台風エネルギーがクリーンな電力に変換され、人口培養肉で世界中の食料問題が解決する。私たちが利用する交通機関を動かすのは、生物から生み出されたバイオ燃料ー。
そんなまったく新しい未来の実現を目指し、 革新的なテクノロジーで地球や人類規模で課題を解決することに取り組む研究開発型の企業を「リアルテックベンチャー」と名付けたのは、ユーグレナ社の永田暁彦でした。

永田は約10年前、「科学技術の発展と地球貢献を実現する」をビジョンに掲げるリバネスの代表、丸幸弘に出会います。そして、現在では数々の志あるテックベンチャーを支援するリバネスが、初めて事業をともにしたのがユーグレナ社でした―――。
以来、「人と地球を健康にする」という未来を見据え、ともに歩み続けてきた永田と丸。今回はその2人が、ベンチャーとリアルテックの現在と未来について語り合います。

リアリティに投資するのは、ビジョンをともに実現したいから

―数多くのリアルテックベンチャーの支援をされていますが、テックに対する投資はどういう点を重要視してますか?

永田暁彦(以下永田):私たちはファンドを通じてリアルテックベンチャーの支援をしていますが、正直“技術(テック)”に対して投資している感覚は持っていないんですよね。

丸代表(以下丸):そうですね。“リアリティ”に対して投資しているというか。
どんなに大きなテック系のベンチャー企業も、最初は「ノーテック」なわけですよ。「こうやったら世の中はもっと良くなる!」という理念はあるものの、テクノロジーがついてきていない。

丸 幸弘 Yukihiro Maru(株式会社リバネス代表取締役グループCEO)
東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 博士課程修了、博士(農学)。大学院在学中に理工系学生のみでリバネスを設立。日本初「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化。大学・地域に眠る経営資源や技術を組み合せて新事業のタネを生み出す「知識製造業」を営み、世界の知を集めるインフラ「知識プラットフォーム」を通じて、200以上のプロジェクトを進行させる。ユーグレナ社など多数のベンチャー企業の立ち上げにも携わるイノベーター。

永田:この世にある技術の数と、それを担いで山を登れる人の数を比較すると、明らかに人の方が少ないんですよね。
100ある技術に対して1人しかアントレプレナーがいないのであれば、僕たちはそこに適切なものを乗せていくための投資をする。それを通して、その人と一緒に山を登っていく仕事をしているんです。

―適切なものを乗せる、とは、具体的にはどんなことですか?

:例えばリバネスは、2002年から、大学の中にある技術の目利きをひたすらやってきました。そんな中でユーグレナ社の代表取締役社長・出雲と出会いました。
当時のユーグレナ社は、「ミドリムシの可能性」についてはとことん追求していたけれど、それこそまだテックがなかった。そこでリバネスとしては、大学の教授をはじめ、長年ミドリムシを研究してきた人を仲間につけて、ユーグレナ社と一緒に山を登っていったわけです。
ドラクエに例えるなら、出雲は「勇者」だったんだけど、やっぱり「魔法使い」がいないと先に進めないんですよね。

永田:出雲にとっては、丸さんが魔法使いだったわけだ。結構MPを減らしてましたよね(笑)。

永田 暁彦 Akihiko Nagata(株式会社ユーグレナ取締役副社長/リアルテックファンド代表)
慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベートエクイティファンドに入社し、プライベート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナ社の取締役に就任し、ユーグレナ社の未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通しユーグレナ社の財務、戦略およびバイオ燃料などの事業開発責任者を担当。現在は副社長に就任し、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表も務める。

:そうそう(笑)。でもユーグレナ社とのジャーニーは本当に面白かった。山あり谷あり、一度引き返したらもう同じ道は進めないようなギリギリのラインをひた走ってきました。
創業から10年で東証一部上場したんですけど、「さあ、次に何をしよう?」となったときに、「この経験をわれわれの中だけで終わらせていいものなのか」ということになって。

永田:おたがいに培ってきた経験を、次のリアルテックベンチャーのために使えないかな、と考え始めた。そこでファンドという形をとったんですけど、本当は別にファンドじゃなくても良かったんですよね。

:もともとファンドをつくるつもりはなかったんですよ。ただ、あの頃はまだ技術系、とりわけリアルテック領域にお金を出す人がいなかった。それならまずはお金という導線を張るのはありだよね、ということで「リアルテックファンド」を始めたんです。

人を惹きつけるのは、優れた技術ではなく熱量のある研究者

—これまでさまざまなアントレプレナーやベンチャー企業と出会って来られたと思うんですが、どんなときにお二人はワクワクしますか? また、今注目しているベンチャー企業は?

:ワクワクするのは、ビジョンが合ったときですね。上場だろうが非上場だろうが関係なくて、重要なのは「いかに人類を早く進化させることができるか」「その技術が世界をどうやって変えていけるのか」。

永田:そう、「世界が変わるのを一緒に見たい」と思わせられたときですよね。今僕らが注目している企業を一つ挙げるとするなら、「風力発電にイノベーションを起こし、 全人類に安心安全なエネルギーを供給する」というビジョンを掲げる台風発電のチャレナジーでしょうか。

:代表取締役CEOの清水敦史がすごく面白い人間なんです。一流大学を出て有名な大手企業に勤め、年収も高かったと思うんだけど、東日本大震災と福島の原発事故を機に「日本人として、原子力に頼らなくてもよい持続可能なエネルギーの道筋を自分の世代が示さなければならない」と。

永田:すべてを捨てて、リバネスがやっている研究開発型ベンチャーの発掘育成プログラム「TECH PLANTER」に参加したんですよね。熱いでしょう? 今チャレナジーを支援している企業がたくさんあるんですよ。お金だけではなく、台風発電に必要な技術提供を行っている大企業も増えてきている。
結局支援する側も、思っている以上にみんな人間臭くて、そういう熱にやられるんですよね。結果的に「技術がイケてる会社」じゃなくて、「相手を感化させられる人間」が成功していく。

” 風力発電にイノベーションを起こし、 全人類に安心安全なエネルギーを供給する “というビジョンを掲げる株式会社チャレナジー。写真は沖縄県石垣市に設置されている垂直軸型マグナス式風力発電機。(写真提供:株式会社チャレナジー)

:僕のところに来た清水を、ユーグレナ社の出雲のところへ連れて行って。清水が「僕たちが一緒にやらない理由はない、この技術で世界を変えましょう」と出雲を説得しました。
おそらく出雲の頭には、自分の過去の体験が回想シーンとして流れていたと思いますよ、人に頭を下げに行ったときの苦しさが。だからこそ「一緒にやりましょう」と言ってくれたんだと思います。

永田:正直その段階では、ユーグレナ社にとって利益があるどころかリスクしかなかった。でもおっしゃる通り、自分たちも経験してきたことなので「なんとかしてやりたい」という思いが先に立つんですよね。例えるなら貧乏を経験しているから、貧乏な子を見つけると放っておけない。金持ちにわかってたまるかよ、という感じ。

:そして今、チャレナジーの風力発電機が、実際にユーグレナ社の石垣島の研究所内に立っていますからね。お金を貯めるより、自分が動かせるお金を最大化して世の中を変えてみたい。それが正直な気持ちですよね。それが世の中を変えていくことだと思って、チームとして着実に実現できているという状況です。

~後編に続く~

※文章中敬称略

構成:波多野友子/撮影:丹野雄二/編集:大島悠