人生100年時代―。それは「老いてからの自らの生き方」に、早い段階から向き合わなければならない時代であるとも言えます。

その中でも介護はわたしたち、そして家族にとって重要なテーマの一つ。
今回、においで尿と便を検知する排泄センサー「ヘルプパッド」を開発した株式会社aba代表の宇井吉美氏とユーグレナ社副社長/リアルテック代表の永田暁彦が、対談を通して向き合うべき「私たちの今と未来」を考えます。

子どもが抱く、介護へのファジーな恐怖と罪の意識

永田暁彦(以下永田):介護のことについて考えると、僕は「めちゃくちゃ怖いな」と思うことがあるんですよ。

宇井代表(以下宇井):怖い?

永田:僕の父親はソーシャルワーカーとして、ずっと介護の現場で働いています。「出世して現場にいられなくなるのが嫌だ」といって、役職がつくたびに違う職場へ移ってしまうくらい、介護の仕事が好きな人。母親も福祉系職種で働いていました。そんな両親が子どもには「自分たちが認知症になったら、絶対に介護するな」と言うんです。

宇井:なぜでしょう?

永田:親の面倒を見きれなくなってしまうと、子どもたちが「罪の意識」を持ってしまうんじゃないか……と心配しているんだと思います。仕事にも100%打ち込めなくなるんじゃないか、とか。子どものことを思うからこそ「自分たちを介護するな」と。親の意識がしっかりしているうちに施設に入れなさいというノリですよ。そうしたコミュニケーションに本気で向き合わなければいけなくなることが、僕は怖いんですよね。

宇井:そういえば私にも、思い当たる体験があります。私の祖母は、私が中学生のときにうつ病になりました。今は認知症もあって施設に入っていますが、以前は自宅で介護していて、家族がてんやわんやという状況だったんです。その祖母はよく、「働ける人間は精一杯働け」と言っていたんですよね。意識がはっきりしていたら、家族に迷惑をかけるようなことは望まなかったんじゃないかな。

宇井 吉美 Yoshimi Wie(株式会社aba代表取締役)
千葉工業大学卒。2011年、在学中に株式会社abaを設立し代表取締役に就任。中学生時代に祖母がうつ病を発症し介護者となる。その経験で得た「介護者側の負担を減らしたい」という思いから、介護者を支えるためのロボット開発の道に進む。特別養護老人ホームにて、介護職による排泄介助の壮絶な現場を目の当たりにした事を契機に、においセンサーで排泄を検知する製品の開発を始める。

永田:実際に介護をしてみないことには分からないことが多いですよね。家族の間でどんなコミュニケーションをするべきなのかも分からない。 そういう意味では、僕もまだまだ実態をよく理解していないまま、ファジーな恐怖感を抱いているのかもしれません。

宇井:みんな同じような恐怖感を感じているのではないですかね。介護についていえば、それぞれの家族ごとに事情が違いますし、どんな状況にも対応する「絶対的な解決策」があるわけではないと思います。ですので、直面してみないと分からない部分がどうしてもあると思うんです。だけど、いざ直面したときにびっくり仰天してしまわない程度に備えることは必要かもしれませんね。

肉体面の厳しさは、テクノロジーで解決したい

永田:ちなみに宇井さん自身は、老後をどんなふうに送りたいと考えていますか?

宇井:もし自分が介護される側になったら……今の時点での想像では、「施設に入るよ」と子どもたちに言うと思います。そのときに子どもたちがつらい状況にならない方法を選びたいですね。

永田:なるほど。

宇井:この間、社内で「100年後はどうなるだろう?」という話をしていたんですよ。未来にはVRなどの技術が発達していて、介護施設では想像の世界に浸りながら楽しく暮らせるかもしれないと。自分自身、どんな環境にいられれば幸せなのかも考えておくべきかもしれません。

永田:僕の場合は、自分が要介護の状態になったときに、意識がはっきりしていたら肉体と精神を分けて考えるかも。体位交換してもらったり、おむつを変えてもらったりといった肉体面での介護には、妻や子どもの手間はかけさせたくないですね。それこそ申し訳なく思ってしまいそうなので。こうした部分はできる限りテクノロジーで解決したいです。一方で、精神的にはずっと家族と一緒にいたいと思うんです。

nagata

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

宇井:そうした精神面、コミュニケーションの領域についてもテクノロジーは発達していくのかもしれませんが……。難しい部分ですね。

永田:精神的なコミュニケーションって、ある種の宗教論みたいな考え方が個々人にありますよね。リアルじゃなくても、デジタル上のコミュニケーションがあれば幸せだと感じる人もいるかもしれない。ただリアルテックファンドとしては、今はその分野に投資していないんです。「人とのコミュニケーションの媒介になるもの」には投資するけど、「コミュニケーションそのものを代替するもの」には投資しない。そこは線引きをしていて。

宇井:生活支援の現場では、「いかにその人が自分らしく生きていけるか」を考えます。それと共通しているところがあるかもしれませんね。

人の人生に深くかかわる素晴らしさが本質にある

永田:老いは、誰しもが必ず直面します。それをどう考えるか、どう扱うかは、自分の未来に確実につながっていくと思うんです。若いうちはなかなか想像ができないんですけど。

宇井:そうですよね。子どもを産むこともそうだったけど、自分が経験するまでは怖さも本質も分からないものだと思います。私の周りには、同世代で介護の楽しさを発信している人もいるんですが、無関心な人にはなかなか届かない。でも「自分は関係ない」と思っていた人が、明日「関係ある」状態になるかもしれないのが介護なんです。元気だった親が、いきなり脳梗塞で倒れるかもしれない。それで慌ててケアマネジャーさんに会って、よく分からないまま、親の意向も聞けないまま、いろいろなことを準備していかなきゃいけないわけで。

永田:介護そのものについても、僕たちは事前知識を持っておくべきですね。介護の仕事にまつわるイメージも、知らないがゆえに固定化されている面があると思います。宇井さんは「介護職の素晴らしさって何?」と聞かれたら、何と答えますか?

宇井:相手の人生歴を深く知って関われる仕事って、そうそうないと思いますよ。施設で出会う職員と入所者の間でも、そうしたつながりができます。介護を通じて、入所者はもちろん、その家族の人生にも寄与できます。だけど業務としては、おむつ交換などの「大変そうな仕事」というイメージばかりが先行しているのですが、そういう大変そうな部分をどんどん解決していくと、人の人生に深く関われる、すごくやりがいがあって、楽しい仕事だと思うんです。

永田:そうですよね。

宇井:そして、そういう大変そうな部分を解決する鍵だと考えているのが、リアルテックなんです。介護業界でも、業務改善に向けて現場にテクノロジーを導入しようという動きもありますが、焦点が当たるのは「バックオフィスの自動化」ばかりです。本当にそれでいいの? という感じがしています。介護という、漠然とした不安を抱く人が多い領域へも、リアルテックを通じて理解を深められるのではないかと。abaはその課題感があるので、ものづくりからアプローチしているんです。排泄センサーもその一環で、「介護に関わる未経験者」のために、肉体的な業務負荷をテクノロジーの力で軽減していきたいんです。

においで尿と便を検知する排泄センサー「ヘルプパッド」

永田:まさに「人の未来に貢献する革新的なテクノロジー」ですよね。abaって世の中に絶対に必要な会社なのに、投資が集まりやすいのはスマホゲームを作る会社なんだよなぁ(笑)。100年時代と言われるなかで、介護の現場において、時間と労力をいかに軽減していけるか。労働力は間違いなく減っていくわけですから、社会全体で考えていかなければならないテーマだと思います。肉体的負担を軽減することにテクノロジーが寄与していけば、現場でのコミュニケーションの価値など、本質的な介護の素晴らしさに気づけるのではないでしょうか。

宇井:それこそ、介護を自分ごととしてとらえることから始まるのかもしれません。

地球防衛軍はいない、自分たちで変えていこう

永田:みんな、「地球防衛軍」みたいな存在がいると思っているんですよ。食料問題もだし、気候変動をはじめとする地球温暖化などの世界規模の課題についてもそう。いろいろニュースで流れているのを聞いても、「どこかの誰かが、偉い人たちが何とかしてくれるだろう」と。宇井さんの言う通り、「この課題を僕もどうにかしなくちゃいけない」と自分ごと化して考える人が増えなければ、社会は変わりません。だけど、そういった道徳的な話だけではなくて、エンターテインメント性も大事だと思います。「介護をやっている人はかっこいい」と言われるにはどうすればいいか? そんなことも考えていかないと。

宇井:私自身も、介護職に携わる人や家族の介護に関わる人を、かっこよく発信していくことに貢献したいですね。その鍵を握るのも、間違いなくリアルテックなのだと思います。

永田:リアルテックを活用して、介護をはじめとする社会問題に取り組んでいきましょう。

※文章中敬称略

編集:多田慎介/撮影:稲田礼子