人身売買などで性的搾取の対象とされてしまう子どもたちが世界に100万人もいる―。認定NPO法人「かものはしプロジェクト」創業者の1人である村田早耶香さんは、学生時代からこの問題と向き合い、現在もアジア地域での活動を続けています。

社会課題の解決を目指す組織は、どのようにして思いや理念を共有し、仲間を増やしていくべきなのか。ユーグレナ副社長・永田暁彦との対談を通じ、非営利法人と株式会社のそれぞれの立場から語り合います。

村田

村田 早耶香 Sayka Murata (認定NPO法人かものはしプロジェクト共同創業者)
大学在学中の2001年に東南アジアを訪れ、子どもが売られる問題を知る。仲間とともにかものはしプロジェクトを創業。現在はインドにも活動の幅を広げ、被害にあった人が人生を取り戻すための支援と、子どもたちが売られない社会の仕組みを作る活動を続けている。

1着のワンピースと同じ値段で売られてしまう子ども

村田早耶香さん(以下村田):私たちは「子どもが売られる問題をなくす」ために活動しています。18歳未満の子どもたちがだまされて売春宿に売られ、強制的に働かされている。そんな子どもたちが世界中で約100万人いると言われています。

私がこの問題を知ったのは大学2年生のときでした。海外支援を学ぶ中で、児童の商業性的搾取について知ったのです。最初に新聞記事を読んで知った被害者はミャンマーに住んでいた少女で、当時の私とは1歳違い。山岳少数民族で国籍がなく、母は病死しており、父は障がいがあり働けない状況でした。12歳のときに「バンコクで子守りの仕事をすれば家族を養える」とだまされて、売春宿に連れて行かれました。彼女が売られた金額は日本円で1万円。当時、私が着ていたワンピースと同じ値段で、日本なら大学生でも1〜2日バイトすれば出せるお金です。

その後私は内戦が終わって間もない時期のカンボジアを訪れ、そうした被害の現状を目の当たりにしました。それからは本を読んだり、イベントに参加したり、できることをとにかくやりました。その中で「一緒に団体をつくろう」と言ってくれる仲間と出会い、20歳のときにかものはしプロジェクトを設立しました。

カンボジアでは職業訓練施設を作って「売られそうな人」を受け入れ     、経済的な自立を目指す活動を始めました。パソコン教室でパソコンのスキルを教え、日本のウェブサイト制作案件を請け負う活動です。中には身につけたスキルで就職したり、奨学金を得てアメリカの大学に進学した子どももいました。

カンボジアの活動
カンボジアでの活動

とはいえ、都市部の子どもたちを支援するだけでは、農村部の被害を食い止めることはできません。パソコン教室は社会に役立つ事業に成長していましたが、私たちはもともとのビジョンに立ち返り、農村部での職業訓練事業を立ち上げました。その過程では仲間とのたくさんの議論があり、去っていってしまった人もいます。日本のメンバーにカンボジアに行ってもらい、カンボジアのメンバーにも日本に来てもらって、全員で徹底的に話し合い意思決定しました。

カンボジアのメンバーと
カンボジアのメンバーと

こうしてできた農村部の職業訓練所では、最貧困家庭の女性を雇用し、日本の中古足踏みミシンで雑貨を作り販売しました。こうした活動を積み重ねることで、支援地域の農村部の貧困家庭の生活は徐々に豊かになっていきました。また、カンボジア政府と話をして、被害を根絶していくための警察支援にも取り組みました。加害者が逮捕される件数     が増え、未成年者を強制的に働かせる売春宿     は激減。カンボジアの状況はかなり改善されたと見ています。

その後はインドでの活動に軸足を移し、被害にあった人が人生を取り戻せるよう 、心の回復や教育支援、裁判支援、行政サービスへのアクセス支援などを行っています。被害者の中から、この問題の解決に取り組むリーダーとして活動する人も現れるようになりました。今は元被害者のリーダー達が、インド社会全体を変えていくために、「包括的人身売買取締法案」という法律の制定に向けた働きかけも行っています。

インドでの活動
インドでの活動(Photo by Siddhartha Hajra )

かものはしプロジェクトの活動を支援してくださっている方は、現在約1万人です。2024年までには2万人に増やし、さらに活動の幅を広げていきたいと考えています。

かものはしプロジェクト

カルチャーの違いをどうやって乗り越えるか

永田暁彦(以下永田):ここからは、村田さんと一緒に社会課題を解決するための組織について話したいと思います。

永田

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

村田:よろしくお願いします。

永田: かものはしプロジェクトは、今は何人で活動しているのでしょうか?

村田:日本に11人、インドにコンサルタントが11人です。

永田:みなさん、ジョインした目的は同じですか?

村田:それが結構バラバラなんです。共同創業者の間でもさまざまですが、「社会に貢献したい」という思いは共通していますね。

永田:ユーグレナ社も近いかもしれません。なので、いろいろな思いで集まった人が同じ目的意識や重なりを持てるようにするにはどうすればいいのか…、最近よく考えるんです。

村田:かものはしには、私のように大学生の時に創業したメンバーもいれば、企業からの転職や国際機関からの転職組もいる。インドのメンバーなどさまざまな思いやバックボーンを持った多様な人材がいます。だから、互いの思いやカルチャーの違いなどをどうやって乗り越えるかというのは課題でした。

永田:外部から見ると22人みんなが同じ目的意識のように思いますが、みな一緒に話せるぐらいの規模の組織でも違いはあるんですね。

村田:話し合いをしても、改善して欲しい部分を指摘して話し合う時、最初は「刺し合い」のようでしたよ(笑)。例えば「なぜあなたは代表なのに意思決定しないの?」と追及されたこともあります。それでも対話を重ねて、相手の鋭い言葉の裏にどんな願いがあるのかを考えてきました。メンバーが集まる機会にはチームビルディングのセッションを設けることも多いですね。コーチングの知見を生かしたワークショップを、日本とインドのメンバー全員で実施したこともあります。

多様性を尊重は、社会課題解決の助けになる

永田:かものはしプロジェクトを設立してからの17年で、村田さんご自身の変化も感じますか?僕が村田さんと知り合ったのは「パパママ友」としての出会いがきっかけでしたが、子どもがいるママになって、ライフステージが変化したことで受けた影響はありますか?

村田:そうですね、人を受け入れる許容範囲がとても広がったと思いますね。うちは男の子なんですが、小さなうちはめちゃくちゃにポカポカ殴ってくることもあるじゃないですか。

永田:あるある(笑)。

村田:そんな目にあいながら、日々寝かしつけをしていまして(笑)。その中で「愛する子どもを育てる」という自分の新たな役割を認識するようになり、経営者として認められることに固執しなくなりましたね。かつての私は大学時代からかものはしの活動しかしていなかったので、そこにしかアイデンティティがなくて、「ここから追い出されたら全てを失う」という恐怖心もありました。結果的に自分を強く良く見せようとして、できないことや自信が無いことを隠し、チームの議論が進まないようにしてしまっていたこともあったと思います。

永田:率直に弱みを見せて相談できるのは大切なことですよね。おっしゃったように、人に対する許容度も大切だと思います。世の中にはいろいろな人がいるんだということを認識して、多様性を尊重することは、社会課題解決の助けになるはず。だから、親になる以外にも、人への許容度を高めるための方法を社内でも設計したいなと思っています。

村田:うちの場合は団体でコーチングを支援し、入社してから一定期間はコーチをつけるようにしていますね。そうすることで私たちには言えないことも相談できるし、プライベートに関することも気兼ねなく話せる。結果的に仕事のパフォーマンスは高まるし、互いの潜在意識の中で対立しあっていたことも解決しやすくなったように思います。

永田:そうしたやり方は何をきっかけにして始まったんですか?

村田:転職組の人が増えてきて、先ほどもお話したようにカルチャーの違いから衝突することも増えてきたんです。そんなことからコーチングの重要性を認識するようになりました。この取り組みを始めてからは、不満を持っての退職率が下がっています。    

永田:すごい。

対談

「関係人口」が増えていく理由は、いろいろあっていい

村田:あ、経営陣の退職者がいました(笑)。共同創業者の青木健太が辞めましたね。彼はかものはしとは別の形で、独立したカンボジア事務所を率いて支援を続けています。そしてかものはしの理事は続けています。最近はメンバーも増えたこともあり、かものはしとしてミッションを広げていく必要性を感じているところです。

サポーター会員
「かものはしプロジェクト」 サポーター会員

永田:でもミッションを広げるというのは難しいところですね。支援している人たちには「今のかものはしプロジェクトのミッションだから支援したい」という思いもあるでしょうし。

村田:そうですね。実際に団体内でも団体外でも、ミッションを広げていくことには慎重な声があります。ただ活動を続けていく中で、児童買春の問題は日本国内にもあるということが分かってきました。問題は私たちの周辺にも広がっているんです。

永田:問題のとらえ方はさまざまだと。

村田:成果指標もさまざまですね。かものはしは「被害者をいかに減らせるか」という分かりやすい成果指標ですが、「不条理をなくす」といった話になるとさまざまな指標が出てくるので難しいところがあります。

永田:僕たちの場合は株式会社なので、会社の事業を拡大することで解決の可能性が高まるし、ともに働く仲間や株主の賛同も得やすい側面があります。かものはしプロジェクトのようなNPOの場合は、寄付を集めて活動しているという点で株式会社とは異なりますよね。

村田:はい。ただ、一団体として寄付を増やして規模を拡大していっても、目指す問題の解決に近づいているとは言えない事例も多々見られます。大切なのは一団体の予算が大きくなることではなく、行政や企業などさまざまな関係者と連携していくことではないかなと。

対談

永田:そうした外部の機関と連携するためのポイントは何でしょう?

村田:考え方の違う人たち同士で、共通のアジェンダ向かっていかに協働 するかをファシリテーションできるかどうかだと思います。複雑な課題を解決しようとすれば、様々な立場のステークホルダーと協業することが必要で、そうなると大なり小なり対立が起きることは当然で、対立から学び、前に進めていくことができるかどうかが鍵なのではないかと思います。

永田:なるほど。僕は、社会を変えていくための山の登り方はたくさんあると思っているんですね。例えば学校教育を変えたいと思ったときに、文科省に入ってトップを目指す人もいれば、目の前の10人の生徒の人生を本気で良くしたいと思って接する教員もいるでしょう。あるいは自分で学校を作る人もいるかもしれない。やり方はいろいろだと思います。かものはしプロジェクトの場合は、現地に入って現場で起きていることを解決しながら、マクロ環境にも同時にアプローチしている。これがめちゃくちゃすごいと思っています。

村田:それはとてもうれしい言葉です。現場の支援をしつつ政策提言を続けているので。共同創業者の役割分担もあって、私はどちらかというと現場を見て、もうひとりの本木恵介はマクロ視点でものを考えてきました。インドでは被害にあった子ども・若者たちがリーダーとなって支援に加わってくれている。これも大きな成果だと思っています。

永田:そうですよね。僕は最近、「関係人口の増加」がとても大切だと感じています。現地へ行く人はもちろん、寄付をする人、SNSでいいねを押して拡散する人など、さまざまな形で関係してくれる「関係人口」を増やすことが大切だと。社会課題の解決というと重たく考えがちですが、「かっこいいから」「おもしろいから」「好きな子がやっているから」とか、いろいろな理由で関係人口が増えていけばいいと思っています。

村田:おっしゃる通りですね。

村田、永田

永田:ともすれば原理主義的に「現地へ行く人が偉い」と考えがちなこともあるけど、そうではないんですよね。かものはしプロジェクトとユーグレナ社のように、組織と組織が関係する有機体が増えていくことも大切だと思います。村田さんたちのように、志を持って活動している人たちがいることには強く勇気づけられています。

村田:ユーグレナ社は、NPO側からも注目されていますよ。最近では、「社会課題を解決したいと思う人」は、ユーグレナさんのような社会を良くするための企業に行かれる方が多いので、「社会課題の解決ってNPOの役割だったじゃないかー!」という叫びを聞くことがあります。

永田:そうなんですか?

村田:だから、私たちもがんばって、切磋琢磨しながら、今後もつながっていけたらと思っています(笑)。今日はありがとうございました!

※文章中敬称略

編集:多田慎介/撮影:稲田礼子