ必要ってありますか??

高橋: これは「肌」で考えてみるとわかりやすいかなと思うのですが、私たちの肌は、外部からの刺激に耐えるために、日々環境変化に合わせた新しい細胞が生まれては肌の表面にある古い細胞が死んでいってはがれ落ちていくという形で、毎日入れ替わっています。
要は、古いものが死ぬことで新しいものが肌の表面で活躍できている。

もし肌の細胞が「死」なないで、ずっと同じ古い細胞が肌の一番上に存在し続けて新しい細胞の活躍を邪魔してしまったら、肌は環境の変化に対応できなくなっていく可能性が高いです。

―肌のターンオーバーってやつですね!よく聞きます。

高橋: 細胞死の仕組みを持っているから、環境変化に対応できて健全な状態が実現できるという側面もあります。

「死」をデザインする時代がくる

―生命が、「死の仕組み」を手放さない理由がなんとなく分かりました。
となると、不死が実現してしまったらどうなるんでしょう?

高橋:いままでの話のとおり、「死ぬ」ことには生物全体にとっての変化する環境に対応できる仕組みであると言えます。ですので不死が可能になっても、不死を選択し生き続けるということは種の生存にとって健全とは言えないかと思います。

ただ、不死という可能性があることで、一人ひとりが死を能動的に選択、すなわち死をデザインしていくことようになると思っています。私は、皆さんも自分達もいつか死ぬことを理解していながらも人間が死を恐れて悲しむ最も大きな要因の一つは、それが想定していない理由とタイミングで訪れるからだと考えています。

―死をデザインすることができれば、恐れ悲しむ人は減っていくのではということですか?

高橋:日本のある離島でのお話なのですが、高齢の村長さんが「人生でやることは全部やり切った」と言って、一番好きな海が見える場所で好きなものに囲まれて自然に亡くなったというのを聞いたことがあります。

一人ひとりが死とは何かを理解して、自分の思うようにデザインできれば、死は決して悲しいだけのものとはならないのではないか、と。私自身も、不死になりたいとは思いませんが、もし可能ならば「死」のタイミングや環境を自分でデザインしたいとは考えています。

―死をデザインする…正直未知の領域でまだどう捉えていけば分からないのですが、実現されれば違う未来が開くのかもしれないですね。
ありがとうございました!

【不老不死の要点まとめ(前編&後編)】
・「不老」と「不死」は分けて考える必要がある。
・「不老」は既にある程度実現しており、これからも実現し続ける。

・「死ぬことが選択できる不死」は今後実現可能性がある。
・死という仕組みが生物にもたらすメリットはある。
・死をデザインする、という未来があるかもしれない。

株式会社ユーグレナ 執行役員バイオインフォマテクス事業担当
/株式会社ジーンクエスト 代表取締役
高橋 祥子(たかはし しょうこ) 

京都大学農学部卒業。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に株式会社ジーンクエストを起業。2015年3月に博士課程修了、博士号を取得。個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝えるゲノム解析サービスを行う。2018年4月株式会社ユーグレナ 執行役員バイオインフォマテクス事業担当 就任。 
受賞歴に経済産業省「第二回日本ベンチャー大賞」経済産業大臣賞(女性起業家賞)受賞、第10回「日本バイオベンチャー大賞」日本ベンチャー学会賞受賞、世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ2018」に選出など。
著書に「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?-生命科学のテクノロジーによって生まれうる未来-」。 

遺伝子解析プラットフォーム「ユーグレナ・マイヘルス」