石垣島との出会いがすべてのはじまり。
「島のみんなの役に立ちたい」という思いが
ユーグレナへと導いた
大学に入ってすぐ、長瀬は珊瑚礁との出会いを求め、沖縄・石垣島を訪れた。海の美しさに心酔し、幾度も訪れる貧乏学生である長瀬を、石垣島の人々はいつも温かく迎え、いつしか家族のように無償で食事や寝泊まりをさせてくれるようになった。こうして石垣島の自然ばかりでなく人々にも魅せられていった長瀬は、「石垣島を豊かにするお手伝いをしながら、俺もオジイやオバアと一緒に生きていきたい」と心に誓ったという。
当時、長瀬は二十歳そこそこで、ろくに世の中のことも知らなかったが、起業家精神を奮い起こし、クラウドファンディングなど、石垣島の地域創生に役立ちそうな施策を次々トライしていった。しかし……
「全然うまくいきませんでした。むしろ島のオジイたちに励ましてもらう始末で、悔しいし、情けない気持ちでした。そんなとき“ミドリムシ”という生き物を石垣で大量培養している東京の会社があるらしいと聞いたんです。それがユーグレナとの最初の出会いでした」
当時はユーグレナもまだ会社設立から数年しか経過しておらず、今よりも知名度が低かったせいもあるが、バイオテクノロジーに詳しいわけでもなかった長瀬にとってその社名は初耳だった。会社について調べてみると「みーふぁいゆープロジェクト」という石垣島を含む八重山地域の地域振興に関するプロジェクトを展開しているようだった。
「現在ほど大々的な取り組みではなかったにせよ、できたばかりのベンチャー企業が、愛する石垣島で地域振興に挑戦している。それを知って胸が熱くなりました。そのときは情熱に突き動かされて、ユーグレナに島の活性化支援について交渉に行きました。結果的には実を結ばなかったのですが、どこの馬の骨かわからない若造が突然訪ねてきたのに、会って熱心に話を聞いてくれ、他の企業とは違うなと感じました」
それから数年後、大学院に進んだ長瀬は就職活動の時期を迎えていた。長瀬は、依然として何か石垣島の繁栄につながる仕事がしたいと考えており、就職先としてユーグレナの存在が浮上した。
「私がのん気に構えていたせいで、慌てて入社志望の気持ちを伝えた時にはユーグレナの採用期間は終了していました。ところが、かつての石垣でのいきさつを話すうち、特別に試験を受けさせてもらえることになり、その後晴れて入社が決まりました」
2013年に入社した長瀬は、ヘルスケア事業の商品を営業する部門に配属され、持ち前のバイタリティを発揮し、めきめきと業績をあげていった。
「イシガキ愛」から「ミドリムシ愛」、
そしてビジネスを創造する喜びへ。
夢中になるうちにいくつものエネルギーがわいてきた
「実をいうと、最初はユーグレナが石垣島に設けたカフェ『ISHIGAKI euglena GARDEN』などを運営する部署への配属を希望していたんです」
石垣島の地域振興に直接関わりたいと考えていたからだった。しかし、新人向けの営業研修で成績を上げ、それを評価された結果、営業職に拝命された。「仕事を成功させたい、という熱量だけは誰にも負けていなかった自信があります」というように、目の前の仕事に精一杯取り組んだ結果だった。
「目覚めてしまったんですよ。イシガキ愛に加え、ミドリムシへの愛情とビジネスを創造する喜びに」
2013年当時のユーグレナは、上場して急速に成長スピードを上げ、社会からの注目度もぐんぐん上がっていた。黙っていても商品は売れたのではないかと思うかもしれないが、そう簡単ではなかったようだ。
「ミドリムシがどんなに身体に良いということが知られても、スーパーなどの大規模小売店のバイヤーを納得させ、売場スペースをもらうのは並大抵のことではありません。飲料市場には、大規模な競合がたくさんいますし、大手とベンチャー企業とではかけられる人やお金に差があります。私たちは少ない人数で1軒1軒を丁寧に営業していくしかありませんでした」
明らかに苦労話なのだが、生き生きとした表情で話す長瀬。
「結局は熱なんですよ。商品の魅力を伝える私たちにどれだけ本気の熱がこもっているか。それを小売店のバイヤーが見ていることに気づいたんです。情熱ならば負けません。それに、魅力を伝えようとして学ぶうちにミドリムシがどれだけ人の身体に良いものなのかが、わかっていきました。無理なんかしなくても、『これはたくさんの人に飲んでもらわないといけない』という熱がわいてきます。そうすると、少しずつですが売場を割いてくださるお客様が増えていき、ビジネスをゼロから創っていく喜びも知ることができたんです」
はじめの内は、「ユーグレナが活性化すれば、石垣島への貢献につながる」ことが長瀬の熱源、すなわちモチベーションだった。ところが、「話題性だけでは売れ続けることは困難」といわれ、競争が激しい健康飲料市場のおかげで、ミドリムシの真の価値に気づき、新しい市場を開拓することができたことで、それらも長瀬の熱源となっていった。
入社6年目の秋、長瀬は大阪営業所の所長に抜擢され、好調な西日本の市場をさらに増強するミッションに取り組んでいる。
「やることは今までと変わりません。こつこつと小売店をまわり、そこにいるバイヤーの方々と真摯に向き合って、消費者の皆さんのために何がいいのかを考え、提案していくだけです。新規の市場は、テレビでユーグレナが紹介されたりすると、しばらくの間は飛ぶように売れます。でも、話題性だけでは勢いは必ず薄れてくる。そんな時にこそ私たちの力と、商品の力が試されます。ただ熱く語るだけではなくて、適切な情報をいろいろな形に加工して、また発信の仕方に工夫して、各地の消費者の皆さんに届け、支持してもらうんです」
さらに長瀬は、この仕事に就いて、ビジネスの厳しさを知った今だからこそ、声を大にしていいたいという。
「ゼロから市場を開拓するとか、ビジネスを起ち上げる、なんていうとスタイリッシュでカッコ良い姿を想像するかもしれませんが、そんなことはありません。商売って厳しいです。でも、だからこそ学ぶことがたくさんある。私としては起業を志すような人こそ、ユーグレナに入社してほしいです。ユーグレナには確かな独創性と商品力があります。その後ろ盾を得ながら、リアルなビジネスと新しい市場の創造に挑戦できるなんて、そうそうあるチャンスではないと思います」
最後に長瀬自身の将来ビジョンを聞いてみたが、やっぱり最後の最後までこの熱い男はブレていなかった。
「石垣島に行きます!もっと成果を上げて、オジイやオバアに恩返しがしたいです」
※インタビュー内容及び役職は取材時点のものです。ご了承ください。