今を生きる私たちがまるで予想もしていない未来の実現に、あくなき情熱を注ぐ数々の研究開発型ベンチャー。
そんなリアルテックベンチャーに身を投じた経営者・研究者の「情熱」に、10年前から熱い支援をしてきたのが、リアルテックファンドの運営を担うユーグレナ社とリバネスです。 その中心を担ってきた、ユーグレナ社の副社長・永田暁彦と、リバネスの代表取締役・丸幸弘。

2人は今、どんな未来図を描いているのでしょうか?リアルテックベンチャーとともに歩んできた10年をたどった前編に引き続き、対談の後編をお届けします。
前回の対談はこちら

未来への課題は「研究者がいかに“効果的”に働けるか」

—前回、チームの形についてお話がありましたが、ユーグレナ社とリバネスの関係性はちょっと変わっているかもしれませんね。

丸代表(以下丸):「どっちが親会社なんですか?」とよく聞かれるんですけど、僕はいつも「兄弟です」と答えています。なんで皆さん、そういうものを定義したいのかな?

永田暁彦(以下永田):どっちがエラいかを決めたいんでしょうね(笑)。基本的には、価値の源泉は常にリバネスにあるんです。ユーグレナ社が土に種を蒔き、水と肥料をリバネスが与えてくれた。僕らの花がパッと咲いた頃、横を見てみると、リバネスは何十社にも同じように水と肥料を与え続けていた、と。

で、「お前ら、最初に花が咲いたんだから、一緒にやろうぜ」ということでタッグを組んだのが、ユーグレナ社とリバネスの関係なんですよ。そんな関係の中でユーグレナ社がやるべきことは、この十数年間で蓄積した経験値をシェアしていくことだと思っていて。

:どっちが抜けても実現できないことをやっている。タイミングによって上と下が入れ替わったり、並列だったり。

僕がメンタリングすることもあれば、永田さんにメンタリングされることもある。ファンドの仕組みだとか、横文字だとか、わからないことは正直に全部聞くからね。リバネスにもリバネスの他にグループ会社が19社あるけど、どっちが上か、という関係はつくっていないです。

—両社が共に歩むことで、リアルテックが少しずつ拡大してきたのですね。今、お二人はどんな未来をイメージしてこの事業に携わっているのでしょうか。

永田ユーグレナ社は食とバイオ燃料というエネルギーを生業にしている会社なので、とにかく食料とエネルギーが十分にいきわたる未来をつくりたいですね。

ユーグレナ社のHP。「人と地球を健康にする」を目指して
ヘルスケア、バイオ燃料、途上国の食料問題支援など、さまざまな事業を展開している

永田:そんな未来のためにできることというと、僕自身は研究者ではないので、研究者にとって最高の環境をつくることが一番の務めだと思っています。だから研究者が、お金や生活の心配をすることなく24時間365日研究に没頭できる、みたいな環境をつくりたい。彼らに“食うための仕事”をさせてはいけないと思っているんですよ。
そして、研究が進んで食とエネルギーがタダになれば、より研究を発展させることができると考えています。2050年頃にはそんな未来が実現できるんじゃないかと踏んでいます。

:究極的な話だけど、やればできるでしょうね。僕はどんな世界をつくりたいかな……。ほどほどに調和できる仕組みづくり、ですかね。

あんまりワクワクしすぎてもいけない。例えば山登りで一番楽しいのって、登りきったときじゃなくて下山して荷物をすっと下ろした瞬間じゃないですか? そう考えると、ワクワクって「瞬間芸術」だと言える。

丸 幸弘 Yukihiro Maru(株式会社リバネス代表取締役グループCEO)
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 博士課程修了、博士(農学)。大学院在学中に理工系学生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。大学・地域に眠る経営資源や技術を組み合せて新事業のタネを生み出す「知識製造業」を営み、世界の知を集めるインフラ「知識プラットフォーム」を通じて、200以上のプロジェクトを進行させる。ユーグレナ社など多数のベンチャー企業の立ち上げにも携わるイノベーター。

永田:なるほど。

:研究も同じです。99回の“山登り”は成功しないけど、最後の1回だけが世の中を変えるヒットにつながって、研究者はようやく背中から荷物を下ろせる。その時のワクワクを目指して日々研究をしているのだと思います。

そして、その成功のためには、社会の寛容性が必要なんですよね。効率的経営、生産性向上っていう考え方は、研究者に「研究するな」と言っているようなもの。研究活動は本質的に「非効率的」なんですよね。
ではなぜ研究をするのか?「効果的」だからです。効率的ではなく、「効果的な価値」を生み出せるのが研究者。そうした感覚がもっと世の中に広がっていけばいいと思っています。そうなれば、僕たちは無限に研究を続けることができるから。

人類が前進するために必要なテクノロジーだけを「ノアの方舟」に乗せたい

永田:丸さんが羨ましいな。僕自身には、正直やりたいことってあんまりないんですよ。ただ、自分の力を社会のために使わなければと思っている。「何のためにがんばっているの?」と聞かれたら「レスポンシビリティ(責任感)だ」と答えますね。

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

:永田さんはプロ経営者として生きていける能力を持っているからね。どこでも勝負できると思うんだけど、どうなの?

永田:誰から愛されたいか、ですよね。資本家や投資家から「すごい」と思われたいとは考えていない。研究者やアーティストに「いてくれてありがとう」と言われる方が、自分にとってインセンティブになる。だからずっとここ(ユーグレナ社)にい続けているんだと思います。

:だからリバネスと一緒にリアルテック市場を盛り上げてくれているんだよね。究極、そこにお金が関係あるかといったら、まあないですよね。

僕、会社という枠組みってもう古いと思っているんです。僕はリバネスの代表だけど、ユーグレナ社を自分の会社だと思っているし、永田さんはリバネスを自分の会社だと思っている。もちろんチャレナジーだって“僕の会社”なんですよ。
資本主義の視点で見れば「投資しているんですか?」「株を持っているんですか?」という話になるけど、違う。「俺も会社の運転に参加しているから」という当事者意識なんです。普通の感覚では理解に苦しむかもしれませんが……。

永田:資本主義の世界にいる人からしたら「え?」と思われるかもしれないけど、逆に俺たちもそれに対して「え?」ってなる話だよね(笑)。

:そうそう。お金なんて陳腐化する。「ノアの方舟」にはとても乗せられませんよ。

永田:そういえば、「リアルテックファンド」を命名するとき、実は「ノアファンド」という案が出ていたんですよね。

:数あるテックの中で、人類が次に進むために必要な技術だけをちゃんと持って行こう、というのが僕たちの原点なんです。
大事なのは、どの技術をノアの方舟に乗せるか。

この先の航海で、もしかしたら途中でこぼれ落ちてしまう技術もあれば、必要がなくなっていく技術が出てくるかもしれない。でもそれは決して悲しいことではなくて、人類が先に進むためには必要不可欠なことです。このリアルテックの原点を、この先も忘れずにいたいですね。

※文章中敬称略

構成:波多野友子/撮影:丹野雄二/編集:大島悠