LIFE

花と暮らす歓び

2022.06.01

自分自身がニュートラルでいられる場所や時間についてお話を伺う “LIFE”インタビューの、今回のゲストはフラワーショップ「V E I N(ヴェイン)」の山口香織さん。花に囲まれた彼女の日々。今回はご自宅にお邪魔しましてお話を伺いました。

和菓子屋さんからお花屋さんへ

親しい人から「カステラちゃん」という愛称で呼ばれる山口さん。それは、お仕事をスタートしたのが、カステラで有名な「文明堂」だったからだと言います。そのキャリアについてまずは教えてもらいました。

「和菓子が大好きで、最初の職場には文明堂を選びました。毎日お店に立って接客をしながら、在庫管理をしたり発注をしたり、お店の季節のしつらえを整えたり、店舗運営に関わるほぼ全ての業務をやらせてもらいました。小さくてもお店を運営することを丸ごと体験できたこの仕事が、とても楽しかったし、勉強になりました。やはり、和菓子の世界は四季の移ろいをとても大切にします。店長が厳しく教育してくれる方だったので、日本独特の季節の感覚や風習、ディスプレイの方法に敏感になりましたね。勤めて5年ほど経ったころ、通勤路にある街のお花屋さんをみて心惹かれている自分に気がつきました。生活の中にあるお花。彩り溢れていて、魅力的でした。いつしか、お花屋さんをやってみたい!と思い始め、姉が埼玉から東京に引っ越すことになったのをきっかけに、代々木上原の「THE LITTLESHOP OF FLOWERS」(以下リトルショップ)を訪れたのです。街なかにある小さなお花屋さんは、当時の私にピンと来ました。すぐに、直接メールをして、働きたいですと伝えていました」

お花屋さんって、街にあるとついつい立ち寄りたくなる楽しい場所ですよね。けれど、見るのと働くのでは大違いと聞きますが、実際に飛び込んでみてどうだったのでしょうか。

「当時リトルショップでは、お花屋さんだけでなく、ファッションブランドを扱う「ガスリー」という名前のPR会社も運営していたので、どちらの仕事も関わらせてもらうことになりました。それはそれは、忙しい毎日!採用になった翌日から花屋さんに立つことになり、とにかくひたすら実践の日々でした。花の名前も分からない私でしたが、幸い接客力は下地がありましたので、先輩の背中を見ながら花について学び、実際にお客さまの反応を見て体得していく感じでした。当時のリトルショップは代々木上原に店舗があって、それほど混み合うお店ではなかったので、じっくり花の名前を覚えたり、組み合わせを覚えたり、接客をしながら即興力を学ばせてもらった贅沢な時間でした」

花束を作るのは、今日の洋服を選ぶ感覚

6年間「THE LITTLESHOP OF FLOWERS」で働いたあと、2016年に「VEIN」という自分のお店をオープンしました。

「お花をスタイリングする場数が少しずつ増えていき、自分のスタイルが徐々にできていきました。いずれ自分のお店を持ってみたいなと考えていたので、2016年に東京・千駄ヶ谷に「VEIN」というお店をオープンさせました。お店に来てくださった個人のお客さまでも、お店やイベント会場へ届けるようなお客さまでも、出来上がったお花をお渡しする時や、車に積んで届けるまでの過程が楽しいんです。どうぞ、と手渡した時の相手の表情がほどけていくような瞬間、笑顔が現れる瞬間がとても嬉しい。自分が作るお花をどんな風に形容したらいいのかわからないのですが、大事にしたいと思っているのは全体のバランスです。前からも後ろからも、花束の全体が美しいバランスで在りたい。花をスタイリングする時は、最初からバランスを考えすぎず、まずは作り始めてみます。全体の5割くらいできたら、ようやく整えていきます。花のスタイリングは、洋服選びに似ている気がするんです。一度着てみないとその日の自分にしっくりくるかわからない感じってありますよね。そんなイメージと似ていて、いくつかのお花を手に取って束ねてみると、見えてくるバランスがあるんです。もちろん、スタイリングしながらお客さまの顔が浮かんできます。どなたが頼んでくださったのか、誰にどんな気持ちで差し上げたいのか、できるだけ詳しく前もって聞くようにしていますが、あいにく詳しく伺えない場合は、注文してくださったご本人のイメージを鮮明に描くようにします。類は友を呼ぶと言いますが、そのお客さまからイメージを膨らませていくことが多いですね。ラッピングやリボン、受け取ってくださる方のためにイメージに近いものを選びたいなと思います。お花だけじゃなくて、ラッピングやリボンも花束の大切な要素です」

花が教えてくれる自分自身のこと

そんな山口さんのご自宅は、さぞやお花に溢れているのだろうと想像していました。そして、やっぱり、美しい花に囲まれて生活されているのですね!

「植物や自然にはエネルギーがあるので、部屋の中に取り入れると、空間に生気が宿り始めます。私はできるだけ、部屋のあちこちに花を置くようにしています。目に入る場所、たとえば玄関、洗面所、リビングそして、台所の洗い場の目の前など、各部屋に小さな花瓶に挿した花や植物を置きます。観葉植物は成長しながら動きを見せてくれるし、お花は色や形が変化していくのが楽しいですね。冬は暖房をつけるので、涼しい場所に置いたり、夏は水をあげる頻度や日当たりに気をつけます。植物は気の滞りをすぐに感じ表現してくれるので、自分のコンディションや忙しさも映し出してくれます。『あ、今忙しいんだな、私』などと気が付くきっかけになります。今は、移転のために一時的にお店をクローズしているので、家の中がいつも以上にお花で溢れているのですが、囲まれているとやはり、落ち着きます」

センス はどう培っていくか?

花を束ねる、とシンプルに言うけれど、そもそも選ぶ花や大きさ、種類や色合いなどたくさんの要素を重ね合わせていく作業は、特別な技術や知識が必要なのでしょうか?山口さんの作る花束の「可愛らしさ」はどこからやってくるのでしょう。

「う~ん、野草っぽいお花、脇役みたいなお花が好きなのかな?自分でも気がつかない傾向や好みがあるとは思います。たとえば、ラナンキュラスのラックスシリーズは、艶やかに光る花びらが、赤から茶色に変わっているのがとっても可愛い。それからクリスマスローズは健気に咲く控えめさが好きで、よく見ると可愛いその存在感に惹かれます。誰もが知っている王道の美しい花より、意外な可愛らしさを隠しているような花かな?それを自分なりに見つけてあげられた時、愛着を感じるのです。もちろんどの花も可愛いですよ(笑)元気一杯に咲き誇る姿も、だんだんと花びらを落として枯れてもなお愛らしい形を見せてくれるので、なかなか捨てることができません」

「お花のインスピレーションはお花の写真から得ることが多いですね。たとえば、海外のフローリストの写真を良くみます。感覚が全然違うんです。背景の色とお花の組み合わせ、空間とお花のバランス。ラッピングも白い包装紙なだけなのに潔いお洒落さがあったり。四季のある日本人らしい価値観の良さもありますが、異国に住む人たちの感覚を参考にさせてもらうことで、花の魅力をもっと惹き出すヒントになることがあります」

花と暮らすこと

家の中に置いておきたいもの、こだわっている道具などはありますか?

「花を束ねるときにバランスを整えていく上で、使うアイテムが鏡です。束ねながら時折鏡に映して持った時にどんな風に見えるのかな?と確認します。そんなわけで、自然と集まってくる花屋さんを形作る小物がこの家には溢れていますが、もともと作ることが好きなので、家でビーズや看板を作っている時間が好きなんです。材料や作りかけの作品や花と一緒に撮影するための小道具なんかが家の中には転がっています。たびたび骨董市にも訪れます。古くて味のある花瓶やインテリアを選ぶと、そこに活ける花や植物にストーリーが生まれていく気がします。ほとんどが一目惚れで買いますね。」

「心地良さって人それぞれだと思うのですが、私にとっては、植物や花が生き生きできる空間は自分にとっても心地よい空間なんだと思っています。欠かせない要素は、自然光、風通しの良さ。お花屋さんってどこでも基本的には半分屋外で半分室内という建物が多いのです。だから、過酷な部分もあるけれど、花と一緒に居るってそういうこと。花が心地良さそうに、お互いにおしゃべりしているような、そんな空間にいるのが好きなんです」

可愛らしい花のようにお喋りしてくれる山口さんは、さりげなく手元を動かしながらてきぱきと花を束ねていきます。全身で花と会話しながら、花たちが心地よい位置を探っていきます。出来上がった花束は、エキゾチックでありロマンチックであり、和でも洋でもある絶妙なバランス。山口さんの人柄そのものでした。今後は、初夏に世田谷の住宅街に移転したお店をオープンする予定だそう。街のお花屋さんとして、親しまれるお店になるのが目に浮かびます。

山口香織
Kaori Yamaguchi

東京・千駄ヶ谷にあるフラワーショップ「VEIN(ヴェイン)」のオーナーフローリスト。独自のバランス感覚と審美眼でセレクトする花は、可憐でロマンティック。束ねられた花々からは、そこはかとなく強い意志を感じる、強さと可愛らしさを合わせ持ったフローリスト。現在は移転予定のため一時クローズし、2022年初夏に世田谷にリオープンする予定。

Instagram: @veintokyo

Photographies by Yuka Uesawa

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