ユーグレナグループ、リバネス、SMBC日興証券が運営するリアルテックファンドは、地球規模の課題解決に貢献する革新的テクノロジー「リアルテック」を生み出すベンチャー企業を支援する投資ファンドです。

前回のユーグレナ社がいかにして自走力をつけてきたかに続き、ユーグレナ社の取締役副社長でありリアルテックファンドの代表の永田暁彦が、リアルテックファンドのミッションを語ります。

研究開発ベンチャーに求められる総合力

例えば、「幼児の健康増進に役立つ栄養ドリンク」を開発しているベンチャーの経営者がリアルテックファンドに投資を求めてやってきたとします。
その経営者は、国内で名の通った大学で医学博士の学位を取得しています。そして用意されたパワーポイントの資料には、その栄養ドリンクの持つ豊富な栄養素と、それらがいかに幼児にとって重要かが科学的に裏付けられたデータとともにまとめられているとします。このベンチャーが成功するかどうかを簡単に調べる方法があります。

「では、500万円出資しますから、実際に幼児3000人に飲ませて来てください」

これは私たちリアルテックファンドが投資の判断をする際、実際に行う提案です。成功するベンチャーの経営者は、必ずこの提案を受け入れて自分たちで実践してきます。その一方で、調査会社などに外注する経営者は必ず失敗します。なぜでしょうか?

それは、研究開発ベンチャーの価値は研究だけではないからです。研究から社会実装に至るまでの「総合力」にこそ価値がある。
実際に幼児に飲ませてみる、つまりは社会実装を行うことで、「幼稚園に100本パックで納入しようとしたら、このパッケージの形状ではダメでした」や「実際に飲ませてみると幼児の口のサイズに飲み口が合いませんでした」といった、現実とのギャップに必ず直面します。それらの発見から学び、改良を加えることができるベンチャーこそが成功するのです。

イノベーションというのは、静かな実験室で起きるものじゃない。騒がしいこの社会の中で起こるものなんです。研究だけしているのではなく、社会に自分の足で出ていって、目で見て、考えて実行し、価値を生む。これが成功するベンチャーに共通する行動原理なのです。
例えば私たちユーグレナ社のように、自ら価値を生み出しながら、研究開発を100年続けられる企業を生み出していくこと。それがリアルテックファンドのミッションです。

リアルテック・エコシステムの起爆剤になる

リアルテックファンドは、研究開発ベンチャーに投資が自然と集まっていく流れをつくるための起爆剤になればいいと考えています。理想としては、起爆剤としての役目を終えたら、当たり前に社会にあるものとして、消えて無くなってしまうのも良いなとすら思っています。

最近になって、研究開発ベンチャーで成功した起業家が投資ファンドを始め、投資する側に回ったりする事例が生まれてきました。数年前には考えられないことです。私たちの仕事はこの流れをより大きなうねりに変えていくこと。社会の中でリアルテックに投資が集まるためのエコシステムをつくることです。
この世界に必要な変化を自律的に与えてゆくエコシステムこそが、21世紀を生きる私たちにはより必要になると考えているからです。

私たち人間は、その歴史の中で、自分たちの手に負えないものをコントロールして進化してきました。まさに火がそうです。最初は山火事や噴火が起きるたびに逃げ惑っていただけでしたが、次第にコントロールする知恵を身に着けたことで、人間は自然界で百獣を統べる存在になりました。

現代に目を向けてみると、今度は自然ではなく、私たち自身でつくりだした文明が、私たちの手に負えない、新たな火となって燻りはじめていることに気づかされます。それはテクノロジーの負の面かもしれないし、高まり続ける気候変動リスクかもしれない。そして、この種火はいずれ業火になり得る可能性を秘めています。しかし私たちは、そうした手に負えないものと出会うたびに進化してきました。

かつて火をコントロールしたように、再び私たちには新しいテクノロジーを手に入れて進化する。その可能性をひとつでも多く未来に増やしていくこと。それがリアルテックファンド設立の真意なのです。


文:森 旭彦

株式会社ユーグレナ 取締役副社長/リアルテックファンド 代表
永田 暁彦(ながた あきひこ)

慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。
2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。