事業を通して社会課題を解決したい―。その思いを世の中に伝えていくために、企業はどのようなコミュニケーションを図っていくべきなのでしょうか。
約5000人が集まる「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」をはじめ、さまざまなファンイベントを開催するヤッホーブルーイングの代表取締役社長・井手直行さん(ニックネーム:てんちょ)と、ユーグレナ社の取締役副社長・COOを務める永田暁彦が「令和の企業コミュニケーション」について語り合いました。

ファンとのコミュニケーションを大切にしてV字回復

井手直行さん(以下、てんちょ):今日のイベントには、うちのファンの方もいっぱい来てくださっているんですよ。

永田暁彦(以下、永田):ひと目見ただけで分かるのはさすがですね! せっかくなので、簡単にお互いの会社の自己紹介をしましょうか。

てんちょ:はい。ヤッホーブルーイングは「よなよなエール」をつくっている会社です。家庭で飲める本格エールビールというコンセプトで1997年によなよなエールが誕生し、23年目になりました。

創業直後は順調なスタートだったのですが、1999年頃に地ビールブームが終焉してどん底を経験しています。それからいろいろなことに取り組んで、現在は14年連続増収増益となっています。特に大きなポイントが、ファンの方々とのコミュニケーション。2010年に初めて小さなイベントを開いたのですが、思っていた以上にファンの方から熱い声をかけていただき、我々の存在意義を実感しました。その後は大きなイベントにも挑戦し、昨年はお台場で「よなよなエールの超宴」という5000人規模のイベントを開催しています。

井手 直行 Naoyuki Ide(株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長)
1967年福岡県生まれ。大手電気機器メーカー、環境アセスメント事業会社、軽井沢の広告代理店での勤務を経て、1997年の株式会社ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。2008年より同社代表取締役社長。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)。ニックネーム「てんちょ」として同社ファンから親しまれている。

永田:ありがとうございます。
僕たちユーグレナ社は2005年に世界で初めてユーグレナの屋外大量培養に成功した東京大学発ベンチャーです。社長の出雲がバングラデシュで抱いた「栄養問題を解決したい」という思いから出会ったのがユーグレナです。それまでにも40年以上研究されていて、体にいいことは分かっていたけれど、誰も大量培養には行き着いていなかった。それを実現し、さまざまな商品を開発しています。

現在はユーグレナ社の商品を定期購入してくださる方が約23万4000人いらっしゃいます。僕たちにとって、本当に宝物のような方々だと思っています。
ということで、てんちょ、ここからは一緒にパネルディスカッション形式で各テーマについて語り合っていきたいと思います。

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

てんちょ:了解です。では、飲める方はよなよなエールを手に取っていただいて、乾杯!

テーマ①:令和元年に感じる手応えや違いは?

永田:この1年で「SDGs」という言葉がよく聞かれるようになりました。僕たちは3年前くらいからずっとSDGsに注目してきました。ユーグレナ社で働く仲間や株主は、共通の課題感を持っている人が多い。なぜ働くのか? なぜこの会社の株を買うのか? その理由が、社会課題を解決することに向かいつつあると感じています。特に1980年以降に生まれたミレニアル世代と呼ばれる人たちは、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを求める傾向がある。働く場所を選ぶ際にも、これからはより社会貢献性の高い商品・仕事が選ばれるようになるんじゃないでしょうか。

てんちょ:社会課題への意識は、世の中全体で年々高まってきていますよね。僕も、社会課題の解決へ向かっていくことが、企業が今後生き残っていくポイントじゃないかと思います。僕たちの場合は「ビールを通して人に幸せになってほしい」という思いを発信していて、そこがファンのみなさんに共感してもらえているんじゃないかと。ファンイベントを開くと、初めて会った人同士が仲良くなれるんですよね。そんな場面を大切に、ビール会社大手が言わないような個性的なメッセージもバンバン発信しています。

永田:会社として個性的なメッセージを出していくことは大切ですよね。昔は、働く場所としての企業には「安定していて給料が高い」ことが求められていました。でも今はそうした条件にこだわらず、みんなが自分らしい選択をするようになった。ビールもそうですよね。 商品の向こう側にある思いやストーリーで選べるようになったと思うんです。世の中の多様性が、労働にも消費にも広がってきている。だからこそヤッホーブルーイングさんはずっと増収増益を続けられているんだろうなぁ。

てんちょ:僕は、ユーグレナ社さんがすごいと思いますよ! 製品に込められた哲学を応援したいという人が、たくさん付いてくれているということですよね。昔は選択肢が少ない横並びの時代だったけど、今は僕らのような個性派が選ばれるのが面白いですよね。

永田:1つ、質問してもいいですか? 売り上げはどんどん伸びているということですが、社員も増えているんですか?

てんちょ:増えています。今は全体で140人くらい。来年度以降も人をガンガン採用しようと考えています。仲間を増やして、やりたいことを1つでも多く実現したい。

永田:30人でやっているときと140人の今だと、商品に込めるメッセージや広告などで意見がぶつかり、「よなよならしさ」みたいなものがぶれてしまうことはありませんか?

てんちょ:ぶれないようにする努力を、現在進行系で続けている感じです。いつも「よなよなって何だろう?」と社内で議論していますから。ユーグレナ社さんは今、どれくらいの規模に?

永田:グループ全体で400人を超えます。

てんちょ:すごい。それこそ大変じゃないですか?

永田:いちばん大変なのは、「食品を作っている人」と「燃料を作っている人」がいるということですね。僕たちのファンって、「ユーグレナを飲んで健康になれた」という人もいれば、「新しい燃料にチャレンジしているこの会社が好きだ」という人もいると思うんです。いろいろな意見が出るし、M&Aもしてきているので、意見を合わせるのは大変です。ただ、ぶれない信念として「人を健康にすることと社会問題を解決することは絶対に正しい」と思っています。だから、それを実現するためには会社の成長を追いかけることも正義だと思うし、僕たちも仲間を増やしていきたいですね。

てんちょ:僕たちも成長が1つのテーマではあるんですが、大手を追い越そうとは思っていないんですよね。「日本のビール文化を変えよう」と真剣に思っていて、それは長野県の会社が長野県だけで商売していても実現できない。そうなると日本のビール市場のある程度を取っていかなきゃいけない。1番や2番を目指すということではなく、目指す未来のために成長があるということです。

テーマ②:社会や顧客に対して、どんなコミュニケーションを目指している?

永田:ユーグレナ社は上場しているので、商品や経営体質などいろいろな情報を適宜開示する必要がある。その中で、自分たちが「人と地球を健康にする」という経営理念に基づき本気で事業をやっているんだということを伝え続けなければいけないと思っています。理想的なのは、てんちょや僕のような立場の人が「この方向なんだ!」と叫んでいるのではなく、組織全体でその方向性を目指せている状態ではないでしょうか。商品を通じてでも、メディアを通じてでも、常に同じメッセージを届けられることが大切だと思うんです。

てんちょ:いいこと言いますねぇ。うん、一貫性があることは本当に大事だと思います。昔はコミュニケーションだって横並びで、社員は会社に指示されたマニュアルに沿って対応するしかありませんでした。でもヤッホーブルーイングは、こまかいマニュアルがないんです。会社の考え方や大切にしていることを共有した上で、全部任せています。

永田:それはすごいですね。

てんちょ:お客さま対応でも、メールや電話を受け付けた人が全部自分の判断と言葉で向き合うんです。マニュアルがないから難しいんだけど、そうした細部に企業の考え方や姿勢が宿るんじゃないかな。これは言いすぎかもしれないけど、うちのスタッフはみんな「神対応」してくれていると思います。スタッフの誰と話しても、うちのビールが本当に好きで、ファンのことを本当に大切にしていることが伝わるはずです。

永田:入社する人は、その段階で「よなよなファン」なんですか?

てんちょ:よなよなファンの人も、会社のファンもいますね。ちなみに採用のときは「ビールが好き」「ビジネスパーソンとして優秀」「僕らの会社にフィット感がある」という3つの要件を見ています。以前はこの中で2つ当てはまれば採用していたんですよ。でも、実際に入社してから、なかなかうまくいかなかったパターンがあって……。

永田:「ビールが好き」で、「ビジネスパーソンとして優秀」な人!

てんちょ:そうなんです(笑)。どんなに優秀でビールが好きでも、僕らの文化にフィットしなければ、うまくいかないんですよね。今は、入社の時点でかなりマッチしています。これは変な言い方になるんですが、昔からいる人よりも、最近入ってきた人のほうがヤッホーブルーイングらしいかもしれない。

永田:ありますよね。それは昔からいる人が悪いわけではなく、会社全体がうまく自分たちを伝えられるようになってきたからだと思います。そして、その思いをメディアの人たちも理解してくれて、うまく伝えてくれるようになっていく。思いの蓄積度がどんどん高まっていく好循環があるんじゃないでしょうか。

てんちょ:本当にそうですね。昔の僕は、それをそこまで大事だと思っていなかったんです。「ビールが好きで仕事ができるならいいじゃん」と考えていた。でも、だんだんと気づくようになりました。「ビールを通じて世の中に貢献しようとする文化がいちばん大事だよね」と。どんなに優秀な人が来ても、面接では「僕らはチームでいい仕事をしようとしているんだけど、あなたは大丈夫?」と聞きます。そこで「たぶん大丈夫です」だと、僕はNG。大丈夫ではダメなんです。入ってから不幸になっちゃう。「チームで仕事をしたいんだ!このチームに加わって、ビールで世の中をよくしたいんだ!」という人しか迎え入れていません。だからどんどんいいスパイラルにつながっていきますね。

永田:会社が最初にできたときって、みんなベンチャーじゃないですか。最初はオリジナリティで勝負していて、そのときは会社への愛だけで人が集まってくる。でも経営者って傲慢なところがあって、会社が伸びていくと市場の優秀な人が集まるようになり、つい迎え入れてしまう。「ただ優秀な人を入れるだけでは自分たちらしさが薄まっていく」と気づくタイミングがあるんでしょうね。そこから、再び自分たちらしさを取り戻すことが大事なんだと思います。

テーマ③:会社の活動を通して、どんな社会をつくっていきたい?

永田:僕は、「こんな会社を応援したい」と思える企業が増えることが人類の幸せにつながるんじゃないかと思っているんです。選択肢として、いろいろなものが増えていくことが大事なのかなと。「石油燃料よりバイオ燃料を選びたい」と思う人もいれば、「プラスチックじゃなくて紙パッケージの商品を選びたい」という人もいる。そんな、選ぶ人の多様性が否定されない社会をつくりたいですね。

てんちょ:僕らの会社のミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」なんですが、創業当初は絵に描いた餅のようなところがありました。でも、僕らのビールを飲んでくれる人が増えるにつれて、ビールをきっかけにした出会いを喜んでくれる人が増えてきたんですよね。活動の中で、そうしたことをどんどん実感できるようになってきています。ここ数年、冗談で「よなよなエールでノーベル平和賞を受賞する」と言ってきたんですけど。

永田:おお! 

てんちょ:ビールを飲むイベントだと、参加した人が酔っ払ってトラブルになっちゃうこともまれにあるんですが、僕らのファンイベントは本当に平和で幸せなんですよね。これを世界に持っていけば、ビールを通して本当に人を幸せに、平和にしていけるんじゃないか。最近は本気で、そんな時代をつくっていきたいと思っています。

永田:ヤッホーブルーイングとしては、何を追いかけていけばそこにたどり着けるんでしょうか?

てんちょ:今度、社内の研修で20年後に向けたビジョンを掲げたいと思っているんです。僕が考えているのは「世界でいちばん熱狂的なファンがいる会社にしたい」というビジョン。世界的なビールブランドには数では勝てないかもしれないけど、「世界で最も熱狂的なファンがいるのはよなよなエールの会社だね」と言われるようにしたいんですよね。

永田:いいですね。これは僕が一個人として目指していることなんですが、いずれはマーケティングのない世界になればいいと思っていて。現代の人って、「これがほしい」という思いを植え付けられすぎているような気がするんですよね。もっと本質的に、「なぜこれが必要か」を純粋に考えて、本当に必要なものを選べるようにしていきたい。

てんちょ:「とにかく買ってもらえればいい」ということじゃないと。

永田:はい。ユーグレナ社が投資している「ポケットマルシェ」というサービスがあります。農家さんが消費者に直接販売するモデルなんですが、農家さんは売り上げアップよりも、「ありがとうございます、おいしかった」と言ってもらえることを喜びにしているんです。働くって、本来はそういうことなんじゃないかなと。1つの商品が売れることで、誰かが幸せになってくれる。そんなことを思いながら続けていくことが大事なんじゃないかと思っています。

てんちょ:うちも、どん底の時代はいつ潰れるか分からないという感じで、売り上げのことばかり考えていました。ウェブのプラットホームに出店して、ネットを経由してお客さまの声を直接聞いたときに、初めて「ファンのために」という考えになったんですよね。そしてリアルなイベントをやったら、もううれしくて頭が真っ白になっちゃった。それからは、気づけば売り上げが付いてきたという感じです。今後は、僕たちがつくったビールを、ホップをつくってくれている農家さんに届けていきたいですね。そして、喜んでくれているファンの声をお伝えしていきたい。「誰かのために」が巡っていけば、僕たちももっといいホップを手に入れることができ、もっといいビールをつくれると思うので。

ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!

※文章中敬称略

編集:多田慎介/撮影:稲田礼子