新しくユーグレナの仲間となった株式会社LIGUNA。代表の南沢典子さんは「お客さまが真に喜んでくれるもの、お客さまと一緒に成長させていけるもの」を目指し、「あきゅらいず」をはじめとした化粧品を開発してきたと話します。お客さまへの思いの先に目指す化粧品業界のゲームチェンジとは?ユーグレナ代表取締役社長の出雲充と語り合いました。

コンセプトを崩すことなく、17年間同じものを売り続けている理由

出雲:南沢さんは「素肌で過ごす心地よさ」を訴えて事業を続けてこられました。その背景にある思いや創業の経緯についてお聞かせください。

南沢:私はもともと、大手化粧品会社で美容部員として16年間、働いていました。そのときに分かったのが「洗いすぎや化粧品の塗りすぎ付けすぎなどで肌トラブルを起こしている人が多い」ということでした。お客さまが真に求めているもの、お客さまに真に喜んで実感してもらえるものは……?そんな思いを持ったことが私たちのブランド「あきゅらいず」開発のきっかけです。2003年に有限会社あきゅらいず美養品<現:株式会社LIGUNA>を創業し、「あきゅらいず」の名でスキンケアを中心とした化粧品の販売を開始しました。今日まで、【贅沢なシンプル】(活き活きとした健やかな素肌を育てる)というコンセプトを崩すことなくやってきています。肌の働きを追求して「これだ!」と思えるものに行き着いてからは、3ステップを中心に商品群を肌別、年齢別と増やすことなく18 年間、成分や使用方法をバージョンアップさせながら提供し続けています。

出雲:南沢さんたちの在り方は本当に顧客本位だと思うんです。化粧品は「1個よりも3個買ってもらったほうが儲かる」はずですよね。だけど南沢さんたちは「商品を広げずに同じものを使い続けてほしい」と言っている。これまでの常識とはまったく違うブランドを作るのは簡単ではないと思いますが、なぜブレずに走り続けられるのでしょうか。

南沢:私たちが提供しているのは「化粧品」というカテゴリーの「スキンケア」というお客様が日々使う商品です。季節や環境によって使い方の工夫は必要だと思いますが、人間の肌そのものの構造は変わらないと思います。スキンケアをファッションにしない。それが大事だと思います。

出雲:ファッションにしてしまうとシーズンごとに新商品が出てきて、「前の商品はここが足りなかった」とセールスするわけですね。

南沢:そうですね、ただお客さまの目線で考えれば、自分の生活サイクルに馴染んだスキンケアを違うものに変えなければならないことはストレスになると思いませんか?スポーツなどで重視される「心技体」という言葉がありますよね。私は「心肌体(しんぎたい)」が大切だと考えています。体の調子が悪いと心のバランスが崩れ、肌のトラブルにもつながる。この3つはどこが崩れてもよくない。だからこそ、スキンケアは安心して心地よく使い続けられるものが必要だと思っています。

関係者に反対されても、信じてくれるお客さまがいた

出雲:大手化粧品会社にいて、従来のビジネスの世界で十分に成功していた南沢さんが、これまでの常識にとらわれないビジネスを展開できたのはどうしてでしょうか 。

南沢:一言でいうと、「お客様の肌を見て触れて対話してきた16年間があったから」だと思います。美容部員時代の私は、とにかく他メーカーも含めて化粧品にとても興味があり、自社のみならず他メーカーの商品にも給与のほとんどをつぎ込んで購入し、何がどういいのか?肌にどんな変化があるのか?と、肌のことばかり考えていました。
会社から教えられた商品説明の内容で分からない部分があると次々と質問し、「そんなに細かい部分までは気にしなくていいから」なんて言われたこともありました。日々お客様と会話をする中で、いつからか他の人が作ったものに納得しきれず、もし自分が開発をしたらどうなるのだろうか?という夢を抱き始めました。そこで、身近にいた薬剤師さんなどの専門家の方々にいろいろと教えてもらい、学んでいったんです。

出雲:とはいえ、今までの延長線上にないことをしようとすると、反対する人も出てくるのではないでしょうか。化粧品業界の常識としては商品が売れないと困るし、メーカーさんや広告代理店さんを説き伏せるのも簡単ではないと思います。

南沢:そうですね。今でこそシンプルケアの考え方が広まってきましたが、私たちが始めた20年前くらいにはなかなか理解されませんでした。それでもお客さまの中に「シンプルでいい」「化粧をしないことはずぼらじゃない」、そう言ってほしかった、認めてほしかったというお声を創業当時から少しずついただいていたのが、「私たちの商品はこれでいいんだ」という自信に繋がっていきました。
女性の多くは「化粧をしなければならない」「ヒールを履かなければならない」など、「~せねばならない」のがんじがらめです。「そうじゃなくてもいいんだよ」と言ってほしいというニーズがあったからこそ、私たちはやってこられたのだと思います。

出雲:なるほど。周りの人が反対しても、南沢さんのコンセプトや考え方に共感してくださるお客さまがいたからこそ加速してきたということですね。

南沢:最初のお客さまは身内の7人だけで、会社の手持ち金庫には2万円しか入っていないという時期もありました。そこから一人ずつ、「こんな化粧品を待っていた」と言ってくださるお客さまに出会ってきたことで、私たちの不安も取り除かれていきました。

自分たちが体現していることを伝え、お客さまとの信頼関係を築く

出雲:LIGUNAはかつて「売り上げ100億円を目指す」という目標を掲げていたと聞きます。でも現在では会社の目標として「傍楽(はたらく)三方よし」を掲げ、LIGUNAで働く人やお客さまの心身の健康を両立する道を進んでいます。この変化の背景にあったものとは何でしょうか。

南沢:売り上げ100億円の目標を掲げたのは、その規模になれば自分たちが目指す世界を実現することにつながり、単なる中小企業ではなく社会的なインパクトを残せる存在になれると思ったからです。ですが、実際にそれを進めていくうちに、私たちは数字に追われ本質を見失っていることに気が付いたんです。たった1年のことですが、数字の焦点を変えないとすべてが崩れると思いました。

出雲:そんなことがあったのですね。

南沢:私は、私たち自身も商品だと思っています。自分たちの顔や肌がボロボロでも、顔が見えにくい通販という媒体で「これを使えばきれいになれますよ」と言うことはできます。でも、もし、ふらりとお客さまが会社に来る機会があり、その状態を見たら「ウソじゃないか」と思われてしまいますよね。私たちが言っていることも、やっていることも、見えるものも全て一貫していること。すべて見た上で安心し信頼していただきたい。その上で商品を使って、活き活きと健やかな肌を体験してもらいたい。そんな思いから、ある年の計画発表は「楽しく、よろしく、」という目標メッセージだけを掲げ、売り上げ目標をなくしました。

出雲:当初は驚く人もいたでしょうね。

南沢:社内はざわつきました(笑)。でも、それ以降は私たちが求める「本当の結果」に純粋に向き合えるようになったと思います。お客さまが肌に関するさまざまな悩みを抱えていても、私たちの商品を使えば改善できると信じ、まずは自分たちが体現していることを会報誌やSNS、YouTube、オンラインコミュニティなどで伝えていきました。やがてお客さまとの新たな信頼関係が生まれました。そうした意味では、私たちのUX(User Experience:ユーザー体験)の基盤は「結果にこだわり続けること」なのだと思います。

商品と同じように、自分たち自身も実験を繰り返していく

出雲:結果にこだわり、広告展開をデジタルに集中させていく過程では、苦労もたくさんあったと思います。ユーグレナもデジタルシフトを加速させていきたいと考えているのですが、アドバイスをいただけませんか。

南沢:私はシステム全般に詳しいわけではないのですが、一つ感じているのは「デジタルシフトによって付いてこられなくなるお客さまもいる」ということです。

出雲:すべてのお客さまに通じるものを用意しようと思うと難しいですよね。

南沢:できるだけ対応しようとは思ってはますが、私たちだけで仕事が完結できるわけではなく、業者の事業転換や廃止など世の中の流れは日々変わります。なので、変わり続ける必要はあると思います。
ただお客様に同じ商品を安心して継続して使っていただくためには?それはいつも課題ですね。デジタル化を加速させた理由はいくつもありますが、1つの例としては、「会報誌」があります。紙媒体の会報誌で、「50代以降の方が見やすいように広報物の文字を大きくする」などの対応を重ねていくと、気づけば30代の方を置き去りにしてしまっているかもしれません。そんな思いもあって文字の大きさをそれぞれがコントロールできるデジタルを選びました。

出雲:変化をリードしていくときに「変わり続ける」、「すべてのお客さまを対象にしようと考えなくてもいい」というのは重要なキーワードだと思いました。逆に「これはやってはいけない」と考えていることはありますか?

南沢:極端な言い方になるかもしれませんが、やってはいけないことはないと思います。私たちはよく「会社は実験場」だと言っているんですね。働き方もサービスもいろいろなことを試してみて、お客様は勿論、働く側にも喜ばれるものを探し続けるということが大事だと思います。お客さまからお叱りの声をいただくこともありますが、そうした声を受け止めて常に改善し、進化し続けていくことこそが大切なのだと思います。そう走り続けることですね。商品も実際に販売できるものになるまでは、何度も実験を繰り返し、完成までに何年もかかりますが、自分たち自身もさまざまなことにチャレンジや実験を続け、お客さまと共に成長していくことが大事なのではないでしょうか。

出雲:「100点にこだわらない」ということなのかもしれませんね。お客さまに対して「一人もご迷惑をおかけすることがないように」と考えることは大切ですが、今までの延長線上にない価値を生み出すためには、真面目に考えているだけでは突破できないシーンも出てくるのだと感じました。

目指すのは「ゲームチェンジ」。化粧品業界の新しい常識を作るために

出雲:信じて一緒についてきてくれるお客さまと同じように、南沢さんはスタッフである仲間のことも本当に大切にされていますよね。大量のエントリーシートが届いても、南沢さんがすべて目を通そうと頑張っていることを知って感銘を受けました。仲間とともに、次はどんな方向へ進んでいきたいと考えていますか?

南沢:化粧品業界をゲームチェンジさせたいと思っています。化粧品はパッケージも含め、たくさんの材料を使って作られていますが、中には地球環境に悪影響をおよぼすものもあります。例えば私たちは、「特定のクレンジング剤を川に流せばカエルの生態に悪影響が出る」という研究もしてきました。たとえ自分たちの肌がキレイになっても、他の生態系に悪影響を及ぼしているとしたら、それは違いますよね。自分たちの使っている化粧品が、どのように循環して自分たちに還ってきて、そして肌がきれいになっていくのか。そこまで考えて業界の新しい常識を作りたいと思っているんです。

出雲:そのゲームチェンジという言葉に、深く深く共感します。南沢さんが言うように、生態系を破壊してしまう化粧品ではなく、自分たちがきれいになることで川や森もきれいになる化粧品を、今の技術なら作れるかもしれません。自動車でも、エンジンから出てくるガスをきれいにするだけでなく、「普通の空気を吸い込んで車からはさらにきれいな空気を排出できる」という技術が生まれています。使えば使うほど地球を美しく、豊かにできる。そんな商品を一緒に開発したいです。

南沢:ありがとうございます。LIGUNAだけだと化粧品止まりになってしまう部分もあるので、今回はものすごいスピードでユーグレナさんとの資本提携を決めました。私はユーグレナの仲間のみなさんと初めて会ったときに「この人たちはゲームチェンジのスイッチを持っている」と感じたんです。

出雲:僕も同じ匂いを感じています。僕は化粧品にものすごく詳しいわけではないのですが、ゲームチェンジしたいという思いはまったく一緒なんです。「持続可能な社会を作るためにゲームチェンジしたい」と考える人がバラバラにいると、できることも少なく、限られてしまう。ベンチャーである僕らは、分野に関わらず団結する必要があると思います。

「この商品は売れるかどうか」ではなく、「お客さま、ひいては地球にずっと寄り添っていけるかどうか」を軸にする。そうすることで、結果としてお客さまの共感、信頼へとつながります。 自分だけがいいのではなく、その商品を使えば使うほど、地球にもいいことがある。「心肌体(しんぎたい)」の整った商品を届けることで、これからの世界のゲームチェンジを目指します。

文 / 多田慎介

南沢典子(みなみさわ のりこ)

1985年高校卒業後18歳で大手化粧品会社入社 16年間店頭で美容部員として勤務。2002年退職を機に2歳と4歳の子供を連れ離婚。単身中国に渡り中国薬科大学と化粧品原料を開発。2003年有限会社あきゅらいず美養品を設立。伝統医学と科学を融合させたスキンケアを開発。2019年株式会社LIGUNA に変更。他に肌のためのカフェ【はだめし】や農園経営、自然や環境保護を目指した原料開発を手掛ける。
著書【すっぴん美人の教科書】PHP出版
出雲充(いずも みつる)

駒場東邦中・高等学校、東京大学農学部卒業後、2002年東京三菱銀行入行。
2005年株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。世界初の微細藻ミドリムシ(学名:ユーグレナ)食用屋外大量培養に成功。
世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。
著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)『サステナブルビジネス』(PHP研究所)
経団連審議員会副議長、産業構造審議会委員、金融審議会委員、経産省SDGs経営/ESG投資研究会委員、ビル&メリンダ・ゲイツ財団SDGs Goalkeeper