会社が“ファン”を大切にし、ファンとの関係性をベースにして中長期的に売上や価値を上げていく考え方、「ファンベース」。

多くの会社にとってヒントになるファンベースの考え方について、提唱者である佐藤尚之(さとなお)さんと、ユーグレナ副社長の永田が対談を行いました。
「愛される会社」とはなにか?について話した前編に引き続き、会社とファンとの関係を追求した先にある未来について、語り合いました。

前編はこちら

会社とファンは、相互に影響しあう関係

—改めておうかがいしたいのですが、会社にとっての「ファン」とは、具体的にどんな人たちを指すのでしょう?

永田暁彦(以下、永田):1つは「私たち(会社)に対する期待値を、独自に形成している人たち」と言えるでしょうか。
「次の商品を出すならきっとこんなものだろう」とか「やっぱりこういう施策をしてくれる会社だよね!」みたいな。もう1つは、わかりにくい表現かもしれませんが「赦しを与えてくれる存在」かな。

佐藤尚之さん(以下、さとなお):赦し、というのは?

永田:会社が何かチャレンジをするとき、それが期待外れになってしまうこともあると思うんです。でもそれを許容してくれて、その次をまた一緒に期待してくれる心強い人たちです。
例えば、Apple社のファンって、毎シーズン新商品に対して文句を言っているじゃないですか。

さとなお:確かに(笑)。

永田:それなのに、また次のシーズンのプロダクトを待ちわびている。それってとてつもなく「ファン」だなぁと。

さとなお:僕もその通りだと思います。ファンベースの定義はいろいろありますが、特に「相互に影響を与え合う関係」というのはとても大事だと思っていて。
「便利だから使ってくれている」という機能価値ではなくて、情緒価値や社会価値を支持してくれる人こそが、本当の意味でのファンなのかもしれない。

会社はそういうファンにお尻を叩かれてがんばるし、ファン自身も、会社に与えてもらった社会課題の解決に乗っていくことで自己実現ができる可能性が出てくるんですよね。

佐藤尚之 Naoyuki Sato(株式会社ツナグ代表/コミュニケーション・ディレクター)
1961年東京生まれ。1985年、株式会社電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し、株式会社ツナグを設立。現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。2019年5月より設立した株式会社ファンベースカンパニーにて、チーフ・ファンベースディレクターとしてファンベースを導入したい企業と伴走をしている。

「関係人口」が増えれば、社会がさらに発展する

—会社がファンの方との関係を追求した先には、どんな未来が待っているのでしょうか。

さとなお:私の中では“社会的包摂”というものがテーマになっています。昔の日本は村というコミュニティがあって、人はその中に包摂されていました。
村はある種のセーフティネットであり、その中で救われていたんです。でも徐々にそこから離れ都会へ出る人が増えていった。

一方、都会ではその代替物として会社というセーフティネットがあり、そこはとても家族的だったんですね。ただ、今や雇用が流動的になり、すぐそこからこぼれ落ちてしまう。そうなってくるとヒトは容易に社会的に孤立します。

永田:そうですね。

さとなお:だから最近、セーフティネット的に自分の居場所となる「コミュニティ」を欲っする人が増えているのだと思います。個人的には、会社とファンが連携を続けていくと、そういう社会的包摂のようなコミュニティに行き着くんじゃないかと思っているんです。

会社にファンが集まることでコミュニティに“所属”している感覚になり、経済的関係性を超えた社会的包摂が生まれるんじゃないかと。
そこまで行ったら、すてきな社会になるんじゃないかと思っていますね。

永田:おっしゃる通りですね。僕としては、社内の仲間とそれ以外のステークホルダーとの境目がシームレスになっていく、という未来を描いています。
最近「関係人口」という言葉でよく説明するんですが、会社の中心にはフィロソフィーという旗が立っています。

その旗の一番近い距離にいるのは社内の仲間だと思われがちですが、実際にはそうではない場合もあって、ファンだったり支援者だったりすることもある。会社にとっての関係人口は案外広くて、非常にあやふやですよね。

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

さとなお:そうかもしれませんね。

永田:そして、通常は会社の評価って株価や売り上げ利益で判断されるものだと思うんですが、僕はその経済概念を変えていきたいと思っているんです。
関係人口や彼らを取り巻く人たちの、フィロソフィーに対する共感値を総合したものが会社の評価になって、そして、その共感値が社会を動かす力になっていくような未来をつくりたいんですよね。

同じフィロソフィーのもと、会社とファンが環境問題などの社会課題に取り組んでいくことができれば大きなパワーになります。
また、一人の人間が複数の会社や、いくつもの商品、サービスのファンになることもあるので、社会全体で見た時の関係人口のパワーは、労働人口のパワーよりも大きいともいえます。

さとなお:これからの少子高齢化の社会においても、希望のある発想だと思います。僕たちの会社、ファンベースカンパニーのミッションの一つに、「社会の好きを増やしていく」というものがあります。対象が飲みものでも着るものでも、商品やサービスのファンになるだけで人生は楽しくなる。

そうやってファンと会社の関係はつくられていくんですよね。1人の人が10の会社のファンになったなら、それだけですごい熱量ですよ。社会の大きな発展につながると思います。

社内にも社外にも、すべてをオープンにするのが基本

永田:ファンベースの考え方を積極的に進めるにあたって、社内ではどのような文化をつくっていけばいいのでしょうか。
例えば、経営者一人が「ファンベースやるぞ」と言っても、他のメンバーがついてこなければ難しいような気もしていて…。

さとなお:経験から言うと、もちろん組織の大小にもよりますが、社内の問題や事情を包み隠さずオープンにしているところがうまくいっていると感じます。
そういう会社の方が、社員一人ひとりが問題を自分ごととして捉えられている。社員の共感を得るためには、まず、さまざまな事情を正直に打ち明ける必要があります。

永田:社内のメンバーに対しても、ファンのみなさんに対しても、いい顔をしようとするのではなく、まずは正直な姿をさらすのが重要ということですね。

さとなお:そう思います。「私たちは、社会に対してこう言った価値をつくっています」というフィロソフィーを、もちろんある程度ネガティブな要素も含め、やはり自己開示することで会社の評判が広がっていき、社内外に関わらず、ファンをつくることができると思います。

あとは、会社がファンベースの取り組みを進めていく中で、すぐにその考え方に乗れない社員の方がいても、全然いいと考えることですかね。社員の中には、火がつきやすいタイプとつきにくいタイプの方がいますから。
これ、恋愛と一緒なんです。一目惚れしてすぐ火がつく人もいれば、なかなか燃えない人もいる。例えファンベースの考え方に乗りきれない人がいても、まだ火がついていないだけというケースもあるんですよ。そういう人ほど、一度火がつくと長くこの考え方を大切にしてくれることが多々あります。

永田:なるほど。

「ファンベース」は当たり前の考え方

永田:ファンベースって、「何かいいことを言って好きになってもらいましょう」ということじゃなく、会社の弱みも含めて正直に開示しコミュニケーションすることで、会社を取り巻くあらゆる人たちと相互の関係性を深めていくことなんですね。

さとなお:おっしゃる通りです。

永田:対談の最初に、僕は「こういう本(さとなおさんの著書『ファンベース』)をあえて出さなくてはならない時点で、ちょっとおかしくない?」と言いましたが、それはファンベースこそが、会社の姿勢そのものや戦略の中心であるべきだと思っているからなんですよね。
ファンベースという考え方が「向いている・向いていない」「やる・やらない」ということではないな、と。

ユーグレナとしては今後、ファンベースの考え方を経営の軸に据え、ステークホルダーと相互に影響し合う関係性をつくっていきたいと考えています。
「ファンベース」は会社にとって、それくらい当たり前の存在であるべきだと、僕は確信しているんです。

※文章中敬称略

構成:波多野友子/撮影:坂脇卓也/編集:大島悠