ユーグレナ社は世界で初めて、ミドリムシを人類の食料にした会社です。そして今はミドリムシなどを用いたバイオ燃料事業で、地球の未来に向けた挑戦を続けています。

資金力の小さな研究開発ベンチャーが、誰も成し得なかったことを実現するために必要なことは何か、取締役副社長の永田暁彦がユーグレナを経営するなかで学んだことを語ります。

ユーグレナ社は恵まれない「苦学生」だった

藻類の「高機能油脂」に目をつけていたのはユーグレナ社だけではありません。2003年、私たちに先駆けて微細藻類からバイオ燃料をつくる事業を始めたのは、とあるアメリカのベンチャー企業でした。
私たちよりも2年早い、2003年に起業したこのベンチャー企業は、2007年、2009年にそれぞれ約1千万ドル、2010年には約5千万ドルもの資金調達を行い、2011年にはナスダックに上場し、またたく間に世界で注目される存在になりました。彼らこそが時代の先端を行く藻類ベンチャーになると誰もが信じていました。

そんなエリート街道まっしぐらの彼らとは打って変わって、2005年に起業した私たちユーグレナ社はまるで苦学生そのものでした。研究開発を行うベンチャーにとって、集まる資金は多い方が圧倒的に有利です。研究開発の質を上げられるだけでなく、研究に集中することができるからです。日本とアメリカではベンチャー投資の市場規模そのものが異なるとはいえ、私たちは逆立ちしても、彼らのような潤沢な資金を集めることはできませんでした。

そこで私たちは研究資金を捻出するために、ミドリムシの健康食品事業を始めました。いわば苦学生らしく、学業である研究とは別の仕事をして学費を稼いでいたわけです。そんな私たちのことを「彼らはミドリムシの研究開発をするはずなのに、なぜ食品会社をやっているんだ?」なんて言う人もいました。

ベンチャー技術大賞の授賞式のようす(2010年)

そんな起業から約14年という時間が流れた今、そのアメリカのベンチャー企業はもうバイオ燃料の夢を追っていません。一方の私たちは、バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを設立し、「日本をバイオ燃料先進国にする」ことを宣言しました。そして健康食品事業においても黒字化し、2月25日には日本企業で初となる国連世界食糧計画(WFP)と事業連携を行いました。

資金力には恵まれていなかった私たちが、どうして研究開発を続け、夢を追いかけ続けられたのか。その原動力こそが、健康食品事業の売り上げだったのです。

研究開発ベンチャーに必要な「自走」の仕組み

なぜ有望視され、潤沢な資金力を持っていたアメリカのベンチャー企業は夢半ばで終わってしまったのか。それは、「自走」するための仕組みを持っていなかったからだと思います。

研究開発ベンチャーの事業戦略は「一撃必殺」になりがちです。
創薬事業を例にすると分かりやすいのですが、たとえば10年間赤字で研究開発を進め、開発に成功したら大儲け、失敗したらゼロ、というものです。研究の成果による一撃の成否に賭ける戦略です。この戦略では、いかに莫大な資金を集めることができたとしても、成功しなければゼロ。研究もそこでおしまい。つまり何もなかったことになってしまうわけです。

私たちは資金的に恵まれない境遇のおかげで、起業すぐからミドリムシの健康食品事業と研究開発による、両輪の経営をしてきました。健康食品事業は、最初は時間がかかるわりに実入りの少ないものだったのかもしれない。しかし私たちはさまざまな工夫をしながらミドリムシを商品化し、並行して研究開発も進めていきました。

2009年末には健康食品事業の単月黒字化を達成。その後は健康食品事業の利益を研究開発などに投資してきました。そして現在は、約60億円をバイオ燃料事業に投資してもなお、研究を続けることができるほどの自走力を持つ企業になりました。

そして結果としてユーグレナ社は、バイオ燃料事業を推進するだけでなく、ミドリムシを人類の食料としても流通させることができた。私たちは、幸か不幸か一撃必殺の成功を目指しませんでした。その代わりに、ミドリムシの研究開発を100年続けられることを自分たちの成功だと考えてきたんです。
そして200年、300年先の地球の未来にインパクトを与える企業になること。それが私たちユーグレナの戦略なのです。

~次回につづく~


文:森 旭彦

株式会社ユーグレナ 取締役副社長/リアルテックファンド 代表
永田 暁彦(ながた あきひこ)

慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。
2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。