ユーグレナ社は、ミシュランガイド東京2020~2022 一つ星掲載店「sio」オーナーシェフ鳥羽周作さんをコーポレートシェフに迎え、『ユーグレナ あとはおいしくするだけプロジェクト』を2021年に発足。59種類の豊富な栄養素をもつスーパーフード「石垣島ユーグレナ」の”うま味”の可能性に注目し、既存製品を活用したレシピ開発や新製品開発などに取り組んでいます。

後編では、コーポレートシェフである鳥羽さんとCEOの永田暁彦がこのプロジェクトを通して実現したいことや、「らしさ」について語り合いました。
前編はこちら

互いの立場がどう変わっても、友人であり続けられる

永田:鳥羽さんがユーグレナのコーポレートシェフを引き受けてくれたのはなぜですか?

鳥羽:永田さんが、人生をかけてやっているからです。僕は人生の岐路に立つたびに永田さんと話して、そのおかげで道を踏み外さずにやってこられたと思っています。返しきれないくらいの恩がある。そんな永田さんから「ユーグレナをもっとおいしくしたい」という思いを聞いたときに、これをやるのは自分しかいないと感じました。そして、ユーグレナという商品も会社も本当に大好き。その思いには一点の淀みもありません。

永田:ありがとうございます。鳥羽さんがユーグレナを本気で愛してくれているのは十分に伝わってきますよ。見ているこっちが心配になるくらい、至るところで「ユーグレナ、ユーグレナ」と言っているから。

鳥羽:そうじゃなければ「コーポレートシェフ」は名乗れませんよ。トップクラスでユーグレナを飲んでいる自信があります。笑

素材ユーグレナに対して語る鳥羽

永田:これはほんの一例に過ぎなくて、鳥羽さんはあらゆる面で嘘がない人だなぁと思っています。だから、互いの立場がどうなっても友人であり続けられると感じるんです。30年後の鳥羽さんは、もしかするとメディアから飽きられて小さな赤提灯の店をやっているかもしれない。僕は僕で、取締役としてユーグレナ社とは毎年1年契約だから、来年はクビになっているかもしれない。そんなふうにどんなに互いの状況が変わっても、僕たちの関係性には全く影響しないだろうと。

鳥羽:もともと、ただの鳥羽でありただの永田なんですよね。互いのバックグラウンドがあるから仲良くなったわけではなくて。

岐路に立たされたときこそ「自分たちらしさ」を考える

永田:先ほど、人生の岐路についての話がありましたよね。鳥羽さんは、岐路に立たされたときの決断でどんなことを意識しているんですか?

鳥羽:シンプルに「どちらを選べば世の中を幸せにできるか」を考えています。キャンセル料を0円にするのもそう。また、働くみんなにとって良い会社になれるかどうかも常に考えています。お客さまの幸せとスタッフの幸せはリンクしていなければいけないと思うので。

永田:サステナビリティを大切にしようと思えば思うほど、簡単な選択なんてないですよね。

鳥羽:僕の場合は、あえて難しいほうを選んできているかもしれません。これまでの経験から、簡単な道へ進んでもいいことがない、ピンチにこそ本質があると肌感覚で分かっているつもりです。今はコロナ禍でピンチになっているけど、ここにもチャンスがあるはずです。

永田:極端な言い方をすれば、簡単な方の道を選んで商売的に生き残ったとしても、鳥羽さんという人物は死んでいるのかもしれないということですか?

サステナビリティとはについて語る永田とそれを聞く鳥羽

鳥羽:そうだと思います。自分らしくないことはしたくない。これはユーグレナ社のみんなにも大切にしてほしいです。どんな仕事をするときも「自分たちらしさとは何か」「この決断はユーグレナ社らしいと言えるのか」を常に考えるべきだと思うんです。短期的なマーケティング目線ではなく、新しい文化を作るために活動しているのがユーグレナ社だから。

永田:共感します。経営者としては、短期的には苦しい状態でも、結果的に会社として苦しくないようにする責任も感じます。ユーグレナ社が自分たちらしくいるためには、短期的な儲けを捨て、会社としてしんどい状況に入らなければいけないこともあるかもしれない。それでも、仲間のみんながしんどさに気づかないくらいの状態を作るのが自分の役割だと思っています。

鳥羽:そうした意味では、岐路に立たされたときに長期的なビジョンを持って決断できることが大事なのかもしれませんね。

永田:鳥羽さんが強いのは、それでもし失敗しても、「鳥羽周作」として復活できるところですよね。

鳥羽:僕は何度負けても最後に残る人が勝者だと思っています。ユーグレナ社も、おいしい料理やドリンクを作れるまで何回でもやればいいんです。僕はしつこいし、勝つまでやりますよ。

笑顔で談笑する永田と鳥羽

どんなマーケティング戦略よりも強い「お裾分け」

永田:コーポレートシェフになって見えてきた課題はありますか?

鳥羽:ユーグレナの仲間は、ユーグレナの可能性やユーグレナ愛を持っているのに、それを自ら発信している人が少ないのかもしれないなと。

永田:たしかに鳥羽さんをはじめとして、sioのスタッフのみなさんはユーグレナの可能性を信じて、それを広めてくれていますね。

鳥羽:僕は他の仕事の現場で出会う人にも、どんどんユーグレナをおすすめしているんですよ。それは売り上げのためではない。シンプルに、本当にいいものは人に教えて「お裾分け」したいじゃないですか。僕はECサイトでも、これからはお裾分け需要が伸びるんじゃないかとにらんでいます。

永田:そういえば僕も、鳥羽さんに勧められて取り寄せた海苔が本当においしくて、親族や近所の人にお裾分けしました。自分の家だけで買うより何倍もお金を使っていますね。

「お裾分け」について話す鳥羽とそれを聞く永田

鳥羽:でしょう?本当においしいものを提供して周りの人にお裾分けしてもらえれば、どんなマーケティング戦略よりも強いと思うんですよね。だからユーグレナ社のみんなも、もっとユーグレナを周囲におすすめてほしいです。

永田:「これがいいんだよ」という思いが伝わっていく力は強いということですね。ユーグレナも、本当に世の中に広まるときには理性ではなく「うまい」という本能や感動が原動力になるのかもしれない。

鳥羽:何度も言いますけど、僕は『あとはおいしくするだけプロジェクト』を通じて絶対においしくなると信じています。たくさんプロダクトを作り、トライ&エラーを重ねて、そのスピードを加速させていきます。

組織が拡大しても、密度の高い会社であり続けたい

永田:僕は今後のユーグレナ社も大きな岐路に立つことになると思っています。それも、これまでにないくらい分かりやすい分岐点に。

鳥羽:大きな分岐点。

永田:たとえばsioというお店はたくさんお客さまが入るし、仲間も幸せになれていますよね。そうした1店舗をずっとやっていくのか、それとも鳥羽さんがsioから離れて、同じように幸せになれる人が増える店を100店舗作るのかという分岐点があると思うんです。鳥羽さんがsioを離れて仕組みを作り始めたら、sioの仲間はさみしい気持ちになるかもしれない。ここが会社経営の大きな分岐点だなと、いつも考えていて。

経営について語る永田とそれを聞く鳥羽

鳥羽:分かります。仲間が増えていくなかで同じ密度を維持していくのは簡単ではないですよね。ユーグレナ社も、社員数1万人を超えたら同じ思いを共有し続けられないかもしれない。

永田:組織が大きくなっていけば、仲間のみんなと経営陣の距離は離れていくかもしれません。それでも僕は密度の高い会社であり続けたいんですよね。一つひとつのチームに思いが継承され、その思いを込めた商品がたくさん生まれる会社でありたいと。

鳥羽:それぞれの頑張りを社内で共有していく努力が、今後はますます大切になるのかもしれません。そうやって一枚岩になり、みんなで幸せにビジョンへ向かっていけることが大事だし、結果的には社会を変えるスピード感も増すはず。『あとはおいしくするだけプロジェクト』も、そんなきっかけの一つになるのかもしれませんね。

鳥羽周作さんのプロフィール写真
鳥羽周作(とば しゅうさく)
sio株式会社 / シズる株式会社 代表取締役
J リーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。
2018年「sio」をオープン。
同店はミシュランガイド東京 2020 から 3 年連続一つ星を獲得。
現在、「sio」「Hotel’s」「o/sio」「o/sio FUKUOKA」「パーラー大箸」「㐂つね」「ザ・ニューワールド」「おいしいパスタ」と8店舗を展開。
書籍 / YouTube / SNSなどで公開するレシピや、フードプロデュースなど、レストランの枠を超えて様々な手段で「おいしい」を届けている。
モットーは「幸せの分母を増やす」。
2021年、株式会社ユーグレナのコーポレートシェフに就任。
永田暁彦のプロフィール写真
永田暁彦(ながた あきひこ)
株式会社ユーグレナ 取締役代表執行役員 CEO
リアルテックホールディングス株式会社 代表取締役
慶応義塾大学商学部卒。
独立系プライベート・エクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。
2008年にユーグレナ社の取締役に就任。
ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。
技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通。
ユーグレナ社の食品から燃料、研究開発など全ての事業執行を務めるとともに、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表を務める。

文/多田慎介