商品を買ってくれるお客さまや、株主や取引先の方々など、会社はたくさんの方の応援に支えられています。

商品やサービス、そして会社そのものの”ファン”との関係性を大事に育んでいくことで価値を生むという「ファンベース」を提唱されているコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之(さとなお)さんと、ユーグレナ副社長の永田が、会社とファンの関係について語り合いました。

「ファンベース」で原点に立ち返る

—「ファンベース」を意識したきっかけはどんなことだったのでしょうか?

永田暁彦(以下、永田):2年ほど前にさとなおさんの著作を読み、まずはさとなおさんご本人に興味を持ちました。その後『ファンベース』を読んだんです。そして「こういう本を出さなくてはならない時点で、ちょっとおかしくない?」と感じたんです。

※「ファンベース」とは:ファンを大切にし、ファンをベースにして(ベースには、土台、支持母体などの意味がある)、中長期的に売上や価値を上げていく考え方(『ファンベース』(ちくま新書,2018)より引用)

佐藤尚之さん(以下、さとなお):あえて本にして言うようなことでもない、と(笑)。

佐藤尚之 Naoyuki Sato(株式会社ツナグ代表/コミュニケーション・ディレクター)
1961年東京生まれ。1985年、株式会社電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し、株式会社ツナグを設立。現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。2019年5月より設立した株式会社ファンベースカンパニーにて、チーフ・ファンベースディレクターとしてファンベースを導入したい企業と伴走をしている。

永田:いえ、書かれていることがすごくベーシックに感じられた、というか…。例えば八百屋さんを営んでいたら、年に一度しか来てくれない人より、毎日買いに来てくれるお客さんを大切にするのは当たり前じゃないですか。

常連さんに対して、「最近来ないけど、あのお客さんどうしてるかな?」と気にかけたりもする。それが、マスマーケティングの発達によって、顔の見えない不特定多数を重視する時代に突入してしまった。
人間が数字に変換される時代になってしまったんだなあ、と痛感したんです。

さとなお:ひと昔前の八百屋さんは御用聞きも兼ねていて、常連さんの冷蔵庫の中身まで把握しているくらい密な関係性でしたからね。
それがいつしかデジタル化が進み、マーケティングの手法が高度化するなかで、常連さんではない人たちがポンとモノを買ってくれるような時代になった。効率よく売り上げが伸ばせるようになって。

永田:まさにそういう変遷を、ユーグレナは創業から10年間で辿ってきました。当時は、代表取締役の出雲がまだぜんぜん認知されていないミドリムシを持って「食べてみてください!」と営業をしていたわけです。
そのうちに、「意外とよさそうだ、応援してあげよう」というお客さんが増えていって……。ちなみに出雲はカバンの中に、初めて受注いただいた時のファックスをいまだに持ち歩いています。

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

さとなお:素敵ですね。

永田:そうやってスタートしたものの、売り上げとともに広告宣伝費が徐々に増えていくにつれて、「アクイジションコスト(顧客獲得単価)」とか「CRM(顧客関係管理)」という単語が飛び交うようになりました。

もともと「社会をよくしたい」という想いでスタートしたのに、マーケティングを使って売り上げを出すことに目的がすり替わって、その先にいる“人間”がどんどん見えにくくなっていったんです。

さとなお:売り上げを上げてればいい、という発想だけではどうしても苦しくなってきますよね。

永田:はい。そんな状況では働く仲間も買ってくれた方も幸せにはならない。それに気づいた時、改めてスタート地点に立ち返らなければならないと思いました。
そのタイミングでもう一度『ファンベース』を読みなおして、ああ、原点を忘れかけていたなと気づかされました。

さとなお:ユーグレナの立ち位置である「社会課題の解決」に立ち返る必要があったということでしょうか。

永田:そうですね。環境問題や健康問題、途上国支援などのユーグレナのスタート地点に立ち返る必要があったのだと思います。そして今年の3月、さとなおさんが「ファンベースカンパニー」を立ち上げられるというニュースを見て、すぐにメールを送ったんです。

※株式会社ファンベースカンパニー:2019年5月、佐藤尚之さん、アライドアーキテクツ株式会社、野村ホールディングス株式会社の三者が、「ファンベース」を基盤とした企業支援を行う合弁会社を設立。

「いい話が多すぎる」?

さとなお:ファンベースって受発注関係ではなかなか難しいんですよ。受注するというよりパートナーになるというイメージでやっています。
もっと言うと、我々がその会社のファンになれなければ仕事にならないんです。だからユーグレナさんとも、最初は「お見合い」みたいな感じでしたね。

永田:いや、ぜんぜんお見合いじゃなかったですよ(笑)。 僕の方が一方的に好きだったから、環境問題や健康問題、食料支援など、さとなおさんに好きになってもらえそうな事業の話をたくさんして、「僕たちこんな活動をしているんです!」と一生懸命アピールしました。

そこでさとなおさんに言われたひとことが、「いい話が多すぎる」。

さとなお:そうでしたっけね(笑)。話を聞いていて、すごく人格が高くて賢い会社なんだな、という印象を持ちました。
でも、人は相手があまりにも人格者すぎると、実はとらえどころがなくて困惑してしまうんですよ。共感しにくいんです。わかりやすい弱みを見せられた方が、逆に近寄りやすい。

永田:確かに、そういう人の方が「愛くるしい」と親近感を持たれたりしますよね。ちなみにさとなおさんから見て、いい意味でそういった隙の見せ方をしている会社ってありますか?

さとなお:そうですね、例えば自動車メーカーのマツダさんでしょうか。世界全体の売上シェアは約2%でけっして大きくはないのですが、それを一切恥じないスタンスの経営をされていますよね。
そしてその2%の中に含まれる購入者の多くは、マツダの“熱狂的ファン”なんです。

なぜ熱狂的なファンが多いのかというと、会社として泥臭い苦労話や失敗話もすべて公に出していて、たとえばひとつの例ですけど、「失敗大賞」という表彰制度を設けて社員のチャレンジ精神を褒める活動も行なっている。ファンとしては、とても身近に感じられますよね。

永田:実は僕もマツダの車に乗っているんですが、最高なんですよ。なぜかというと、車が好きな男性って往々にして子どもができると、「走る喜び」を捨てざるを得なくなるんです。僕も子どもができて、なんとなくそんな覚悟をしていたところがあった。

でもマツダの車を初めて運転した時、「走る喜び」を捨てさせないためのさまざまな工夫がひしひしと伝わってきたんです。他のメーカーのように派手な宣伝はしていないんですけど。
やっぱり「お客さんがプロダクトから何を感じるか」を超える評価って、最終的にはないですよね。

さとなお:本当にそう思います。

ファンミーティングは「好き」を自覚してもらうための場

—永田さんとしては、さとなおさんに「ユーグレナは隙がない」と指摘を受けて、何か意識が変わったことはあったのですか?

永田:ユーグレナが発信したいことと世間から見えているイメージの差を、改めて考えさせられました。
「東大発ベンチャー」という部分だけを切り取ると、白衣を着た研究者たちがメガネをクイッとやりながら黙々と仕事をしている、みたいな印象を持たれる方が意外と多いみたいで。
でも実際にはもっと柔らかく、若々しい社員たちがたくさん働いているんです。

さとなお:イメージのギャップをどうやって覆すか、ですよね。例えば昔マイクロソフト社が「悪の帝国」と呼ばれていた時期がありました。
マイクロソフトを利用している人にさえもそう思われている、みたいな状況だったんですけど、ある時一人の社員がビデオブログを始めて、社員を撮影して紹介する動画を発信したんですよ。

永田:YouTuberの先駆けみたいな感じですね。

さとなお:2000年の初めですから、さすが、早いですよね。それがネット上で話題になり、「マイクロソフトって悪の帝国じゃなくて、普通の人が普通に働いているじゃないか」と、ファンが一気に増えたそうです。

プロダクト開発のために社員一人ひとりが頭を悩ませている、という事実が親近感を喚起したのでしょうね。そういう施策って、実はすごく大切なことだと思うんです。

永田:そうですね。ユーグレナも今年の8月に、初めてファンミーティングを開催しました。
「ユーグレナを好きだと言ってくれている人に、もっと好きになってもらえるような場を提供したい」という思いで企画をしたんですが、株主から消費者の方まで幅広いステークホルダーの方が生身のユーグレナ社員と触れあって、ユーグレナのことをより身近に感じていただくことができたと思います。
以前、さとなおさんに指摘を受けた「隙がない」というイメージも、かなり払拭できたんじゃないかなと思っています。

2019年8月31日に開催したユーグレナ初のファンミーティング「ユーグレナ・フェス2019」
多くのユーグレナ・ファンの方にお越しいただきました


さとなお:なんだか私、すごく嫌なヤツみたいになっていませんか?(笑)

永田:いやいや(笑)!世間から見えているイメージと実際の姿のギャップを、客観性を持って我々に気づかせていただけたのはとても大きな収穫でした。ファンミーティングも開催できてよかったと心から思っています。

さとなお:よかったです。ファン自身も、案外「どこが好きなのか」ということをはっきり言語化できないケースが多いんですよね。
だから、ファンミーティングを通して、ファン同士とか、永田さんや社員と対面することによって、「こういうところが好き」というように自覚的になっていく。きっと社員の皆さんも、「こんなところがファンの方に好かれているんだ」と気づくことができたはずだと思います。

ネット上の大きな黒い塊が「一人の人間」たちだと気づいた

永田:そもそも、さとなおさんが「ファン」の重要性に気づいたきっかけはなんだったんですか?

さとなお:自分の個人サイトを立ち上げたことですね。1985年頃から大手広告代理店でマスメディアの仕事をしていたんですが、95年に個人的にサイトで発信を始めたんです。

それを機に、マスメディアの向こう側にいる「黒い塊」としてしか見えていなかった人々が、急に「人格」を持ち始めた。

何かを発信するとすぐに反応が返ってくる。このプロダクトの向こう側にはちゃんと個人がいて、いろいろな考えを持っているんだ、という当たり前のことを気づかされたんです。それって今では当たり前のことですが、当時は見えにくかったんですね。
そうやっているうちに、「機能性」「利便性」というところから、「感情」に重きをおく方向に自分が変わっていきました。

永田:なるほど。ネットでのやり取りを通して、相手との関係が双方向になったということなんでしょうね。
最近はネットも進化して、反対にネットの先にいる存在が黒い塊みたいに思えてくることはありませんか?

さとなお:確かにそれは感じています。
ネットが発展した時代だからこそ、やはりこれからはまたファンミーティングのような「リアルに会う関係性」に回帰していくんじゃないかと考えています。

永田:リアルで会うというのは、会社とファンが、お互いの熱量やパッションが流れているかということをその目で確かめ合う行為でもありますからね。
これまではネットの評判や口コミがマーケティングにおいては重要でしたが、これからはリアルな関係に戻っていく。とても興味深い変遷だと感じます。

※文章中敬称略

構成:波多野友子/撮影:坂脇卓也/編集:大島悠