サステナビリティとは、環境や社会などが将来にわたって機能し、システムを維持していこうという考え方のことです。近年、企業経営や事業活動にもサステナビリティの考え方を取り入れる会社が増えてきました。

本記事では、企業においてのサステナビリティとはどのような意味を持つのかを説明し、事例もあわせて紹介します。

企業活動におけるサステナビリティの意味

サステナビリティ(Sustainability)とは、直訳すると「持続可能」という意味で、将来にわたり環境や社会、経済が良好な状態を維持していくという考え方です。最近では、企業や団体、個人を問わず、幅広い人々がサステナビリティへ向けた活動に取り組んでいます。そのなかでも、環境や社会に与える影響が大きい企業の積極的な取り組みは特に重要であるとされ、世間やステークホルダー(利害関係者)からの関心も高まっています。

CSR、CSVとの違い

サステナビリティと並んで語られるのが、CSR(Corporate Social Responsibility)やCSV(Creating Shared Value)です。

まず、CSRは「企業の社会的責任」と訳され、企業が社会へ与える影響への責任を意味しています。従業員や顧客、投資家などすべてのステークホルダーの要望に応えるため、コンプライアンスの遵守や環境配慮、社会貢献活動といった、企業が社会に対して果たすべき責任を守り、社会と共に発展していく活動を指します。サステナビリティとは同じ方向性ではありますが、CSRは対象をステークホルダーに設定するのに対し、サステナビリティにはこのような限定はありません。また、CSRは主体が企業であるのに対し、サステナビリティは国やあらゆる企業、団体、個人と、地球上に暮らす、すべての人が対象となっています。

次に、CSVは「共通価値の創造」という意味です。CSRが環境や社会への貢献活動など本業から離れた活動を指すのに対し、CSVはより事業と融合し、社会的価値の実現を通して事業の価値や競争力を獲得する動きを表しています。責任対象や責任の方向性が広いサステナビリティに対し、より事業との相関性が強い内容といえます。

SDGsやESGとの関係

ほかにもサステナビリティに関連した言葉で、SDGsやESGといったものもあります。SDGs(Sustainable Development Goals)は「持続的な開発目標」と訳され、2015年に国連のサミットで採択された2030年までに達成すべき17の目標のことです。「サステナビリティ」を世界の共通目標として取り組むべきことを宣言しています。

一方ESGとは、持続可能な社会の実現のため、企業の長期的な成長に重要な、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点の頭文字を合わせたものです。SDGsは社会課題の解決のための「目標」であり、ESGは企業の長期的な成長のための「手段」であると言えます。ESGによる企業の長期的な成長の先に、SDGsの達成があるというわけです。

企業がサステナビリティに取り組むメリット

企業は自社の利益を追求することが第一の目標であるにもかかわらず、強制力のないSDGsやESGといった一見すると企業にとって負担でしかないサステナビリティに積極的に取り組んでいる様子に疑問を感じる人もいるかと思います。企業がサステナビリティに取り組むことには、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、企業がサステナビリティに取り組むメリットを4つ紹介します。

1.企業価値が向上する

近年、企業を取り巻く環境は大きく変化し、投資家だけでなく一般消費者までも企業の環境及び社会問題へ取り組む姿勢を重視するようになりました。
社会課題を事業から解決しようとする企業は社会的な存在価値を高め、ステークホルダーからの信頼にもつながります。

また、さらなる地球環境や社会の課題解決に向け、新たな事業を展開すれば、新市場の開発、獲得にもつながり、企業価値の向上を加速させるはずです。

2.従業員エンゲージメントが高まる

サステナビリティの取り組みには、従業員一人ひとりが自分らしく働ける環境の整備も含まれます。多様性を尊重し、さまざまなライフステージにいる従業員すべてにとって働きやすい環境とすることで従業員の満足度は高まり、エンゲージメント(会社への愛着心)が向上すると考えられています。

また、社会課題に取り組む企業で働いているという誇りも生まれます。 エンゲージメントの高まりで離職率の低下や、生産性の向上といった効果がうまれます。

3.優秀な人材が集まる

サステナビリティへの取り組みは、人材採用の面でも高いメリットがあります。

特に、2000年以降に成人を迎えた「ミレニアル世代」と呼ばれる年代は、社会課題に関心が高い傾向があります。環境や社会に貢献している会社で働きたいと考える傾向があり、彼らにとって、サステナビリティに取り組んでいることは会社選びの大きなポイントになります。

4.資金調達の幅が広がる

サステナビリティに取り組むことで、ESG投資による資金調達が受けやすくなる傾向にあります。ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮している企業へ行う投資のことです。
2018年には、世界の投資額の1/3をESG投資が占めるまでに拡大しており、最近では銀行からの融資を受ける際にもESGへの貢献が判断基準となりつつあります。

環境や社会を考慮せず、サステナビリティに積極的に取り組まない企業は、長期的な成長、持続性に欠けると判断され、投資や融資などの対象から外される可能性があるということです。

サステナビリティに力を入れている企業

今日、サステナビリティへの取り組みは多くの企業で推進されていますが、その内容はさまざまです。先進的なサステナビリティ活動を行っている企業として、大手メーカーのユニリーバはサステナビリティを主体にしたパーパス(企業の存在意義)を掲げ、家具メーカーのIKEAは環境に優しい製品づくりを実施。ネスレでは事業活動における環境負荷ゼロを目標にしています。これら企業の具体的な取り組みを紹介していきます。

ユニリーバ

世界的な一般消費財メーカー「ユニリーバ」は、環境や社会の課題に自社が果たす役割の大きさを認識し「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」をパーパスとしています。SDGsが採択される前の2010年に、すでに事業成長とサステナビリティを両立するビジネスプランを導入。2020年までに10億人以上が健やかに暮らせるために支援する、環境負荷を削減するなどの目標を掲げました。

これらの目標は概ね達成され、さらに後継プランとして「ユニリーバ・コンパス」を発表。ブランドの力を最大限活用し、気候変動や不平等などの環境・社会の課題を解決しながら成長し続けることを目指しています。

ネスレ

世界有数の食品メーカー「ネスレ」は2030年に向け、事業活動における環境負荷ゼロの達成を目標に掲げています。全社で温室効果ガスの排出を削減し、100%再生可能な電力を使用。フードロスや食品廃棄物の削減にも取り組んでいます。
また、ネスレでは食品業界で初となるパッケージング研究所を持ち、2025年までにすべてのパッケージをリサイクル・リユース可能にするコミットメントを遂行しています。

さらに、ネスレにはサステナビリティに特化した部署はなく、その代わり全従業員がサステナビリティに取り組んでいるのが特徴です。従業員一人ひとりが共通価値の創造というCSVを実践し、事業を通して社会的課題の解決に取り組んでいます。

IKEA

世界最大の家具量販店「IKEA」では、「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブになる」という戦略を掲げています。SDGsに沿い、2030年までに達成すべき目標を設定。SDGsの17の目標すべてを網羅したプランを作り、具体的な数値目標を示しています。
気候変動に対する取り組みでは、「サステナブルで健康的な暮らしを支援する」をテーマに、節水や節電、ゴミの分別の啓発をしつつ、健康的な生活を送れる商品とアイデアを提供。原料の85%が植物由来のバイオプラスチックなどを販売し、2016年度には全世界で2,000億円の売上を達成しています。

また、同社は自社製品が全世界で使われる商業用木材の1%を占めるという、社会的責任の大きさを認識。使用する木材の77%は適正に管理された持続可能な森林由来の証であるFSC認証取得のもの、あるいはリサイクルされた木材から調達しています。

社会課題解決のために生まれたサステナビリティな企業

多くの企業がサステナビリティに取り組むなかで、社会課題解決のために誕生した企業も数多く存在します。2021年にアメリカから上陸した循環型ショッピングプラットフォーム「Loop Japan」、ビジネスとサステナビリティを両立する「TBM」、そしてSustainability First(サステナビリティ・ファースト)を体現する「ユーグレナ」です。それぞれの取り組みについて紹介します。

Loop Japan

「Loop Japan」は2021年3月末、アメリカから上陸した循環型ショッピングサービスです。ECサイトに加え、イオンなど実店舗で専用商品の販売を開始。一般消費者は使い終わった空き容器を返却し、その後Loopは回収した容器を洗浄して各メーカーに送ります。各メーカーは返却された容器に再び商品を充填し、販売するという仕組みです。これまでの使い捨て文化から脱却し、サステナブルな消費へと変革する試みです。

2021年のスタート時には味の素、江崎グリコなど大手メーカー22社が参加。容器にはステンレスやガラス素材を用い、おしゃれで個性的なデザインが採用されています。使ってみたいと思うような容器を採用することで、容器目的にサービスを使い始めたり、サステナビリティ=かっこいいというイメージが付与されるなど、自然な形でサステナビリティな取り組みを始められるための工夫が施されています。

TBM

「TBM」は2011年に創業した新素材メーカーです。「100年後でも持続可能な循環型イノベーション」を企業理念として事業展開しています。
石灰石を原料とする「LIMEX」を主力商品に、ビジネスとサステナビリティを両立。グローバルな成長を続けています。「LIMEX」は紙とプラスチックの代替素材で、原材料調達段階での二酸化炭素排出量は石油由来のプラスチックの約1/50。さらに燃焼時に排出される二酸化炭素も4割程度と、脱プラスチックだけでなく気候変動問題にも貢献しています。

すでに大手企業2,500社以上の名刺などにも採用され、サステナビリティの実現のため、さらなる成長に向けて取り組んでいます。

Euglena

ユーグレナ社は、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」をフィロソフィーとして掲げるバイオテクノロジー企業です。世界の食糧問題や環境問題を解決するための事業を推し進めています。

ユーグレナ社では、刻々と進む地球温暖化対策の一助として、カーボンニュートラルであるバイオ燃料の製造に力を入れています。バイオ燃料とは再生可能な生物資源(バイオマス)を原料にした代替燃料のことで、ユーグレナ社のバイオ燃料では主に使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナが原料として使われています。
使用済みの食用油と微細藻類ユーグレナを原料にすることで、従来のバイオ燃料原料であるトウモロコシやサトウキビ、パームなどと違い、食糧との競合や栽培のための森林破壊にともなう温室効果ガスの増加といった問題がないため、よりサステナビリティであるといえます。

2020年にはバイオディーゼル燃料の供給を開始し、2021年には国産で初のバイオジェット燃料を完成、バイオ燃料での航空機のフライトを実現させました。新世代のサステナブルな燃料として注目が集まっています。

企業がサステナビリティを実現するためのポイント

サステナビリティへの取り組みは個人にも企業にも求められますが、環境や社会への影響が大きく、人的・金銭的リソースを持つ企業の取り組みは特に注目されています。

サステナビリティな社会を実現するために、企業が取り組むべきいくつかのポイントをご紹介します。もちろん、これ以外にも取り組むべきことはたくさんあります。企業規模の大小に関わらず、誰も気づかなかった新しいアイデアに取り組んでいくことが、サステナビリティな社会の実現にとって一番大切なことです。

1.環境に配慮した製品・サービスの開発

環境保全は、企業の存続と事業活動を継続するためにも意識すべき取り組みのひとつです。環境に配慮した製品・サービスの開発は、企業の事業活動の中核とすべきサステナビリティに配慮して取り組める方法です。
例えば次のようなものが挙げられます。

  • 持続可能な森林由来の木材の証であるFSC認証や海の環境や水産資源を守って獲られた水産物の証であるMSC認証など、環境に配慮された原料を使用する
  • 包装容器を見直し、包材の削減をする
  • リサイクル由来の原料を使用する
  • 包装容器をリサイクルしやすい素材を使用したり、分別しやすい設計にする
  • 脱プラスチックに向け、紙や植物由来といった代替素材を使用する

事業活動とともにサステナビリティに取り組む方法はたくさんありますので、新しいアイデアもあわせて考えてみてください。

2.事業活動における環境負荷の低減

事業活動による環境への影響は大きく、環境負荷を低減する取り組みも重要であるといえます。
サステナビリティに力を入れている企業が行っている取り組みとして、次のようなものが例に挙げられます。

  • 事業活動で使うエネルギーを再生可能エネルギーに切り替える
  • 二酸化炭素の排出量を測定、モニタリングし、削減のために工程、工数の見直しを行う
  • 廃棄物を減らすため、ごみの分別を徹底し、資源としてリサイクルする
  • 事業活動で使用した水は循環利用するか、適切に処理を行うなど、水の保全を徹底する

使っていない会議室の電気を消す、分別を徹底するなど、小さなことの積み重ねから環境負荷の低減につながります。 コンプライアンスの遵守が求められる現代、多くの企業がさまざまな取り組みを行っているかと思いますが、 今一度見直してみましょう。

3.働きやすい職場環境の整備

全従業員の多様性を尊重し、等しく働きやすい職場環境を作ることも、サステナビリティの実現につながります。従業員の成長が企業の発展の源と考え、支援する取り組みが必要です。一例として、次のような取り組みが挙げられます。

  • 介護や育児と仕事の両立がしやすい制度の整備
  • 男女を問わない育休取得の奨励
  • 従業員の希望に応じたスキルアップや資格取得といった教育の充実
  • テレワークやフレックスなど柔軟な働き方の導入
  • ノー残業デイを設けるといった長時間労働の是正
  • 休暇制度の充実と取得しやすい風土作り

他にも働きやすい職場環境づくりにむけて、取り組めることがたくさんあります。従業員一人ひとりが活躍できる職場環境を整備することで、従業員のエンゲージメントも高まり、企業の持続的な成長にもつながるでしょう。

4.ステークホルダー・エンゲージメント

利害関係者であるステークホルダーの要望や関心を把握する「ステークホルダー・エンゲージメント」も大切です。サステナビリティの実現には、ステークホルダーの声を聞き取り、対応していくことが欠かせません。

ステークホルダー・エンゲージメントの実施には、株主総会やセミナーの開催、お客様相談室の設置、地域貢献活動など、さまざまなアプローチがあります。自社のサステナビリティに対する取り組みを説明して意見を収集し、今後の活動に取り入れていきましょう。

5.サステナビリティ調達の実施

サステナビリティ調達とは、製品の原材料や部品の調達から製造、在庫管理、配送、販売に至るまで一連の流れ(サプライチェーン)において、環境や社会に配慮した持続可能な調達を目指す取り組みのことです。企業が直接関与している取引先だけでなく、製品の原材料の調達ルートまでさかのぼってサプライチェーン全体を把握し、強制労働や児童労働といった人権侵害が行われていないかを管理することが大切です。

もちろんサプライチェーン全体を管理するには相応のコストがかかります。しかし、レジリエンスなサプライチェーンを構築することで、原料の安定調達や品質向上につながり、地域の雇用創出や生産コストの低減なども見込まれます。企業のリスクヘッジのみならず、1企業の枠にとどまらないサプライチェーン全体の持続的な成長につながるため、サステナビリティに配慮した社会の実現を目指す上では大切な項目です。

6.ソーシャルビジネスへの取り組み

ソーシャルビジネスとは、事業活動を通して環境や社会の課題を解決することを目的としています。その領域は貧困や差別、教育など多岐にわたります。ソーシャルビジネスはボランティアとは異なり、寄付金などの外部からの資金に頼らず、自ら収益を上げることで継続的な支援を可能としています。また、収益の最大化を目的とするビジネスとも異なり、ソーシャルビジネスはあくまで『社会課題を解決すること』を目的としています。

例えば、貧困地域の食糧問題を解決するために栄養食品を現地で生産し、購入しやすい価格で販売する、貧困層向けに自立を支援するための少額融資を行う、感染症治療などに特化したクリニックを経営するなど、社会課題の解決に向け、世界ではさまざまなソーシャルビジネスが行われています。

7.経営基盤の強化

サステナビリティの取り組みは、強い経営基盤のもとで初めて実現します。株主の権利や平等性を保ち、株主以外のステークホルダーとの連携を強め、適切な情報開示で経営の透明性を確保するなど、ガバナンス体制の強化に努めなければなりません。
また社員へのコンプライアンス教育や緊急時における対応を整備しておくことも、経営基盤強化のために大切な要素です。

サステナビリティに取り組む際の注意点

サステナビリティへの取り組みは今日のあらゆる企業に求められるものであり、取り組まないことがリスクとなりえます。しかし、リターンが直ちに得られるというわけでもありません。また、サステナビリティな社会の実現は、ただ経営陣が理念に掲げて事業計画を策定しただけで図れるものでもありません。サステナビリティに取り組む際は、これら2点についても確認しておいてください。

短期でのリターンを求めない

サステナビリティの取り組みでは短期間でのリターンを求めず、中長期的な視点を持つことが必要です。サステナビリティは企業価値の向上など多くのメリットがあり、財務リターンとも矛盾しません。

しかし、サステナビリティは長期にわたって環境や社会を維持していく取り組みであり、コストもかかります。短期間でのリターンを求めると、目標を達成できない可能性があります。数十年先の自分たちが思い描く未来から逆算して目標を定め、長期的な計画を立てることがサステナビリティ経営のポイントです。

従業員にサステナビリティの意識を浸透させる

サステナビリティの実現には、事業を推進する従業員全体に浸透させることが不可欠です。サステナビリティな意識を経営理念やビジョンに組み込んだり、社内研修などの教育も必要となります。

社内報やイントラネットを活用して日常的にサステナビリティの知識に触れてもらうのも効果的です。役員から管理職、現場社員まで、すべての従業員にサステナビリティな意識を根付かせ、自らの価値観としてサステナビリティを実行できるようになるまで腹落ちしてもらうことが大切です。

まとめ

世界的規模で環境や社会の問題が深刻になるなかで、企業にはサステナビリティの取り組みが求められています。2015年に国連がSDGsを採択し、2030年までに達成すべきサステナビリティの目標を掲げました。
私たち個人も社会の中で活動する一員として、大手企業だけでなくあらゆる企業がサステナビリティへの取り組みを求められているといえるでしょう。