役員インタビュー 鈴木 健吾

役員インタビュー

Board member interview

新しい可能性を供給し続ける社会の「生産者」でありたい

鈴木 健吾

取締役 研究開発担当

世の中には生物を交えなければ
分からないことがたくさんある

ミドリムシと出会ったのは学生時代のことです。東大理科一類に入学した私は、自分の研究分野を何にするか考えあぐねていました。周囲の多くが理工学部に進むなか、「世の中には生物を交えなければ分からないことがたくさんある」と考えて農学部に進んだ私は、生物を通して社会に貢献したり、環境を改善したりできるような研究テーマを探すうちに、ミドリムシにたどり着きました。ひとつの細胞でひとつの生物として完結している単純化された美しさや、動物と植物の特徴を両方あわせ持つ特殊性にも魅了されましたが、なによりも、環境問題と食料問題をいっぺんに解決できる可能性を持っていることに、強い興味を抱いたのです。当時から社長の出雲とは知り合いだったので、生まれた環境のせいで満足な栄養が得られず、適切な成長が阻害されている子どもたちの話を聞いていました。また、地球がせっかく貯蓄してきた石油や石炭などの化石燃料を、人類が使い果たすことなく豊かな生活を送る方法はないか、自分でも考えていた時期でもあります。そのまま研究者としての道を極めることも考えましたが、ミドリムシが世界を変えるには、その仕組みが具体的に社会実装されなければ意味がない。そのためには、学術界だけでなく一般社会からも必要とされる存在になりたいと考え、出雲、福本とともに株式会社ユーグレナの立ち上げに参加することにしました。

当初の課題は、ミドリムシを事業として成り立たせるために、これを大量に安定的に培養することでした。ミドリムシは栄養が豊富なので、他の生物にすぐ食べられてしまう。ミドリムシだけを培養する方法を確立するのにもっとも苦労しました。最初は耳かき一杯が限界だったのが、一度に両手で抱えきれない量のミドリムシ粉末を得られるようになったときは、とても大きな感慨を得ました。これは、各大学の研究者や、提携企業の協力なくしては達成できなかったことです。また、ミドリムシを使った商品がコンビニで取り扱われるようになったときは、「とうとう流通に乗ってみんなの手元に届く日が来たんだ」と、また別の感動がありました。現在、ミドリムシを使った商品として、食品、化粧品やペットフードなどが流通していますが、ゆくゆくは化石資源由来の燃料やプラスチック、合成繊維なども、ミドリムシから作ったものに置き換わるなど、衣食住すべてにミドリムシが適用できるくらいになれるように研究開発を進めています。特に注力しているのがバイオ燃料。ミドリムシから抽出した油を加工すると、飛行機のジェット燃料や、ディーゼル燃料として使えることが分かっています。まだ研究段階ですが、2020年までに実用化する計画です。化石資源は掘り尽くせばなくなってしまう不可逆な素材ですし、燃やせばCO2を排出します。これを、ミドリムシを使った可逆性を持った素材に変えれば、燃やしてもまたミドリムシがCO2を吸収し、酸素と栄養素を作り出せる。物質循環に寄与した、究極のエコシステムを生み出すことができるのです。食品や化粧品といった分野で社会のニーズに応え、その市場での売上から資金を調達し、ジェット燃料の開発などの環境問題を見据えた長期的な取り組みにもさらに投資ができる。これは、私が研究職に専念していたら、決してできなかったことでしょう。

ミドリムシ一極集中から
バイオテクノロジー全般へ

ミドリムシは、報告されているだけでも100種類以上あります。それぞれに個性があって、育ち方や作り出すもの、適した利用方法も微妙に違いますし、まだまだ研究段階で分かっていないこともたくさんあります。それでも今日まで研究開発を進め、事業を拡大することができたのは、データの提供や共同研究に応じてくれた各大学の研究室、生産や販売を担ってくれた様々な企業、生産拠点の石垣島の方々、そして投資や流通などの面で手を組んでくれた様々なジャンルのトップ企業のおかげです。今後も、彼らのような独自の発想や技術などのスペシャリティを持つ人たちとのコミュニケーションを大事にしていきたいですし、そのためには、私たち自身が替えの利かないスペシャリティや可能性を持った存在として、研究パートナー、ビジネスパートナーとしてのメリットを提示していかなければなりません。また、これからはミドリムシ以外の素材や研究テーマにも積極的に目を向けていく必要があるでしょう。ミドリムシだけに注力してきた一極集中型の投資や市場獲得を行う弱者の戦略から、自分たちのセグメントをもっと広く捉え、バイオテクノロジー全般に事業ドメインを拡大していくステージに変わってきているのではないかと思います。ミドリムシだけが唯一無二の素材なのだ、と独善的になるのではなく、他の素材の可能性も検証することによって、あらためてミドリムシのよさを客観的に判断することにもつながりますし、また、これまでミドリムシのみで目指してきた理念の達成を、結果的に早めてくれるのではないかと期待しています。

人間を中心とした生態系において、私たちは捕食者であり、不要なものを排泄してそれをバクテリアが分解し、植物などの生産者が再び必要なものへと循環させています。ユーグレナ社もまた、社会の中で新しい可能性を供給し続ける「生産者」でありたいと常に考えています。バイオテクノロジーで人と地球を健康にしたい。それが私たちユーグレナ社の願いであり、理念です。これからも熱意と誠意を持った仲間たちとともに、科学技術とものづくりの輪をさらに広げていき、社会をドライブする力に変えていく。そのための枠組みであり続けたいですね。