MY

等身大の自分を受け入れ、素直に生きる

2022.06.01

自分らしさや信念についてお話を伺う、”MY“インタビューの今回のゲストは、アーティストの門間理子さん。日本で生まれ、7歳〜14歳をニュージーランドで過ごしたという彼女が描くアートは、古来の自然や文化の美しさ、有機的なものごとの繋がりが情緒的に表現されている印象を受けます。豊かな感性を持つ彼女が、どのようにして今の”自分”に至ったのか。そして、彼女にとっての表現とは。お話を伺いました。

踏み出した一歩。全ては繋がっていると思えた

日本で会社員をした時期もあったという門間さん。どのような経緯でアーティストを目指したのでしょう。

「幼少期を過ごしたニュージーランドは、びっくりするほど物が少なくて、自分で何でも作って遊びました。絵を描くときにも、発色の良いクレヨンなんてないから、果物や植物から自分で絵の具を作りました。そんな風に過ごした影響か、物が作られる原理を知ることや、実験の手作業が大好きで、大学院まで化学工学を専攻し、その後、外資系化粧品会社に研究職として入社しました。当時からサスティナビリティを掲げるその企業に深く共感し、憧れを抱いていた会社でした。会社に入ってから、化粧品の研究だけではなくて、商品が作られる過程に幅広く携わりたいと思い、社内で商品開発の部署に異動しました。開発のプロセスでたくさんの人と話すのは楽しかったです。3年ほど働いた頃、忙しさで段々と希薄になってしまった家族とできるだけ共に過ごしたい、そしてさらにクリエイティブなことがしたいという想いが強くなり、会社員を辞めて再びニュージーランドに戻ることにしたのです。アルバイトをしがら、絵・デザイン・写真を独学しました」

会社員を辞めて、ニュージーランドに戻る時はどんな心境でしたか。

「恐怖心はありました。最初にニュージーランドで過ごした14歳までに合計4年学年を飛び級して、15歳からはアメリカ・バーモント州の大学に進学、大学院の修士課程まで行ってようやく入った憧れの職場。そこを自ら離れる恐れはあったけれど、自分の中の恐怖心を打ち破りたかった。そんなときに、お母さんが、何をしていても無駄なことはない。理子の経験は全てつながっているよ、と言ってくれた。その言葉にすごく勇気づけられました」

門間さんにとって、お母さんはとても大きな存在なのですね。

「お母さんのことが大好き。影響を受けていますね。お母さんは行動力があって、リベラルな思考の持ち主。家族旅行に行っても、1日は高級ホテルに泊まったら、次の日からはバックパックで旅をする。そんな風に色々な経験をさせてくれました。お母さんの教えは、自分でやると決めたことは、最後まで必ずやり通すこと。ちなみに教えを守っていたら、習い事が辞められず増えていってしまいましたけれど(笑)お父さんはDIYが好きで、いつも私のことを応援してくれています。自分のルーツはと聞かれたら、ニュージーランドもアメリカも日本もミックスされているけど、やっぱり一番は実家かな」

アイデアを因数分解して生まれるクリエーション

現在は、長野にあるアトリエや都内のご自宅で制作活動をすることが多いという門間さん。作品は、どのように作られていくのでしょう。 「インスピレーションは常に湧いてきます。街を歩いているとき、お風呂に入っているとき、常に描きたいアイデアが湧いてくるので、必ずメモに書き残しておきます。すぐにキャンバスの前に立って、そのアイデアを描き始めることはないですね。まず、どうしてそれを好きだと思ったのか、座ってゆっくりと噛み砕いていきます。ときには文献を読んで研究し、古代の人々に思いを馳せて、結びつくイメージを出していきます。ノートに言葉やイラストを書いてみて、整理してから絵にすることも多いです。アイデアを思いついた瞬間は嬉しいですが、クリエーションには時間と集中力が必要。制作の過程でその作品に対する集中力を保つためにも、瞬間的なアイデアを丁寧に深掘りしていくことに時間をかけます。アイデアの源流には必ず理由があるから、このプロセスを大切にしていくと、少しずつ作品の輪郭が見えてきくるのです」

化学もアートも、抽象的なコンセプトを理解するための手法

門間さんが専門としてきた「化学」と「アート」。一見相反するように見えるこの二つは、彼女にとっては共通点があると言います。

「化学もアートも、ひとつひとつ試行していく“実験”が基本にあります。化粧品の研究では、その商品を肌にのせて、時間経過と共に起こる効果や反応を数値化し、利用者へメリットを届けていく作業。一方、アートはその作品を見て何が起こるか、数値化する必要はないし、何を受け取るかは、描き手の物差し以外、見た人が自分で決めること。ただ、どちらも抽象的なコンセプトを理解するための手段だと思うのです。感じる、という点では同じなのです。絵を描くときに心がけていることは、人が少しでも心安らぐものを描くこと。自分の経験や考えが作品に反映されているので、単純にただただハッピーを届けたい!というよりも、色々な背景がある中で、ホッと安心できたり、穏やかな気持ちになってもらえると嬉しいです」

「特に、先住民族や移民の文化、歴史と共に編み上げられる装飾のデザインが好きです。東京で会社員生活を経て、ニュージーランドに戻り、よりプリミティブなことへ興味が湧きました。今でも絵の具は、貝殻や土や植物を茹でたり、抽出したり、砕いたりして、一から作ることもあります。意図的に手を使って描くこともありますね。古いものが大好きなので、アンティークのシルクの帯芯をキャンバスに絵を描くこともあります」

自分に嘘をつかない、自分を否定せずに受け入れること

積み重ねていく人生の中で、決して目の前のことを楽観視するのではなく、立ち止まって考え、それに対する自分の気持ちに耳を傾け、恐怖さえも受け入れて選択をしてきた門間さん。

「大切にしていることは、自分に嘘をつかないことですね。自分で感じていることは、自分で受け止めてあげること。こんな風に考えちゃだめ、と思わずに、否定しないこと。そう思った自分をただ受け止めるだけでいいんです。10代で学年を飛び級して、周りに年上の人も多く、気を張って自分の価値を証明していかなければならないと思っていた期間が長かったから、今は自分で自分を認めてあげられたらいいんだ、と思っています。とにかく流れに任せて、くるべき時に機会はやってくるから、それを逃がさないように過ごしていきたいですね」

しなやかな身体を目一杯動かしながら、夢中で話をしてくれた門間さん。その様子を見ていると、作品がまるで彼女の一部のように思えてきます。チャーミングな笑顔と、真っ直ぐな瞳に、好奇心と創作していくことへの歓びが溢れていました。私たちは、もともと備わっている直感的な感覚や、自分の向かう方角を見定める力、感じとる力などをもっと素直に、のびのびと開放して良いんだ。そんなことを感じさせてくれた時間になりました。

“In pursuit of reason, with my intuition for a guide”
直感をガイドに、源流を探る

門間理子
Riko Monma

ニュージーランドでの幼少期を経て、米国に進学。大学院では化学工学を専攻し、化粧品会社に勤めたのち、アーティスト活動を開始。現在は長野や東京を拠点に制作活動を行う。

 Instagram: @rikomonma

Photographies by Yuka Uesawa

< NEXT
BACK TO LIST
PREV >